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トグこと。


生きていると、辛いことや悲しいことがある。


そんな時、

私は、包丁を研ぐことにしている。



テストの点数が悪かった時も、


自分の納得のいく料理が作れなくて、

落ち込んだ時も、


……両親が、亡くなった時も、、、



私は一人、、台所で包丁を研ぐ。


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土曜日のお昼。

カーテンから、暖かい陽の光が差し込む。


リビングには、

お母さんと、お父さんと、私と、猫のタマ。


みんなで映画のDVDを見たり、

学校や仕事の話をしたり、

買ってきたスイーツを食べたり、、、


私の一番好きな時間だった。


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ある日、小学校から帰ってくると、

親戚のおじちゃんと、おばちゃんが家にいた。


「お母さんはー?」

と、おばちゃんに聞いた。


そしたら、おばちゃんは、

「お母さんはね、、、、」


と言った後、固まってしまったので、

不思議に思っていると、



「今日は、おじちゃんのおうちで、

   ふわふわたまごのオムライス、

  一緒に食べよっか……!」

と、おじちゃんが言った。


おじちゃんとおばちゃんは、

洋食屋さんをしていた。


小さい頃から両親とよく食べに行っていたので、

お店に行けるのが、嬉しかった。



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……それからずっと、、


私は、

おじちゃんとおばちゃんの家で暮らしている。





後から知ったことは、


あの日……



母は、、

朝、私が玄関に置き忘れた体操服を、

小学校まで届けようとしてくれたこと。



家近くの横断歩道で、

居眠り運転のトラックが、

歩道に突っ込んだこと。



母の知らせを聞いた父は、

気が動転してしまい、

パニックになって、、、


……電車の線路に、飛び込んだこと。




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今、私は高校生。

休みの日は、洋食屋の手伝いをしている。



…高校を卒業したら、調理の専門学校に行って、

いつか、、洋食屋を継ぎたいなぁと、

ひそかに思っている。





…今日は、土曜日。


夕方。閉店後。

私は、包丁を研いでいた。




……お昼頃に来たお客さん、

お父さんと、お母さんと、高校生の娘。


楽しそうに会話しながら、

みんな一緒に、ハンバーグを食べていた。




……もし、


私の父と母が生きていたら____


そう思うと、、息が苦しくなった。


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長時間研ぎ続け、綺麗になった包丁。


それを見て、私の心も落ち着く。


包丁を研いでいると、心まで、

スーッと、綺麗になっていくような気がする。




……私は、研いだ包丁を目の高さまで持ち上げ、

刃先を見つめた。



そして、こう思った。



「父や母が生きていても、、いなくても、

   私の人生は、

   私自身で研ぎ続けなければならない。


   そして、自分の力で、

    人生を幸せにするのだ…。」


………と。






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