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[小説] X-AIDER-クロスエイダー- (6)

 インベーダーは、低くうなりながら、ぼくにどすどすと近づいた。
「ここは通さない!」
 ぼくは、門の前に立つ。
「そんなに行きたいのなら、ぼくを倒してから行け」
 ぼくの挑発に、やつは乗った。
 ドスドス、ドス。
 熱い息が鼻先にかかる。ぼくは重い荷物を押すように相手を両手で押し返す。インベーダーも押してきて、しばらくは押し合いへしあいの応酬が続いた。インベーダーのずうたいは大きかったが、クロスエイダーになると、軽々と押せた。
「すごい……」
 ぼくは、ニヤニヤしそうになるのをこらえながら、さらに力を入れる。
「えーい!」
 ものすごい気合のわりには微妙な掛け声で手のひらに力を入れると、インベーダーの体は、反対側に飛んでいった。さらにぼくは、追い打ちをかけるように、長い尻尾をつかんで、野球の試合でタオルを回すようにぐるぐると回した後に、三メートル先の空き地まで投げた。幸いなことに、落ちたところには柔らかい草が生えていたので、インベーダー––と、言うよりは宿主のチャロ––は怪我をせずに済んだ。
「グウウ……」
 ゆっくりと体を起き上がらせるインベーダーを見ていると、猫の声が聞こえてきた。
「少年よ、すまないがちょっと譲ってくれ」
「え?」
 ポカンとしていると、また精神体に戻った。目の前にはクロスエイダーの”視界”が映し出されている。猫に体の主導権が渡ったクロスエイダーは、相手を見やると、右手を構えた。すると、右手を囲むように、光の輪が現れた。
「くらえ」
 クロスエイダーは、それを相手に向かって投げる。光の輪は、インベーダーの鼻先に見事に命中した。
「グワアアアアア」
 インベーダーは仰向けに倒れた。畳み掛けるようにもう一回。さらにもう一回。しつこく攻撃してくる相手に怒りが爆発したのか、インベーダーは、起き上がるなりカッと口を開いた。すると、口の中からビームが放たれた。クロスエイダーは、それをひらりとかわしつつ、蹴りを入れた。しかし、インベーダーの方も負けてはいなかった。相手が着地したタイミングで、ビームを再び放つ。クロスエイダーは、近くの茂みまでそのまま吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫?」
 猫がああ、何とかと言って立ち上がる。猫は突進しようとするインベーダーに馬乗りになり。そのままの状態で、両手で殴り出した。一方的にされるがままになっているインベーダーの姿を見ていると、何だかかわいそうになってくる。
「ねえ、ちょっとやりすぎじゃない?」
 ぼくがそう言っても、猫は答えない。攻撃は次第にエスカレートしていく。憎いという思いよりも、かわいそうという思いが頭の中を支配しかけたその時、直接何か唸るような音が聞こえてきた。それは犬の声で、おそらくチャロのものだった。
「ウ……ウウ」
 その声は、まるで泣いているように聞こえた。あの子は苦しんでいる。体をインベーダーにむしばまれて。
「あ……」
「どうした少年?」
 猫にぼくは言う。
「これ以上はだめだ!」
「なぜ?」
「これ以上やってたら、もっと苦しんじゃう」
 ぼくの言葉に、猫はこう答えた。
「仕方ないだろう、ジャックされたものは元には戻らないから」
「仕方なくないよ!」
 ぼくは、体の主導権を猫から奪った。
「は?」
「借りるよ」
 ぼくは離れたところに飛び退く。
「とりつかれているんだから、そいつを逃せば大丈夫だよ」
 ぼくは左腕を前に構えた。そうすると、手のひらにV字に曲がった光が現れた。光の弓だ。
「チャロ、今助けてあげるからね」
 ぼくは、握りしめた右手を顔の横に持っていく。すると光の矢が現れた。ぼくはそのまま手を離す。光の矢が放たれ、光の軌跡を描きながら、インベーダーの胸元に当たった。
「グワァァァァァ」
 インベーダーは、叫び声を上げながら白い光になっていった。白い光は次第に小さくなっていった。

(続く)

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