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ノスタルジア 【詩/現代詩】

1.

わずかに
重心が

移動する

雨だ

ここは斜面になっている
今まで気づかなかった

(泣きそうになる)

重心が 安定しない

半月板 が うめく

(ここには むかし
 中華料理屋があったな
 店の中が真っ赤だった
 メニューは覚えていない)

雨だ
落ち着かない 重心が
ときどき 雨だ

(嫌な思い出しかないのに
 妙に懐かしい
 もう来たくはないが
 もう存在しない)

…動物専用アパートがあった

狐が半分しか見えないうどん屋とかも...

支えている ふるえるつま先で
オーバードーズしている頭の中
重心がかたむく

雨だ

2.

鉄筋コンクリートの中に
プレハブがある

この悪夢の構造物に
地球最大のコンピュータが居座り
ファンをビュンビュンまわしていた

夜もすがら
地響きを立てて 計算を続けた
だいたいは失敗に終わった
(傾いているせいなのか…)
ビルまるごとエラーメッセージを出している

その日も
僕は
麻婆豆腐を注文した

店の奥でゲロを吐いているアンドロイド

(ビュンビュン ビュンビュン)

3.

「こんなところで人生を消耗してていいの?」

(よく訊かれるが
 そんなこといわれてもな)

...MBVを聴きながら符号を投入しつづける

(ビュンビュン ビュンビュン)

...警告を無視して演算を続行する

(あなたは時間を奪われたサイボーグね)

重心を失った人工頭脳が
過剰学習のループに入っている


4.

僕はその日も
麻婆豆腐と老酒を注文した

(やつれたアンドロイドが料理を運んでくる)

頭の中で送風機がまわっている
メモリがオレンジ色に燃えている

(2024.8.14 修正)

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