Shioriという名前がくれたもの

 自助グループで初めてShioriという名前を使うようになってから、自分の気持ちを正直に話せるようになった。自助グループでは、学歴や職業、年齢、自助グループに通っている年数などに左右されない対等性があった。医師であるということを脇に置いて、一人の人間として話せる空間だった。

 Shioriという名前は、吉本ばななの小説『白河夜船』に出てくる“しおり”から取った。『白河夜船』が好きだった。眠っている場面とか眠りに関する文章ばかり出てくるので、解離しているようなこども時代の自分と重なった。私はこども時代、眠って眠っていつのまにか授業が終わっていつのまにか一日が終わったりし、眠ることで現実逃避し、眠ることでつらい気持ちを自覚してしまうことから守られている感覚があったが、この小説にも勝手に同じものを感じていた。また、『白河夜船』のしおりは、とても優しくて、悩みを抱える人と添い寝をする仕事をしており、その仕事にのめりこんでいて、悩みや暗さを隣に寝ている人からどんどん吸い取って、死んでしまう(自殺)。私は死なないけれど、一時期、しおりのようになりたかった。一見弱いようで実は芯が強い人間、自分がないくらいに相手に共感できる人間、そういう人間へのあこがれがあった。今となっては、それは共依存だと思うし、自分をなくしてまでやることではないんだなあと思う。

 今はもう自助グループに行っていないけれど、Shioriというもう一人の自分の名前がずっと好きだった。Shioriにならなければ等身大の自分を出せなかった。何かを実名で公表することをためらっていたのは、まだ他人にどう思われるか気にしていたからかなあ。自分の書いた文章で誰かが嫌な思いをしたり、誤解して傷ついたりしたら大変だと思っていた。でもそうやって他人の気持ちをコントロールしようとするのを手放して、自分の思ったように書いてみたらいい、と思えるようになった。そして最近、何かを隠すということもエネルギーがいることだと感じるようになり、いつかShioriと本名の自分を統合したいと思うようにもなった。それで、このnoteはShioriとして書き始めたのに、最近になって、本名で活動しているHPやTwitterのURLもnoteのプロフィール欄に普通に載せるようになった。何かしら成長したんだ、一歩だけでも進んだんだ、と思いたい。

 吉本ばななさんの本はほとんど全部好きだけど、『白河夜船』は私にとって特別な一冊。

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