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あなたは、わたしが守ろうとしなくても大丈夫。

「怪我をしたら危ないから」と、道に転がっている石をよけておくことは優しさなんだろうか。

たしかに、石をどけておけば、転倒や怪我のリスクは減る。本当に危ないときは、大声を出して、強引に手を引っ張ってでも止めた方がいい。周りが本人の代わりに危険察知をした方がいい場合もあるだろう。

ただ、私はなるべく自分の足で歩いていきたい。

転んで、怪我をすることだってあるだろう。痛みがあると「次に、歩くときは気を付けよう。」と学べる。少しずつ、自分で石を避けられるようになっていく。

だから、周りの人が危なっかしく見えても、なるべく黙っていたい。私は我慢が苦手で、ついつい口を出しそうになるけれど、本人の課題を先回りして奪ってはいけない。それは成長の可能性を潰してしまうことすらある。

石ころ②

相手の成長を見守ることは、ただの放置とはちがう。未知の領域に挑戦する人に合わせる。危険なときは介入できるようにスタンバイして、「自分でやってみよう」というときにはそっと手を引っ込める。見守りすら要らなそうなら、相手のことを忘れて自分のやるべきことをやる。

「あなたなら、できるようになる」と信じて、委ねる。長い目で、根気強く付き合い続ける。

「人間が自分や他人にしてやれることの話よ。それが、愛、でしょ? どこまで信じ切れるか、でしょ? でもそれをやろうとすることのほうが、考えたり話し合うよりどれだけ大変か。どれだけエネルギーを使い、不安か。」『アムリタ』よしもとばなな

自分の得意な分野では、相手を見守ることがもどかしくなってしまう。どうしてこんなに明白なのに見えていないのか。なぜ、簡単なことができないのかと焦れる。代わりにやってあげる方が確実な上に、早い。他の誰でもなく、自分が楽なのだ。

相手を信じるのは、不安なもの。相手に任せると、自分の思い通りにはいかない。中には、成長のスピードがゆっくりな人もいるし、ぐるっと回り道をしているように見える人もいる。

どこへ行くかは、誰にもわからない。本人の感覚や、やりやすい方法は周囲に伝わりづらく、時に不可解に映るかもしれない。結果が出る前から「そんな無謀な挑戦、うまくいくはずがない」と決めつけてしまうこともある。

誘導をしようとしても、根本的に相手を変えることはできない。こちらにしぶしぶ合わせてくれることはあっても、納得していなければ上っ面の作業でしかない。そこには、挑戦に伴う不安とないまぜの期待感も、学ぶ楽しさも、経験値を積んでいく達成感もない。中身がないから、血肉にならない。

どんなに近くにいても、相手の痛みも、苦しみも、喜びも、本人のものだ。どれもが、人生を彩ってくれる大切な要素のはず。共感はしても、肩代わりはできない。そこには確かな境界線がある。

無理をしてでも、手に入れたいものだってあるんだ。安全な道を選びたい人ばかりじゃない。私だって必要だと感じれば、危険な道や回り道を選んできた。自分の選択であれば、そこまで心配をしないし諦めもつく。

痛み

それなのに、身近な人だと変わってしまうのは、なぜだろう。近しい相手ほど自由であって欲しいと願うのに、冷静な判断ができなくなってしまう。

少し先の道に危険があると知っていれば「別の道に行ったら」と勧めたくなる。「相手のため」という美しい理由で包もうとしても、誤魔化せない。私がその人の苦しむ姿を見たくないだけだ。

本当は、そばにいるだけでいいと知っているのに。本人が不安な気持ちをこぼしたりしたときに、黙って寄り添えればいい。アドバイスが欲しいかどうかは本人が決めることだ。

落ち込んだときに、すぐに立ち直らなくてもいいはずだ。

「元気になってほしい」や「幸せで、笑っていてほしい」はこちらの勝手な願いに過ぎない。もちろん、相手が幸せそうにしていれば、私も安心するしうれしいけれど、時計の針を無理に進めるようなことをしてはいけない。

こんなにも私は不完全で、せっかちで、動揺しやすい。自分のことすら、思い通りに動かせない。いくら頭で考えたところで、心と体が言うことをきかないときもある。大きな流れには逆らえない。

ましてや、相手にとっての正解なんて、知る由もない。

もっと、「自分さえ頑張れば、周りの人を支えられるんじゃないか」という幻想を壊したい。保護と束縛は紙一重で、どちらも相手を信じて任せることからはほど遠い。

あなたは、わたしが守ろうとしなくても大丈夫。握りしめた手をほどいて、今を見つめたい。こぼれ落ちていくものは、そのままにして。

川の流れに逆らう必要はない。ここにいられる偶然に感謝をしたい。

この広い世界の中で、あなたらしく泳いでいくところを見せて。

二匹の魚②


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