_島津イラスト_ご近所さんマップ20180506

「あなたの理想の社会」と「わたしの理想の社会」はきっと違うから。

時給100円や、200円の賃金で、働いている人たちを知っていますか?

これは何も「アフリカの恵まれない子どもたち」のような遠いところでの話ではありません。日本の成人の障害者の工賃の話です。

この話をしても、多くの人はピンと来ないかもしれません。実際、私は大学を卒業してから、久しぶりにサークルの仲間に会ったときにこの話をしたら、ポカーンとされました。あのときは、ごめんなさい。

この経験があって「あ、私にとっての理想の社会と、目の前の人の理想の社会は、ものすごく大きな隔たりがあるんだろうな」と感じました。

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私は6年前の25歳のときに、障害福祉の世界で働きはじめました。就労継続支援のB型※1という作業所のような場所でした。

ここで働いているとき、利用者さんから工賃のクレームを言われることが何度かありました。40代のうつ病の男性のFさんに言われたことは、今でも忘れられません。

「先日、計算してみたら、時給が100円でした。情けない。40も過ぎた男が、何やっているんだろうって思います…。職員さんは、いいですよね。僕たちとは比べものにならないくらい、たくさんもらっているんですから。」

かなり切実な様子で、少しだけ涙を浮かべて言われました。

Fさんの言うことはもっともだと思ってしまい、何も言い返せなくなってしまいました。

平成29年度の厚生労働省の調査によると就労継続支援のB型の平均工賃は、15,603円。時給換算すると203円です。6年前はもっと低かったはずです。

お金の仕組みがちがうから、仕事の種類が違うから、だから、こんなに金額の差が出る。それは頭で分かっている。

でも、目の前の人にかける言葉がない。だって、私は「たしかに、こんなに差が出るのはおかしい」って思っていたのです。このときの経験は、すごく印象に残りました。

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私は一度、時給100円の世界を知ってしまったら、元には戻れなくなりました。

大卒のサークルの仲間と久しぶりに飲んだときに、ひとりがお給料に関する不満をもらしていました。

「ボーナスが低い。もっと給料もらわないと納得できない。」と言っていました。私はその愚痴に耐えきれず、つい聞いてしまいました。

「でも、同じ日本で、時給100円で働いている人がいるって、知っている?」静かに言ったつもりでしたが、半ギレは伝わってしまったかもしれません。

その子は、目をまるくして少し首をかしげました。ちょっと間があり、フイッと別の人に話かけました。

「ねえねえ、それより台湾旅行行かない?けっこう、安く行けるんだよ。豪華なホテルに泊まろうよー!」と、海外旅行の話に華を咲かせていました。

あ、住む世界がちがうんだ。

その子の反応を見て、ようやく気づきました。それは、こんなことを真剣に飲み会で言ったって、場が盛り下がるだけだし、ピンと来ないよなぁ。

どんなに大変そうな人がいるって聞いたって、自分の不満が無くなるわけではありません。比べること自体も、ナンセンスだったと反省しました。

きっと「こんな社会になったらいいな」は人によってちがうと思うのです。

台湾旅行に行った子の「こんな社会になったらいいな」は、「努力をして成果を出した人には、それだけの報酬を与える社会」かもしれません。

社会福祉に関心があるとしたら、自分が結婚して子どもを産むときに、どれだけ補助が受けられるかとかでしょうか。いずれにせよ、成人の障害者のお給料の話をしたのは、ピント外れでした。

彼女にとって「障害者の世界」は関係のないものなのです。ニュースで聞いたことときっと、同じです。

「こんな社会になったらいいな」を考えるとき、ほとんどの人が思い浮かぶのは「自分にとって理想の社会」じゃないでしょうか。私もそうでした。

だから、彼女に伝えたいのなら、彼女が「ピンとくる」ような話し方をしなければいけなかったなと反省しました。何に興味があるのか、どうやってつながるのか。

接点のある話し方で、それが彼女にもどんないいことがあるのか想像がつくように話さないと、わかるわけがないです。一方的に押し付けてしまいました。

もっと、接点を探ったりすることはできたはずです。共通の関心のところを見つけて、つなげればよかった。

「こんな社会になったらいいな」は、誰かひとりの「理想の社会」ではありません。それでは、独裁者の発想になってしまいます。

きっとたくさんの金額を集めるクラウドファンディングのような企画のことかなと思います。「これはいいなぁ」と色々な人が夢を見れる。関係がある人も、ない人もつい応援したくなる。

「これが実現したら、たくさんの人がしあわせになれそう」と人を巻き込むパワーがあるもののことだと思います。

スタートは誰かひとりの夢だったのかもしれません。それの精度を上げたり、他の人の視点も入れて「こんな要望も入れればいいのか」とパワーアップさせたり、時には自分側が折れたりして発展させていった先にあるのかもしれません。

きっと、1人の人の要望を100%叶えるのとは、ちがう場所に行きつくと思うのです。だって、それはたくさんの人の夢を乗せて変化させていっているのだから。

「完全に理想通りではないけれど、こっちの方がお互いのことを考えたらいいかもね。」と、遠い位置にいる人たちが言い合える。
そんな社会になったら、いいなと思います。

※1 就労継続支援B型…一般就労がむずかしい成人障害者が、雇用契約を結ばずに働くところ

2020年4月18日追記

就労継続支援B型に関するご指摘をいただきましたので、厚生労働省のリンクを貼っておきます。詳しく知りたい方は、こちらをご参考にしていただけるとありがたいです。


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