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ライティングも掛け算 ―留学とガリガリ君の例から―


××××に 蛍が一つ 付いていた
金子 兜太


米光先生:「さて、この××××に入る言葉は何でしょう」

私:「おくれ毛」
受講生:「グラサン」

笑い。

大喜利をやっているのではない。俳句の勉強をしているのでもない。

編集・ライター養成講座(即戦力コース)第4回目、本日のテーマは「言葉の連想の幅」。

言葉の連想の幅とは何だろうか。たとえば冒頭の句には蛍が登場する。蛍から連想される語には、光や闇などがある。「蛍の光」という曲名に対し、何ら違和感を感じない。これは連想の幅が「近い」からだ。一方蛍とグラサンだとどうか。この二語の連想の幅は「遠い」。この二者が引き起こす意外性が笑いを誘ったのだろう。

関連しないテーマ同士を掛け合わせて書く。これが出来るようになると、表現の幅が広がる。今日のレッスンのひとつだ。

これはイノベーションの考え方と似ていると思った。

イノベーションは二つの物事の掛け算だという考え方がある*1 。
掛け算によるイノベーションは枚挙にいとまがない。今や国民食となったカレーライスは、インド料理と西欧料理の組み合わせ。スマートフォンなら電話とコンピューター。突き詰めれば人間だって異なる二つの遺伝子の掛け合わせだ。思いもよらない二つのものが組み合わさったとき、全く新しい価値が生まれる。あるいは見る側をはっとさせる。和楽器のロックバンドが世界中で賞賛を集めたりする。これも意外な二つのテーマを組み合わせて価値を生み出した例だ。

ライティングに話を戻そう。書くことに迷ったとき、手を伸ばす本がある。『物語の作り方 ―ガルシア=マルケスのシナリオ教室―』。「百年の孤独」などで知られる作家マルケスのシナリオ講座が本になったものだ。マルケスのアドバイスが奇想天外で、読み物としても面白い。その中にこんな一節がある。

フィクションというのはある決まりにしたがって作るものじゃなくて、例外をもとにして作るものなんだ。ストーリーは偶然が多く含まれていればいるほど、面白いものになる    (ガブリエル・ガルシア=マルケス)

意外なもの同士を組み合わせる。このレシピは万国共通なのだろう。

しかしこれが言うほど容易くない。100パーセント関係のないものなんて、本来なかなかない。講義中に「不連想ゲーム」というのをやった。自分が決めたテーマと全く関係のない言葉を制限時間いっぱい挙げていく。私のテーマは「オンライン留学」。オンラインで海外の学校の授業を受ける動きのことだ。関係のない言葉として挙げたもののなかに「ガリガリ君」があった。これには自信があった。しかし後になってはたと気付く。「オンライン留学」は、日本にいながらインターネットで海外大学の授業を受けるわけだ。中には近所のコンビニで買ってきたガリガリ君をかじりながら講義を聞く人だっているかもしれない。

ちなみに冒頭の句の正解は、「おおかみに蛍が一つ付いていた」(金子兜太)だ。

おおかみと、蛍。


道のりは長い。


*1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2016)「オープンイノベーション白書 第三版」等

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