オフェンスポジショニング ビルドアップは前で決まる

オフェンスポジショニングシリーズ。
第4弾。
↓シリーズ過去作

(第3弾は有料)


今回はビルドアップについて。

「ビルドアップ」の定義は様々ありそうなので、本稿では
「ボールと最終ラインがD3にある状態から、マイボールのままボールと最終ラインがM3以上まで進むこと」
としておく。
D3=ディフェンディングサード=コートを3分割した際の自陣1/3
M3=ミドルサード=〃の中盤1/3
A3=アタッキングサード=〃の相手陣1/3

そのビルドアップにおけるポジショニングで「そこばっかり調整しても、こっちをどうにかしなければ上手くいかないぜ」というのが今回のテーマ。

ビルドアップのシーン。
多くの場合、後方の選手の人数と相手のプレッシャーをかけてくる人数で数的優位を作ることに注目する。

黒塗りされていないエリアの優位に注目しがち

後方でフリーを作りながらジワジワと進んで行くイメージで、後方の数的優位に注目してそこを優先的に調整するのだと思う。

だがしかし。
そこにどんなに数的優位を作ろうとしても、実際は上手くいかないことが多い。
なぜか。
攻撃側が後方に数的優位を作ろうと下がるほど、後方のスペースは消え、守備側は前に出て行きやすくなるから。

ポイントは「攻撃側の前線」にある。
ちょっと言葉を足すと「攻撃側の前線が、味方攻撃側後方へ与える安心感と、相手守備側へ与える恐怖心」とも言える。

まずいくつかの原理を。

『ボールが前に進まないと後方にスペースは生まれない』
D3で後方の選手がただ横方向にボールを繋いでいても、ジワジワと守備が迫ってきて自ゴールラインに追いやられてスペースが無くなるだけ。
前にボールを動かすことで、守備が下がって後方にスペースができる。
効果的に前にボールを進めるために後ろで繋ぎたいが、後ろで繋ぐためには一度は前にボールを動かす必要がある、という意地悪な原理。

『攻撃側前線に脅威が少ないほど、守備側は積極的に前にボールを奪いに行きやすい』
守備側の心理として、攻撃側前線に怖さを感じるほどそこにリソース(主に人数)を割こうとするため、もし前(攻撃側の攻撃方向)にボールを出されても怖いと感じなければ、守備側後方をスカスカにすることを厭わず勢いよくボールを奪いに出て行けることになる。

『攻撃側後方の選手は、攻撃側前線にボールを渡した後の展開が優位にならないと感じた場合、前線にボールを出すことを躊躇する』
攻撃側後方のボーラーに時間とスペースを作って前線にパスを入れられる状態になったところで、そのパスを入れた後に奪われそうだったり先に進めなそうだったりする場合は、ボーラーはパスを入れることを躊躇し、前線にボールを渡すことを見送るという現象は珍しくない。
前線がどんなに要求していても、後方からの景色で未来が見えないとそこにボールを渡すことは難しい。

これらのような原理がある。
つまり、後方に優位を作ろうと後方だけでボールを回していてもいつかは追い詰められてしまうが、かといって前線にボールを入れようにもそこで優位が見えなければ前線にはボールを出せずやっぱり追い詰められてしまう、という現象が起きるということ。

ビルドアップを上手くやろうとする際に、後方の数的優位にばかり目を向けがちだが、もしそれで上手くいっていないのであれば、前線の優位の作り方に問題があると考えるべき。
ここを見落としてはいけない。
というかベストは、前線で作れる優位から逆算して後方の優位を作るためのリソース分配を考えること。
じゃないとビルドアップの目的である「進む」が困難になってしまう。


では、その前線に優位を作る手段にはどんなのがあるか。

  • 前線に数的優位な場所を作る

  • 前方にパスが入った後にパスが継続可能なルートを作る

  • デスマルケも含めた個人の質的優位

あたりが考えられるか。

数的優位を作る例

パス継続ルートを作る例

この例のように前線に優位を作れれば、いつまで経っても前にボールが行かない、というような現象は解決する可能性が高まる。
ありがちなポジショナルプレーとかいって前線がただ広がっている形とは違う、ということも言っておきたい。
前線のポジショニングで優位が発生していなければ、前進するという目的の達成は難しい。

個人の質的優位に関してはこういう図で表せられるものではないが、タイミングよくボーラーから出せる時に現れて「こいつに預けとけば安心だ」と思わせる信用があれば問題は解決するだろう。
ちなみに、よく味方後方選手に「出せよ!」って訴えてる前線の選手がいるけど、そんな選手には「いくら訴えてもなかなかボールが出てこないなら、それは後方の味方が悪いんじゃなくて、訴えてる君自身が悪い状態にあるか、信用がないか、のどちらかの可能性が高いんやで」という言葉を送る。

前線に優位が作れるようになると、相手守備はそこにリソースを割く選択肢が生まれ、その影響で味方後方はスペースと時間を新たに得る可能性も出てくる。
そうなれば「後方でフリーを作りながらジワジワと進んで行く」という練習でイメージしているような形も作りやすくなるかもしれない。
だから後方にやたらとリソースを割くより、勇気を持って前線にもリソースを割くことが重要。

ただ、前線に優位を作るようにする際に気をつけたいのは、ボールの動きが前方に加速しすぎてしまうこと。
「後方でフリーを作りながらジワジワと進んで行く」をみんながやりたいのは、ボールと一緒にチーム全体で前に進みたいから、のはず。
でも優位を作った前線にボールが入るようになると、そのまま前線の優位を使って相手ゴールまで行こうとしてしまう現象もよくあること。
それが悪いわけではないが、後方と前線が分断された状態でもし相手にボールを奪われると、奪われた後の対応が難しくなり、せっかくボールを進めたにも関わらず、すぐに相手ボールとしてボールが戻ってくることにもなりかねない。
「ビルドアップ」の定義を本稿では「ボールと最終ラインがD3にある状態から、マイボールのままボールと最終ラインがM3以上まで進むこと」としたが、最終ラインがM3まで進まない内に相手にボールを奪われてしまってはビルドアップが成功したとは言えない。
ボールが前線に入り、そこでスペースと時間を得たボーラーを生み出すことが出来れば、相手守備を押し下げることができ、かつ味方後方を押し上げることができるので、そこからどのように相手ゴールに迫るかは、チームとして適切な判断をしたいところ。


話を戻して。
この前線に優位を作るってことに関して、やっぱり足が速い前線の選手がいることは圧倒的に得をする。
だってそれだけで相手守備は前に出ることを躊躇するから。
ということはその選手への足元へのパスも通りやすくもなるし。
パスがズレても追いついてキープする可能性も上がるし。
もちろん相手が近くいる状態でボールをコントロールするスキルは必須だけど。

そういう個人の質的優位で言えば。
本稿では後方のリソースを最低限にすることを推奨するわけだけど、「それじゃあ後方で優位が作れないじゃん」という声もありそう。
でもそこで言いたいのは「それこそみんな大好き個の力でどうにかしてみなさいよ」とも思う。
後方に多くのリソースを割いたところで前進の期待値は意外と上がらないことは前述の通り。
(チームで)前進するという目的に対して、後方で優位を作ることはただの手段なので、前線に優位を作ったのであれば、後方はその残ったリソースでなんとかするスキルやらを備えるべき。
スキル不足の全てをチーム戦術という手段で補うことは難しい。
目的に対してより効果的な手段の実現を目指したい。


以上、ビルドアップは前で決まるというお話。
「うちのチームはビルドアップで上手く進めないんだよな〜」という人は参考にしてみてください。

余談ですが、サッカー中継で映像が寄りすぎてると、この重要な前線の形が見えなくて、ビルドアップの問題点がわかりづらい時がよくあります。


おわり


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