ヘイコウのうた
君は躊躇なく階段を駆けおりる。
薄汚く薄暗いその階段、地下道はあそこへ続いている。けれど君はそんなことは知らない。
踊り場で折り返し、さらに深く地上から遠退き、これ以上降りることができなくなってふと顔をあげる。そして傍らにあるATMで現金を下ろす。
なぜ金を下ろすかって?
そこにATMがあるからだ。それ以外の理由なんて必要ない。君はそれをポケットにいれる。
目の前には川が流れている。見上げるとわずかな世界の切れ間に☆が瞬いている。
聞こえてくる笛は風の音、陽気な歌声は獣の慟哭、キィキィと耳障りなヴァイオリンは、川面に浮かぶ一艘のゴンドラが揺れる音。
♪
さぁ歌おう☆
さぁ踊ろう
明日はどっちだ ☆
昨日はどっちだ ☆☆
川の流れは西の空から
雲の流れは東の海から ☆
さぁ向かおう ☆ ☆
さぁ戻ろう
西はどっちだ ☆
東はどっちだ
時間はまっすぐ平行線
君は閉口 川は並行 ☆
やれ行けそれ行け
明日はこっちだ ☆☆ ☆
昨日はこっちだ
君は閉口 川は平行 ☆
どこまで行っても交わらぬ
君は閉口 川は並行
さぁ歌おう ☆ ☆☆
さぁ踊ろう ☆
さぁ向かおう ☆
さぁ戻ろう……
君は躊躇いなくゴンドラに飛び乗る。
明日はこっちだ。
船頭は口を歪め、君は彼の薄汚い手に金を渡す。
笛は鳴りやまぬ、歌声は一層高らかに、ヴァイオリンはギィギィと耳障りな音を出し続けている。
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