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掌編/うたたねと茜空
うたたねと茜空 茜がその日に見たのは、ふつうの青い青い空だった。
雨など降りそうになく、そのことが少し憂鬱で、すべて放ったらかして飲みに出かけようかと考えたりもしていた。
開け放った縁側から暑くも寒くもない穏やかな風にのせて、品のない笑い声が裏の家から聞こえてくる。ここらあたりに住む人たちは良くいえば豪快、悪くいえば野蛮という言葉が似つかわしく、喧嘩しているようなやりとりは明日の祭りの打ち
短編小説/ならないおなら
プゥと音がした。
「またぁ? コージくん……」
担任の居川先生が教壇の上から呆れ顔を向けたのは、最前列ど真ん中に座る光司(コージ)だ。その後ろの席の芽衣(メイ)は漂って来た匂いに鼻をつまんだ。
「わりぃ、メイ」
「もうっ! サイアク」
メイが机の下で右足を振り上げて前の椅子を蹴る。
コージの隣の将(マサキ)が「くっせぇ、くっせぇ」と両手をひらひらさせた。教室内はいつものごとく爆
掌編/ある日、森のなか
遠く、近くから囀りが聞こえ、梢を渡る羽音が右から、左から。ガサガサと草むらを荒らした何者かが背後を過ぎり、すべてが静まると水音が辛うじて耳に届く。天を仰げば空は一面枝葉に覆われ、その合間からぽつりぽつりと漏れ入ってくる陽光は煌めく星のよう。森に入り口というものがあるとすれば、それはどこだったのか。
その日、お嬢は町外れにある神社へと一人向かっていたのでした。縁結びに大層ご利益があるという鄙び
掌編/午前3時の来訪者
はげしい雨音で目が覚めた。蒸し暑さに数センチ開けていた窓から雨が吹き込んでいる。カーテンが揺れた。
フラッシュがたかれたような光、間をおかず轟音が鳴り響いた。一瞬見えた置き時計は3時を示していた。彼が来る時刻だ。
私はベッドから体を起こし、窓を全開にした。
「こんばんは」
彼はのそりと部屋に入り込む。いつものことながら鼻を突く獣臭。ずんぐりと太った胴体は泥まみれだ。
「どうして雨