Vol.9 -一期一会-
>>>Vol.8より続く
【2016/11/15記-Facebookの未公開グループに投稿】
手術を拒んだからといって、もちろん、妻も私も生きることを諦めていたわけではなく、癌を抑え込むために、自己免疫力を高める可能性があるものを積極的に取り入れていました。
かねてから通っていた信頼できる施術師の先生に身体をほぐしてもらう回数を増やし、家や車内ではヒーリング音楽を流し続け、お気に入りのレストランで美味しい食事を味わいながら2人で楽しい会話を楽しみ…
しかし、一方で、お互いに口にはしないまでも、
「このお店に来るのも、そしてこのお店のオーナーに会うのもこれが最後になるかもしれない…」
という、まさに “一期一会” の心持ちで、2人で築いた馴染みのお店を巡っていたのです。
-写真- 大好きだった八ヶ岳に最後のドライブ
また、
「もう蓼科に家が建つことはないだろうから…」
と、土地の売却手続きを取るため、これが最後になるかもしれないとの思いで大好きだった蓼科~軽井沢にも足を伸ばしました。
「もう少し自宅から信州が近かったらなあ~」
そんなときでした。偶然、愛犬達の散歩でたびたび訪れていた三田市で、いい物件が売りに出されているのをWEBで見つけたのです。
さっそく妻と共にその物件を見に行ったところ、
「よし、まだ元気なうちに、ここを娘や孫のための別荘にするべく、部屋を彩るぞー」
と彼女が乗り気になり、
「蓼科の土地が三田の保養所に化けたなあ(笑)」
と、物件に出会ってわずか2週間足らずのうちに妻と二人、名実ともに保養所としてこの格安物件を購入し、三田市での生活がスタートしたのです。
-写真- 夢のひとつだった薪ストーブを山荘に設置
すぐご近所では素敵なカフェレストラン (=あぷりこーぜ) でランチを楽しむことも出来、妻は、
「ここの空気は甘いなあ~」
と、毎日のように呟いていました。
もしかしたらこのまま癌が消え失せてくれるのではないかと思えるような、そんな穏やかな日々が続きました。
ところが、社員はもとより、親しい人たちにも絶対に秘匿するよう銀行から言われていたM&Aが成立し、
「あー これでもう何にも思い残すことはないわ…」
と、業務の引継ぎが終わった直後から妻の容態が急速に悪化。もはや山荘に留まれる状態ではなくなってしまったのです。
-写真- 日課だった朝夕の散歩に足繁く通った小野公園
「死ぬために雲雀丘へ帰る。」
いよいよ最期のときが近づいていました。
次回最終回です>>>
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