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5.社会科学

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書評:岩田温『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』

書評:岩田温『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』

知性主義的な「リベラル」を求めて今回ご紹介するのは、岩田温『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』という著作。

リベラルとは本来、「政治的リベラリズム」という思想的系譜から導かれる政治的立場を意味する。
それは、保守主義の立場ではカバーすることができなくなったような新たな「人権的価値」、特に社会的弱者のそれをより積極的に保護していくための政策や対策、手段の行使の重要性を訴えることを特

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書評:ダグラス・マレー『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』

書評:ダグラス・マレー『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』

ジャーナリズムの告発と立論の特徴とは今回ご紹介するのは、ダグラス・マレー『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』という著作。

読んだのは2年以上前で、長らく紹介したい本とは全く捉えていなかったのであるが、オリンピック観戦のためてんで進まぬ読書の穴埋めという本音9割と、最近思うところを語る上でのお供になり得るとの考え直し1割で、今回取り上げることとした。

本著のテーマは、「ヨーロッパへの

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書評:篠田英朗『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』

書評:篠田英朗『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』

国際政治学の初学者に向けた学びの「準備」として今回ご紹介するのは、篠田英朗『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』という著作。

国際政治学の世界にはいくつかの代表的な理論がある。
社会科学、就中国際政治学において理論とは、世界の一つの見方の体系を意味するが、むしろいずれも「一つの見方にしか過ぎない」と敢えて言い切ることが重要だ。

ある理論の立場から世界を見れば世界は◯◯のよう

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書評:オルテガ・イ・ガセット『個人と社会』

書評:オルテガ・イ・ガセット『個人と社会』

社会学のメタ次元照射で浮かび上がる権力としての社会論オルテガは主に20世紀前半に活躍したスペインの高名な社会学者であり、その研究が究極的に目指したところは「社会学の形而上学的基礎の追求」であったとされる。

この見地から見れば、日本で最も読まれている『大衆の反逆』も「大衆」というより個別的な概念を論じるに留まった著作であり、オルテガ社会学の第1章に過ぎないということができるだろう。

事実『大衆の

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書評:ユルゲン・ハーバーマス『デモクラシーか資本主義か 危機のなかのヨーロッパ』

書評:ユルゲン・ハーバーマス『デモクラシーか資本主義か 危機のなかのヨーロッパ』

規範としての民主主義は復興できるか?冒頭本の話ではないのであるが(←余談から入る投稿は久しぶりな気がする)、今後は自分で撮影した本の写真にもちょっとこだわりを込めてみたいと考えている。

さて、本題である。

今回ご紹介するのは、ユルゲン・ハーバーマス『デモクラシーか資本主義か 危機のなかのヨーロッパ』という著作。

本著のタイトル、実は敢えて少し挑発的かもしれない。
というのは、「デモクラシーか

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書評:田中明彦『新しい中世』

書評:田中明彦『新しい中世』

国際政治学における理論の先にあるもの本日ご紹介するのは、田中明彦『新しい中世』という著作。

本著は、単行本の初版が発売されたのが冷戦終了後すぐの1996年のことであり、現在の文庫版は2017年の発売ながら、基本的にはほとんど1996年当時の内容のまま出版されている。

私自身はちょうど1996年から大学生になったこともあり、単行本版を当時学業の一環として読んだのだが、国際政治学における基本的な理

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書評:藤原帰一『不安定化する世界 何が終わり、何が変わったのか』

書評:藤原帰一『不安定化する世界 何が終わり、何が変わったのか』

国際政治の「時事」というフィールドにおける学者の知力と覚悟本日ご紹介するのは、藤原帰一『不安定化する世界 何が終わり、何が変わったのか』という著作。

藤原先生は東京大学の国際政治の教授であるが、国際政治という学問分野では、理論化に力点をおくスタイルの方と、分析に力的をおくスタイルの方がおられる。

これらは共に大切な研究アプローチであり、そこに優劣はない。

ただ私の印象では、藤原先生は現在の分

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書評:広井良典『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』

書評:広井良典『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』

ポスト資本主義のモデルとしての定常化社会論今回ご紹介するのは、今やポスト資本主義論において定常型社会主張のオピニオン・リーダーとも目される広井良典氏の『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』という著作。

一般に未来に関する言論には大きく分けて、「どうなっていくか」という予測型と、「どうしていくべきか」という提言型の2種類があると言える。

本著に限らず未来に係る言論に触れるにあたっては、当該言

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書評:ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』

書評:ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』

近代以前の資本主義史を辿る本日ご紹介するのは、ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』という著作。

本著は資本主義の歴史を巡る著作であるが、主に近代資本主義以前に大半を割いているのが特徴的だ。

一般に近代資本主義とは、産業革命を契機に「生産」という活動を資本主義がその内部に大規模に取り込んだ時代以降を指す言葉と言うことができる。

その理解から言えば、近代以前の資本主義とは、「生産」活動が経済システ

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書評:ロバート・A・ダール『デモクラシーとは何か』

書評:ロバート・A・ダール『デモクラシーとは何か』

デモクラシーの理念と現実の基礎を包括的に捉える案内書今回ご紹介するのは、ロバート・A・ダール『デモクラシーとは何か』という著作。

ダールは、現代におけるデモクラシー(民主政治)の理念型を「ポリアーキー」という名の下に精緻にデザインしたことで、現代政治学に多大なる功績を残した政治学者である。

※「ポリアーキー」についてはいずれ別途、岩波文庫のダール『ポリアーキー』をご紹介できればと思う。

本著

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書評:ヘンリー・キッシンジャー『国際秩序』

書評:ヘンリー・キッシンジャー『国際秩序』

アメリカの知の巨人による国際秩序の総括と展望今回ご紹介するのは、ヘンリー・キッシンジャー『国際秩序』という著作。

キッシンジャーは、アメリカのニクソン政権・フォード政権期に国家安全保障問題担当大統領補佐官、国務長官を務めた実務家であり、且つ90歳を超えた現在もシンクタンクにてアメリカの外交政策に強い影響力を持つ頭脳派の人物である。

キッシンジャーについては所謂「ユダヤ陰謀論」界隈で悪名高く語ら

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書評:寺島実郎『中東・エネルギー・地政学』

書評:寺島実郎『中東・エネルギー・地政学』

ビジネスマンが足で稼いだ生きた中東論今回ご紹介するのは、寺島実郎『中東・エネルギー・地政学』という著作。

三井物産出身のビジネスマン寺島実郎氏による、「足で稼いだ生の中東理解」の書である。

中東に関しては、昨年開始早々(新型コロナ問題深刻化以前の1月初頭)に起こった、米軍によるイランの軍人ソレイマニ(スレイマン)の暗殺(ドローンによるピンポイント攻撃)が記憶に新しい。

当然これを端緒とする緊

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書評:長沼伸一郎『現代経済学の直観的方法』

書評:長沼伸一郎『現代経済学の直観的方法』

現代経済学の基礎を押さえながら資本主義経済の限界に対する新たな視点を提示する優れた著作今回ご紹介するのは、長沼伸一郎『現代経済学の直観的方法』という著作。

経済学を未学者に対し、例をふんだんに用いながらわかりやすく説明した著作である。

経済学についてあらかたの知識を有する読者にとっては、全編が全編読み応えがあるわけでは正直ないのであるが、それでもところどころに優れた記述が散りばめられており、通

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書評:山内昌之編著『中東とISの地政学』

書評:山内昌之編著『中東とISの地政学』

各界の中東専門家が集いし小論説集今回ご紹介するのは、山内昌之編著『中東とISの地政学』という著作。

中央アジア、中東研究の大家である山内昌之先生のもとに集いし執筆陣が、各々がテーマを設定し小論説を展開するという構成の著作である。

中東は恐らく多くの一般日本人にとって捉え難いエリアではないだろうか。当然私にとっても然りである。

しかしながら21世紀に入って以降、中東が世界の火薬庫としての存在感

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