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状況ターゲティングの時代に備える 後編

前編に引き続き、状況ターゲティングについて考えたいと思います。

狭義の状況ターゲティング

前編でも書かせて頂いた通り、状況ターゲティングにおいて、より現実的に実践の幅が広いのが「狭義」の状況ターゲティングです。そしてその中でも、特に既存製品・サービスのチューニングの領域は、適用範囲が広く、今後多くの場面で取り組みが伸びるのではないかと考えています。

前編はこちらをごらんください→

狭義の状況ターゲティングでは、既存製品やサービスのチューニングを行います。理想的には4P(プロダクト、価格、チャネル、プロモーション)全体のチューニングが求められます。

その為には前提として、既存製品やサービスが、実は自社でも認識していなかった「ジョブ」に対して「雇用」されている。この「想定外のジョブ」を捉える必要があります。

前回ご紹介したミルクシェーキの例で言えば、「朝の通勤中に手持ち無沙汰なので、腹持ちがよく、暇つぶしになるので、ミルクシェーキを雇用している」というジョブの発見がまず前提となるわけです。

では、どのようにしてそのジョブを発見すれば良いのでしょうか?クリスセンテンス氏のジョブ理論では、「行動観察」等を提唱しているわけですが、ソーシャルが発達した現在では「ソーシャル・リスニング」がその有効打となるかもしれません。

ワークマンにおけるジョブの再発見

今、最も勢いのあるアパレル企業の一つと言えば「ワークマン・プラス」とです。私も大好きなブランドなのですが、ワークマンプラス登場の背景に、この、既存製品やサービスに対する「ジョブの再発見」があったと考えられます。

現場の作業者向けの軍手や服、建設会社のユニホームなどの、いわゆる「ガテン系」向けの、プロユースの商品やPBをワークマンは長らく展開してきました。そのワークマンが一般向け商品に参入したのはごく最近です。そのきっかけは、意外なヒット商品が生まれたことだったと言われています。

 2012年ごろ、以前から販売していた防水防寒ウェアが突然、売り上げを伸ばし始めました。恐らく大人気商品の「イージス」だと思われます。寒冷地での作業員向けを想定した商品だったそうですが。ネット上のSNSでの書き込みを調べてみると、主に買っていたのはバイク乗りだったそうです。

冬にバイクでツーリングにいくと、とにかく寒くて、もはやデザイン性とかは後回しにしてでも、「とにかく防水・防寒性能に優れた、機能性再重要視のウエアが欲しい」と感じます。ただ、有名メーカーのウエアは3万円とか超える超高額なので、「できれば1万円を切る何か」が欲しい、と多くのバイカーが感じていました。(私も含めて)

まさに、このバイクにおけるツーリングでの「ジョブ」に、ワークマンのウエアがうってつけだったわけです。

実は、自分も「バイカー」のため、まさにこの、ワークマンの商品が「バイカーに最適」というのを、SNSで目にして、ワークマンに買いに行ってた記憶があるので、リアルタイムに、この新たな「ジョブ」の発見を、体感していました。

ワークマンが他の商品も調べたところ、バイカーだけではなく、ボアの付いた軽くて安い靴が、主婦に買われていたりなど、当初、ワークマン側が想定していた「ジョブ」では無いジョブに対して、自社の製品が購入されている事実を発見し、それがワークマンプラスの登場のきっかけになったと言われています。

ワークマンでは、現在も頻繁に「エゴサーチ」を行い、ジョブの再発見を意識的に行っているそうです。「ソーシャル・リスニング」を積極的にマーケティングに取り入れる事で、我々は、自社の製品やサービスについての、新たなジョブを発見できるかもしれません。

インサイト調査を活用する

ジョブ発見の方法として、インサイト調査の活用もおすすめです。インサイトとは一言でいえば「顧客の隠れた欲求」であり、顧客が言語化できる顕在的欲求、いわゆるニーズとは異なります。

マクドナルドが不振だった時、大規模な顧客調査(アンケート、グループインタビュー)を行った際、多くの顧客が「もっとヘルシーなモノが食べたいからハンバーガーを避けてる」「健康的で無い」といった声が上がってきました。この結果を元にマックは「ヘルシーセット」といった健康志向を追求した商品を投入しますが、結果は鳴かず飛ばず。

その後のインサイトの洞察で、「顧客は自分へのご褒美や、気晴らししたいといった理由でバーガーを食べるのでは?」という仮説から、クオーターパウンダーやMEGAマックを投入し大ヒットした、といった事例があるそうです。

要は、顧客が言語化できる「ニーズ」は時々ウソをつくもので、人は本当の欲求には殆ど無自覚である、という前提から、顧客のより潜在的な欲求を明らかにする手法が「インサイト調査」であり、単なる顧客調査とは似て非なるものです。

私も一度利用した事があるのですが、このインサイト調査を専門に提供している会社が「株式会社デコム」で、興味のある方は、デコムの大松社長が共著されているこちらの書籍を読む事をオススメします。(アフェリエイトは行っていません、一応)


ジョブに合わせてマーケティングをチューニングする

ミルクシェーキの事例では「朝の通勤中に手持ち無沙汰なので、腹持ちがよく、暇つぶしになるので、ミルクシェーキを雇用している」というジョブが発見されました。

この結果を受けてこのミルクシェーキの販売企業は、実際に、プロダクト面においては、「より腹持ちしやすいように、飲みごたえを改良する」といったチューニングや、「車の中で片手で持ちやすいように容器を工夫する」といったチューニングが行われたようです。

ジョブ理論の書籍の中では、残念ながら、マーケティング・コミュニケーションの面については、あまり書かれていなかったのですが、実際には、この「チューニング」の部分において、重要なのが、コミュニケーション面のチューニングだと考えています。

実際に、ミルクシェーキの事例に当てはめて考えてみると、以下のようなチューニングが考えられます。

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もちろん、他にも様々な施策が考えられる事と思いますが、重要なのは、これまでの「デモグラフィック」や、「趣味嗜好」といった「顧客属性」ではなく、「ジョブにフォーカスする」という点です。

ジョブを「顧客セグメント」と捉え、ジョブに「ターゲティング」し、マーケティングMIXを組む、事が、これまでのマーケティングと異ります。

1つの製品・サービスであっても、それが解決している「ジョブ」は複数ある可能性があります。「日曜日に父親が子供を喜ばせたくて」といったジョブもありました。

よって、「ソーシャル・リスニング」等を用いて、マーケターは、これらのジョブを複数見つけて行く事で、これまでとは異なったアプローチで、新規利用ユーザーの拡大がはかれると考えています。

マーケターのアップデートが求められている

これからのマーケターは、自社の製品やサービスを、どのような状況にある顧客が、どのようなジョブを解決するために雇用しているのか?という視点でのアプローチが求められます。

アフターデジタル化していく世界の中で、よりリアルなユーザーデータを大量に取得できる世界では、定量データから、いかに「ジョブのシグナルを捉える」事ができるのか。

そして、その「ジョブ」を行動観察や、チャット等の個人ヒアリング、ソーシャルリスニング等を駆使して、いかに早く理解する事ができるか。

そして、それに対して、いかにチューニングを早く行い、PDCAを高速で回す事ができるのか、といった事が、競争力に大きく影響を与えていくと思います。

また、新たに発見したジョブにアプローチしていくためには、媒体戦略以上に、「訴求開発」や「クリエイティブ」の戦略が重要になると思われます。

これらを高速にトライアルしていくためには、少なくとも「訴求開発」については、インハウスで考えていける体制が必要です。また、可能であれば、制作含むクリエイティブチームのインハウス化が望ましいでしょう。

最後に

前編・後編の二回に渡って、私が考える「状況ターゲティング」について解説させて頂きました。

状況ターゲティングにおいては、従来のセグメンテーションや、ターゲティング手法が、効果を発揮しにくいため、大きく考え方もアプローチも変える必要があります。

「えー、状況ターゲティングなんて流行らないだろうー」という方もいらっしゃるかと思いますが、もしかしたらそうなのかもしれません。

ただ、可能性はあると考えており、お読みになった皆さまの、何かのヒントになりましたら幸いです。お付き合い頂きありがとうございました。

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