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ハラスメントは造られた

40代のOL奈菜。
高校を卒業後、20年近く同じ会社で事務職をしている。
同期とは仲が良く係係長職で、年次昇給は無いが不満は無い。
昨今の物価高や自己評価から転職を考えた事もあるが、転職先で馴染めるか、今と同等の報酬が得られるかを考えたら、転職に踏み切る考えには及ばなかった。

女性が数十人在籍する職場では長年培われた派閥があり、ドロドロとした人間関係が存在する。
上に立ちたい者もいれば、人の下について立場を優位にしようとする者、仲違いを仕掛ける者、女性に限ったことではないが、陰湿な駆け引きが日々繰り返されている。

そんなある日、突然、奈菜がパワハラ加害者とされた。

パワハラを受けたとされるのは、2年前に入社した23歳の香織。
香織は天真爛漫で、何事にも大袈裟なくらいの反応をして、自らあざとさと可愛さを演出していると公言している。

仕事を覚えようとするポーズを見せるものの、面倒と判断した事は教えられても覚える気は全く無い。
何度教えられても覚えが悪く処理が間違っていると注意されると、教えられていない、間違った方法を教えられた…などと言い訳をして教えた側に責任転嫁する。

入社以来この調子で進歩は見込めず未だ一人でやりきた仕事は少ない。
香織が担当する仕事の4割は、内容すら教えられない状態だ。

普通は半日で終われる内容であっても、終業時間に終わらず翌日に持ち越す事が多い。
周りの同僚達が奈菜に同情するほど、香織の仕事ぶりは酷かった。

段取りも出来ず、ToDoリストを作って渡すも無意味に終わる。
真面目に仕事をしてるかと思いきや、携帯でSNSやネット通販サイトを見たり。。
単純に苦手とか能力の問題だけでなく、仕事に対する意識が見られなかった。
注意すれば返事だけは良く、反省や改善は無い。

香織は自分の好き嫌いで、人への対応を変える。
挙句、奈菜の言い方がキツイとか、教え方が悪いとか…
とうとう奈菜に対する不満を、他者に吹聴し始めた。

この職場には社内の人間で構成されたパワハラ対策室があった。
香織が吹聴している不満を奈菜をよく思っていない同僚達が、自分の感情を含め脚色し、更に騒ぎは大きくなり、対策室の人間の耳に入った。
担当者は、香織や他者からも聞取り調査を実施した。

程なくして奈菜は上司同席で対策室に呼ばれ、叱責レベルの注意を受けた。
言い分があるかと聞かれたが、どう説明しても分かってもらえない。
事情を知っている上司は、保身のためか擁護する様な発言の一つもしなかった。
もはや対策室の人間は香織の言い分が100%正しいと認識した。

そこに付け込む者がいた。
定年を過ぎて嘱託一年毎の更新で3年半を迎える祥子である。
奈菜より3年先輩だが、奈菜が祥子から学んだ事はゼロに等しく、奈菜が入社一年目を過ぎた頃には、ほぼ祥子の仕事は奈菜がこなしていた。

定年前からやる気は無く、面倒だの、分からないと言っては仕事を断るので、役職はない。
ゆえに奈菜に役職がある事や指示を受けるのも気に入らない。
何かにつけて奈菜につっかかってくる。

上司としては、仕事が終われば誰がやっても一緒だから祥子担当の仕事だとしても、終わらなければ仕事上の責任者である奈菜に責任転嫁される。
祥子はギリギリまで出来ているフリをして、締切間近に出来ていないと申告し奈菜に仕事を押し付ける。
奈菜の部署では、祥子を筆頭に常習化していた。
上司に訴えても、祥子や香織が出来ない事を悟っている上司からは、教えてもダメなら背中を見せてやれ、それでもダメならキミがやるしかない、と、何の解決にもならない言葉しか返ってこない。

更に祥子は仕事を断るが、口は出したい。
奈菜が終わらせた仕事にケチを付ける。
先ず、間違いがあると指摘してみせ、奈菜がそれに完答すると、理解不可能な書面だと文句を付ける。

これまで上司に進捗を問われても、遅れの原因が香織や祥子である事は話さないできた。
最終的には自分の責任だとして、時には謝罪。
二人に再度間違いや遅れの原因を説明して、処理は結果的に奈菜が自分で仕上げ、二人から上司に提出させていた。
しかし上司に説明を求められると、奈菜から添付資料まで受け取っていたにもかかわらず内容を把握できていないため、また奈菜に責任転嫁する。

またか…呆れ顔をした上司は、事態を把握していたが黙認し、奈菜の指導が理解してし難いから二人が出来ないと言う様になり、奈菜を責める様な言葉を放つ様になった。

出来ない輩に何を説明し教えようが出来るようにならないし、自分が出来なくても最終的に処理してもらえるとなれば尚更、楽を考える。
教える側は…相手が覚えない、間違える、期日は迫る、上司に急かされる。
板挟み状態となりストレスから身動きがとれなくなり、口調が荒くなるとパワハラだと責められる。

昨今のパワハラ問題は、受けた側のみが優位である事が多い。
理不尽な話だが、どんなに出来が悪い相手でも気分を害したといわれてしまえば、全てパワハラと言われてしまう。

仕事内容でのハラスメントは、被害者側が精神的に害されたと訴えれば、ほぼハラスメントと認められる事が多いとか。。

本当に被害に遭われ辛い思いをされた方も多いが、一方で奈菜の様に陥れられる場合もある。

世間でハラスメントが問題になってそう古くはないが、対応は急速に進んでいる。
暴力を受ける、口撃を受ける、仲間から外される、嫌がらせを受ける、性的被害、ハラスメントには色々あり、被害者の外的苦痛・内的苦痛は計り知れない。

しかし、本当に被害に遭っている人がいる一方で、実際には被害者に該当しないであろう者もいる。
相手が嫌いだからと自分が悪いのにもかかわらず、責任転嫁し、事実を捻じ曲げ、被害者ヅラをして悲壮感を全面に出して被害を訴える者がいる。

定義も曖昧な現状で、ハラスメント委員を笠に着て、言い出した一方の話しだけを鵜呑みにし叱責する。

何にしても裁くのは人間である以上、いつまで経っても正解を出すのは困難であろう。

ハラスメントは、対応する人間の「偏りのない正当性」が求められる、難しく繊細な問題である。



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