ランチボックス。そして、酷い匂い。

The big bully try to stick his finger in my chest
(でっかいガキ大将が俺の胸に指を突き刺そうとして)
Try to tell me,tell me he's the best
(彼こそが一番だと俺に言おうとした)
But i don't really give a good goddamn cause
(だけど俺は上手く対応できなかった)
I got my lunchbox and i'm armed real well
(俺はランチボックスを手に入れて 準備万端だった)ー『Lunchbox』マリリン・マンソン

 俺の作品につけられるタイトルは変な……?変なものが多かったりする。
 そのほとんどが読んだ本とか遊んだゲームから引っ張ってこられる。
 好んでつけるバーガータウンはコールオブデューティーのステージのオブジェクトだし、すべての愛しい幽霊たちは何度読んでも内容がわからなかった小説からとっている。

 正直無題で構わないが、流石に名無しの権兵衛でいるのも可哀想だしなあと思ってタイトルをつけている。こういう、とりあえず名前つけるか。は、野見山暁治の画文集を読んでインスパイアを受けたものだったりする。

 ある意味で唯一渾身めいたタイトルは、Lunchboxで、これもよく好んでタイトルに使う。
引用元はマリリンマンソンの曲だ。
 記事の先頭に引用したが、子どもの頃の落ちこぼれた自分を端的に思い起こさせたワードがランチボックスだった。
 俺は弁当が好きじゃなかった。親の弁当が不味いとかそういうのではなく、家じゃないところで飯を食うっていうのがどうも慣れなかった。味はどう頑張っても出来立ての飯に劣る。冬場の弁当なんて特にそうだろう?
 
 覚えているのが幼稚園の遠足の話だ。
 ゾウの広場で弁当を食うのだが、ゾウっていうのはめちゃくちゃ臭い。糞尿と体臭が混ざり合った異臭のそばで食う弁当は狂ったほど不味かった。
 そういう負の物語は絵を強くしたり、人を優しさに向かわせたりする。
 
 東京に生まれて東京で育ってきたので、都市から溢れる退廃的なものがより輝いて見えた。
 新宿西口の飲み屋の側の電柱に吐かれた黄色い吐瀉物。
 夜の渋谷を這い回る太ったドブネズミ。
 踏み潰されて黄色いはらわたを絵の具みたいに広げているゴキブリ。
 蠱惑的な看板に巣食って蛾を貪る蜘蛛。
 白いホームにこびりつく誰かの吐き捨てたガムの黒。
 ビールの空き缶。焼き鳥の串。ネバネバしたドス黒い油のカス。腐った雨水……。
 匂いを含んだ生温かい空気がずっと纏わりついていた。疲れとか、目眩とか、そういう言葉に表わせる何か良くないものがこの東京にはあって、それはどこにいても体臭のように俺を包む。
 
 そんな俺の体にまとわりつくそれもきっと絵に込められている。
 意味のない色は、壁に塗りつけられたゴミの色とか、風化した何かとかそういうものだろうし、嘘っぽいヤシの木も俺の中ではそういうチープな装飾の代表みたいで大好きだ。
 俺の絵は結局、俺の中から出てきたもののみで構成されて不出来な弁当みたいなものなのだろう。
 結局、俺は俺自身のことしか絵に描いてない。

 

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