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⑪【認知症】母の待ち人

毎週金曜日は、仕事帰りに母の所に寄ると決めている。

昨日も仕事を終え母の所に向かった。家の側の川の前に母の姿が見えた。

私の前を歩く女性が、母の横を通り過ぎた。

母の目には次に私の姿が見えたはずだが…

母は自宅に戻り始めた。

私は小走りで母を追い、

「来たよ〜!」と声をかけた。

「あぁ 忙しかったん違うの?」と母は言った。会話が成り立っているように聞こえるが、母は私を娘とは分かっていない。

自宅に戻り玄関から、

「お父さ〜ん、来たよ!」と母は叫ぶ。

誰が来たとは言わない。


私は自分の子供ができてから、母のことをおばあちゃんと呼ぶようになった。

旦那のことをパパと呼ぶのと同じつもりで。

しかし母は私のことも孫のことも分からなくなってしまったので、自分のことをおばあちゃんと呼ばれると、

「誰がおばあちゃんやの!」とちょっと嫌がるようになった。

その事で私は、「来たよ〜!」としか言わなくなった。

もう一つの理由は、私が娘だと言っても違うと否定されるようになったから。

きっと母の中の私はもっと若く、社会人になっている孫は幼稚園児くらいの幼い女の子なのだと思う。



母の待ち人は、母にはどんな風に写っているのだろう…


私には想像できないが、

来週の金曜日もきっと、すれ違っても気づけない娘を母は迎えに出るのだろう。

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