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12月17日 市川大門駅(山梨県)~地域みんなで駅づくりを~

【年度末と年始の多忙で、旅の道のりを記すのが遅れており、読者の皆さまには申し訳ない限りであるが、気長にお付き合い頂けると私としても幸いである。暖かい世界が広がる春に入っているが、旅の思い出は、晩秋から冬に入った昨年12月17日である】

朝5時に始発電車に乗った私は、ひたすら夢の中を彷徨い、多摩の山々から降りてくる澄んだ空気と突然のホームのアナウンスに目を覚ました。東京の端、中央線の高尾駅である。
乗り継いだ甲府行きの6両の電車は意外なことに多くの乗客で賑わいを見せていた。休日でもあり、家族連れのハイキングといった和やかな車内である。私は相席のボックスシートの片隅に座り、過ぎ行く車窓を眺めていたのだが、もう12月も半ばに入っているが、山々にはまだ赤色の紅葉が散りばめられている。年々、秋は季節として短くなり、いずれはなくなってしまうのではないかと漠然と考えたりしていたが、やはり季節は良いものである。

広大な甲府盆地の外周を回り込むように走った列車は10時前に山梨の中心地 甲府駅へと到着した。乗り継ぐ身延線への乗り換えは3分で、小走りにホームへと向かう。私の姿を見てか、小柄な外国人の少女も同じくついてきた。そして「東花輪には行きますか」と尋ねるので、大丈夫だと答えると安心したように前の車両へと移って行った。

身延線は、静岡県側の富士山麓や日本三大急流「富士川」の車窓風景が有名だか、山梨県側の甲府盆地の広大な車窓も見ていて楽しい。特に右側に広がる 南アルプス 赤石山脈は頭に真っ白な雪を被って、じつに清々しい景色である。

車窓に見とれている私は気楽なものだが、短い間にいくつもある小さな駅に着くたびに、ワンマン電車の運転士さんは席を立って、運賃の回収を行い、窓から安全確認をしていて大変そうである。しかし、そんなところを眺めているのも私だけで、他の乗客は皆、クリスマスの過ごし方の話や車窓風景に夢中であった。

甲府盆地の行き止まりになり、山が迫ってくころ、目的地の市川大門駅に到着した。現在の市川三郷町の中心駅である。

町の公民館と一体となった地域拠点型の新しい駅舎であるが、やはり目を引くのはそのデザインである。駅員さんに話を聞くと、古くから和紙生産が盛んで、書道紙もつくられてきたという。そうした中国とのつながりとして、大門碑林公園と市川大門駅の中国風駅舎が町おこしとして開設されたのだという。歴史背景を知ると、なかなか良く見える駅舎である。


きっぷを窓口で買っていると、子どもたちのきれいな合唱が風に乗って聴こえてくる。若いお母さん方の出入りも時々ある。「12時まで歌の教室があるんですよ」と先ほどの駅員さんにまた教えて頂いた。

次の電車までそれほど時間はなかったのだが、色々とお話を伺った。市川大門駅は市川三郷町の委託で、住民3人が交代で勤務して駅の運営を行っているのだという。最後までJRの駅員がいた、となりの鰍沢口駅が無人となり、ついに町からきっぷを買える駅が消え、それではいけないと町と住民で立ち上がり、市川大門駅の運営を始めたのだという。「最初の頃は慣れずに大変だったようです。きっぷの機械や駅の備品は鰍沢口駅のものを全て持ってきて始めたんです。今はJRから新しいものが来ましたが。」と貴重な話も聞くことができた。そして、「人は少なくなりましたが、続けられる限りは続けていきたいですね」と話を締め括って頂いた。

「ありがとうございました。頑張ってください」と踏切の音に急かされて別れを告げた。市川大門駅、またゆっくりと訪れてみたい駅である。

【市川大門駅(いちかわだいもん)-昭和2年12月17日開業 開業95年】

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