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試されているのは誰だ 創造力と想像力

演劇の芸術的価値は舞台上にあるのではなく、観客の想像力の中にある。個人の精神の中に創り上げたものがその個人の想像力のほどを表す。芸術に親しむことはこの想像力を豊かにすることであり、それが人に痛みや世界の仕組みについて思いを巡らせる思考につながる。ゆえに芸術をないがしろにする国の為政者にも国民にも未来はない。芸術を冷遇することが想像力の欠如を助長する悪循環がやがて国を滅ぼす。

舞台芸術とは何か、不要不急などという尺度では語り得ない、その存在の「必然性」を説き続けた1年でした。説き続けるしか生きる方法がなかったと言ってもいいでしょう。戦っているうちに1年が終わりました。終わりは見えません。

集うことを学ぶ学問なのに、突然集うことを禁じられたり、あるいはそれ自体悪のように扱われるようになった。

そこに次年度に迫った新学科の開設。学び舎として演劇の価値を証明せよ、と迫られる最悪のタイミング。実践的な授業が行えない、公演も出来ない。その中で他の芸術や他の大学と競り勝て、というプレッシャーも大学内外からかかってくる。そんな中どうやって学びを止めず、そしてそこで行われていることを公に発信していくか。

そうした今語れる全ての答えが『三文オペラ』に凝縮されているように思えます。
ブレヒトの挑発的で「煽り」を帯びたはずの言葉は、学生たちの身体を通して直接的な叫びとなって観るものに突き刺さります。

ミュージカルとは、言葉をより効果的により劇的に観客に届けるために音楽や歌を積極的に用いる演劇です。本格ミュージカル初演出でしたが、その本意は示したつもりです。

僕は彼らに授業をしているつもりはなく、全世界に向けて芸術作品を創出する意志で臨んでいます。

単なる思い出ではなく、歴史に残る作品を創造しよう。

この状況下だからこそ何度も繰り返し全員に語りかけたスローガンです。

玉川大学の演劇・舞踊は「上演実習」と呼ばず「公演」と称します。僕はこれには意味があると考えています。

大学の上演実習というのは芸術作品としての価値をほぼ評価されません。
そういう意味では個人的に大学での実習はどれだけ心血を注いでも演出家としてのキャリアにはならないので、「自分の作品」という気は毛頭なく、とにかく最初から滅私奉公なのですが、出演する、デザインする、そのほか創造の一翼を担った学生たちにとっては、大学生活の全てを注ぎ込んで生み出す芸術であり、単なる「思い出」で終わらせるべき創造ではないはず。

だから「公に演じる」なのです。

世界に対して自分という存在に責任を持つこと。

(最近、師・佐伯隆幸節入ってきた気がします。)

今年、誠に不本意ながらも全世界に向けて配信し、アーカイブを通してさらに多くの人に知っていただける機会が持てたことは、世界に向けて自分の言葉や表現に責任を持つこと、という新たな一歩なのかもしれません。

試されているのは誰か。

以下、主な僕を取り巻く出来事と現状を挙げます。

2月:THE MEDIA GARDEN 横浜赤レンガ倉庫にて寺山修司 原作『観客席』赤レンガver.、宮沢賢治 作コミックオペレット『饑餓陣営』演出。奇しくも千穐楽は目と鼻の先でダイアモンドプリンセス号から最後の乗客が降ろされた日だった。

3月:卒業式中止。いつ新年度が始まるのか不明確なままツールもノウハウもないのに唐突に遠隔授業の準備指示。ひたすら現場の混乱。春学期の実習は1日だけワークショップで集まったのが学期を通して対面唯一となった。『大学で「演技を学ぶ」
ということ』共同研究記録集出版。

4月:緊急事態宣言。入学式中止。他大学が体制準備に揺れる中、ぶっちぎりに早い段階で全面遠隔授業開始。ひたすら現場の混乱。

5月:出遅れていた1年生の授業も開始。全学年でオンライン授業。ひたすら現場の混乱。

6月:新しい舞台芸術を担う世代のための学び舎プロジェクト」サイトオープン。同時にYouTubeにPA学科アーカイブスチャンネル開設。過去の公演映像を無料で公開。

7月:全面オンラインの実習公演『ぴかぴかすりこぎ団の騎士』Zoom収録で配信。画面に収まるギリギリの24人で42役、4バージョンで合計164役を演じる「バーレスクのバーレスク」を創作。結局全面オンライン授業だったオリンピックも結局なかったのにオリンピック特別日程で組まれた春学期日程が終了。

8月:対面授業実施の嘆願が実ったもののオンラインと半数前後で調整するハイブリッド型なる授業形態の実施が決まり、ひたすら現場の混乱。

9月:ハイブリッド授業実施に向けた準備と調整に追われる。

10月:秋学期開始。ハイブリッド授業と実習のオンライン稽古にひたすら現場の混乱。

11月:大学3号館4階の大型実技教室3部屋が完成。実習の稽古場として試験運用に入る。自ら起案した大規模改修工事が初めて形になり決意新たにする。

12月:『三文オペラ』オンラインライブ配信公演。演劇スタジオで1年ぶりの演劇公演。アーカイブスの再生回数は1週間で4,000回を超えている。

https://youtu.be/K__QOazXIZM?t=2220
(開演時間からご覧いただけるようURLを設定しています。)

あらゆる方面の方にお世話になりました。改めて感謝を。ありがとうございました。

新たな一年を、皆さまが穏やかに過ごせますように。

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