トイレの便座問題

エッセイ「トイレの便座問題」

「お手洗いが女性優先な喫茶店」と評判の喫茶店へ行ってみると、2つあるトイレのうち1つは女性専用、もう1つは男女兼用だったという経験がある。それとは逆に、ゲイの経営者のやっているゲイフレンドリーと評判の居酒屋へ行ってみると、2つあるトイレのうち1つは男性専用でもう1つは男女兼用だった。そのトイレを見た知人が「この店のトイレは男性優先的だ」と評していた。私としては、どれか一方の性別の客に優しい設置どうこうより、やはりとにかくトイレの個室が沢山あった方が、早く用を足したい客にとって優しいのではないかと思うところ。女性専用トイレの個室が多い、そして男性専用トイレの個室も多い、男女兼用と多目的トイレも2つ以上ある、そんなお店があればきっと素晴らしい。
 少し話は変わって数年前、ある女性2人を某ゲイバーへ連れて行った事があり、その時その女性がトイレへ行った後私は思ったのだった。(あぁきっとあの人は、トイレの便座を下げて出るべきか上げて出るべきか悩むんだろうな)と。そして案の定、トイレから戻ってきた彼女は私に言ったのだった。「あのね、ここってゲイバーでしょ、トイレの便座って上げて出た方がいいの?下げて出たら怒られたりする?」と。「どっちでもいいですよ、そんな事で怒られたりしませんから」と言っておいたが、やはりトイレの便座をどの状態にして個室を出るべきか結構多くの人が気にしている事なのかと思った。
「その店がどれほど客の事を考えているのかは、トイレを見ればわかる」という説を昔テレビかラジオで聞いて以来、完全に鵜呑みにしているわけではないが、私は初めて入る店では必ず一度はトイレに入ってみているのである。普段行きつけの飲み屋では、その店のママさんがこまめに掃除をしにトイレへ入っているのを見ている(特にかなり酔っ払った男性客が出た後)。私はトイレを汚す客と思われるのが怖くて、キレイに用を足せる自信があまり無い時は座って用を足し、便器の淵や便座をトイレットペーパーで拭いてから流すようにしている。誰のものとも知らない小便が床に飛び散っている場合は、気持ちに余裕があれば大量のトイレットペーパーで拭き取るが、「宮城さんってトイレに入るたんびに自分のだけでなく他の客のオシッコを拭き取ったりして変なこだわりの中途半端な掃除して出てくる変な人なのね」と思われ噂されるのもなんだか嫌でもあり、トイレから出る度に私は便器の便座をその店の形態と客層に合わせた形にして出るようにしているのである。女性禁制のゲイバーのトイレでは便座を上げてから出ているが、事実上ミックスバー(全てのセクシャリティの客が出入りするバー)の店では蓋を閉めて出ている。便器は本来蓋を閉めるものでその状態にして個室を出るのがマナーであるという説や、蓋を閉めないと運気がダウンするという風水の教えがあったりするが、そもそも蓋を閉めてしまえば、次に使う人が男性だの女性だのと気にする必要もないからだ。オリオン通りの美人のママさんがやっているスナックでは、殆ど男性客しか来ないというのもあってか、ママさんは必ずトイレの便座を上げた状態にしているのだが、私個人としては、事実上男性以外の客も来る店なのだしそれに女性のママさんも使うトイレなのだから、便座が上がっているのもなんだか不公平なのではないのかと思うところがあり、私個人とママさんとの間で密かにトイレの便座を上げたり蓋を閉めたりの攻防戦が今も繰り広げられている。

(2019年6月「小文芸誌 霓 xii」にて発表)

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