歌うわだち

詩「歌うわだち」


ふたりの探りあてたおくちで■ときはな
たえまなく交わされた懇願が■たれたか
溢れおちたまがいものの涙を■らだにい
ふとどきな先端に擦りつけて■まいちど
山々の境でつきはてる今宵も■さだかで
             ■ないしお
訪ね来た指にうち鳴らされる■どきの愚
鈴口の吐いた音の姿をかりて■問が問う
驕り高ぶった素肌にせめよる■あいいれ
此れが何時ぞやのあかい符丁■ないあい
のがれえない慾情が喚いた印■の片隅で
止め処なく垂れ流した夏の陽■迸るたい
隠された恥部のかげに呑まれ■がんの蜜
立ち尽くす悦びが掻き毟る雨■をながめ
かすかにうずいたぬかるみが■幼気な爪
もの欲しげに凝視める其処に■わかれつ
なおまた挟み込まれた茎より■げた糸口
密かに芽吹いたわだちを辿る■それらの
辿りながら懺悔しいだす後悔■瞳おのお
おのれらの生いたちをけがす■ののうつ
木々をこすりつけあいながら■るひかり
ふたたび来ると信じた朝まで■いまいち
ひとしれず死ねるその時まで■どおいは
             ■がされた
ついぞ誰にも見られたことな■はだかの
い隅々までもを捲りあげよう■ゆるぎな
とはばからない舌がまさぐる■い正体へ
晒されていく壁が裂かれ四方■歩みよる
に散りゆくのを愉しむ空の目■おぼろげ
弓弦にされたからだがうたう■ないいの
そのうたを奏でる指がさえぐ■がれにお
さえぎられた喉が耳をふさぐ■ぼれてな
そうしてふたりは楽器になる■おおのお
そしてその楽器は生きていく■のの正体
はだかの楽器いずれ死ぬ楽器■はかげに
なごりおしむ穴隙のなぐさめ■かくれ今
その怒り夢裏切りやさしさ愛■をうたう


(2024年3月松原敏夫個人編集詩誌「アブ 第30号」にて発表)

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