詩「船」


かつてあのころわたしたちわれわれが忘れ去られた漁船にリブートした時誰もが待ち焦がれた南予を実は突き止めていたパラソル。棄てられた港を絶えず語りかける其々の骨組みに女は耳を傾けて今も戦時下のヒマワリ畑の道を股に挟んで血路を編んでいる。悲しい哉青い空はどうしたって青くどう足掻いても青く死ぬまで振り向いても青く角度を変えて見れば黄色。其れを問いただした少年が撃たれたから女や女をよく知る雑踏の概念はウミネコの群れが一瞬で凍り落ちる日を待ち望んで黙るしかないのに世界の何処かで裸体を結びつけ合う男と女や男と男や女と女や子と子が黙るなとモールス符号を打ち続ける油絵の額縁の内側の風景。外側に曝け出された不埒な側面を名残惜しみ何時迄も指で愛していたひとりの男は雨の日キセルが湿気る運命を残念がり無念に終わらないうちにと城壁に凭れかかり羽音よりも小さな振動を自分が最期に吐く息に選んだ。その振動が紡いだ言葉を靴紐は知っている。サイモンの指先を懐かしみながら、ジェニファーの眼差しを淡々と一枚ずつ剥がし落としながら。そうして語り尽くされたふたりの墓石の先端の歪みが一斉に夜空へ誰も行き着く事もないだろう砂浜の白さを伝えようとわからないくらいの微々たる恨み言を述べる。さぁお馴染みのレプリカの記憶の断片にて微笑みかける生毛の輪郭はいつかの君である。おゃお馴染みのレプリカの記憶の断片にて微笑みかける生毛の輪郭はかつての彼らであると。誰々であると。そんな恥を知る由もないほどの語らいが本当は恐ろしいから、だから船底は白く塗られていた。オールも、エンジンも、窓も、錨も、その鎖も、煙突も、客室も、汽笛も、人も、式典も。塗られていた、白に。白く塗られた私の眼を見て貴方。

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