母からの手紙

詩「母からの手紙」


元気にしてますか、あなたの母です。なんて
あなたを愛しく思ったことなどありませんが
思えばこんなわたし達を母娘と見なしてきた
この世間に感謝しなくてはなりません
念入りにあなたを手塩にかけたものですよ
あなたがひとの笑顔にまよい続けるように
いつも笑いながらよくたたいてあげました
あなたがずっとくだらない男に躓くように
何時までもお花畑の中にいてもらいました
あなたがイジメや犯罪の標的になるように
身を守るすべをあえておしえませんでした
あなたがお洒落をして笑えなくなるように
あなたの見てくれに金を出しませんでした
あなたがずっとわたしを頼ってくるように
社会の仕組はいっさいおしえませんでした
あなたがこどもを産んでも愛せないように
親らしいこともあえてしないでやりました
そうでないと、そうならないとわたしが
みじめだということになるじゃないですか
わたしのようになりなさい
聞こえますか、あなたを呼ぶ世界の声が
〈おまえのそのひたむきさをよこせ
　きえいることしらぬかがやきをよこせ〉
また惜しみなく差し出してあげなさい
それがおまえの美徳だろう、そうして
もがいてさらしてこれからもずうっと
わたしをたのしませろ。


(2022年2月琉球新報文化欄「琉球詩壇」にて発表)