見出し画像

いまさら聞けない 調査の基礎知識

◆なんのために調査をするのか

 調査はどのような目的で活用すべきでしょうか。

 ビジネス分野では様々な目的で調査が行われています。

 ある商品を販売する責任者は、買ってくれそうな人はどのような人達か、どのような告知をすればよいか、いくらで売れば買ってくれるか、何処で売ればよいか、ライバル商品は何か、などを知るために調査を行います。経営者は、適切な戦略をとるために事業を取り巻く外部環境を分析し、競合の活動を把握し、市場の将来を予測するために調査を行います。M&Aやアライアンスの担当者は、データベースから候補先をリストアップし、さらに有望な候補先の詳細な情報が必要です。調達担当者は、取引を行う企業が事業継続の問題を抱えていないか調査が必要です。人事部では、従業員の満足度やモラル、ストレスの度合いなどを定期的に計測するために従業員調査もよく行われています。

ビジネス以外の分野でも、様々な目的で調査が行われています。 
 政策担当者であれば、的を射た政策を立案するために、住民や企業の社会的な課題やニーズを集める必要があります。政策を実行した後は、その政策の効果があったのか、検証のために調査分析を行います。客観的なデータに基づく政策の立案や効果の検証は、EBPM(Evidenced Based Policy Making)と呼ばれ、限られた財政環境の中で重要性が高まっています。
 アカデミックな分野でも、多くの研究者は、自らの仮説を検証し、組み立てた理論を実証するために調査を行うでしょう。

 このように広範囲な分野において、様々な目的で調査が活用されています。

分野別の調査目的:
様々な分野の幅広いテーマにおいて調査が行われている


◆どのような調査があるのか

 調査には、どのような種類があるのでしょうか。

 まずは全数に対して行う全数調査か、標本を集めて全体を推計する標本調査かに分かれます。前者は悉皆(しっかい)調査とも呼ばれ、政府が行うセンサス調査などが代表的なものです。全数を調査するのですから、実態を正確に把握することができますが、調査を行う費用や人員には限界があるため、全数調査が困難な場合が多いです。

 ほとんどの調査が、全数から対象を抽出して調査を行う標本調査が行われています。標本調査の結果を参照して、日本の消費者の〇%は〇〇を好んでいると言った表現でレポートされるケースが多いですが、正しい表現ではありません。興味の対象全てを母集団といいますが、母集団全てを調査していないため、標本では〇%の結果であったが、母集団でも同じ結果であるとは限らないからです。

 次に量的調査、質的調査に分けられます。前者は定量調査とも呼ばれ、主にアンケート調査によって、数値やカテゴリー変数を収集して分析します。調査に客観的な実証性が求められる場合に使用されます。後者は定性調査とも呼ばれ、主にインタビューや観察調査によって、対象者のコメントや考察を集めてテキスト情報として分析します。

 質的調査は、調査者や調査対象者から得られる意見や考察は主観的であることに注意が必要です。量的調査を行う前に、仮説の検討・設定のために行われたり、または量的調査の後に、特徴的な傾向が表れてフォーカスしたい対象に質的調査が行われ、その傾向の要因を探るようなことがあります。

◆調査はどうやってやるのか

 調査の手法はどのようなものがあるのでしょうか。
 主に①文献調査、②アンケート調査、③ヒアリング調査に分けられます。

①文献調査(デスクトップ調査)

 文献調査は、デスクトップ調査とも言います。書籍、記事、統計、論文、レポート、インターネットなどから、関心のある情報を収集することです。情報にはオリジナルの情報である1次情報と、1次情報を加工した2次情報があります。2次情報は第三者の解釈の違いや間違いなどが入り込む余地があるため、複数の2次情報を突き合わせる必要があります。2次情報の発信者が不明な場合は、情報の真偽を確認できないため、調査結果としては採用すべきではないでしょう。

 文献調査においてもプランニングは必要です。特に情報が多いテーマの場合、情報取得が散逸的になりやすく、場当たり的な調査は周辺情報によって時間を浪費してしまうため注意が必要です。文献調査の目的を明確にし、費やすことのできる時間やコストを調査プロジェクト全体から確認し、情報源に目星をつけて、情報収集の順番などのプロセスを決めてから、実際に文献を集めましょう。

②アンケート調査

 アンケート調査は、郵送調査とインターネット調査に分けられます。郵送調査は、調査票などの印刷物をポストへ投函するアナログな方法です。インターネット調査に比べてコストが高く、調査期間も長くなるデメリットがあるにも関わらず、郵送調査は多くの調査で活用されています。

 郵送方式が、なぜなくならないのでしょうか?シンプルな回答としては、パソコンなどの回答端末の有無やインターネットなどのブラウザ環境などに影響されず、機械の扱いに慣れていない高齢者なども回答しやすいという利点があることです。また、郵送調査はメールなどで調査要請を受ける場合と比べて、協力が得やすいとも言われています。回答者は印刷された調査票が封筒入りで郵送費用をかけてまで送られてきたことに、調査に選ばれて回答することの重みを感じ、協力しようという心理的影響が働き(心理学的には返報性の原理といいます)、回収率も高くなると推測されます。

 インターネット調査は、紙の調査票への回答ではなく、パソコンやスマホなどのデジタル端末でWeb画面から回答してもらう方法です。ハガキなどの郵送や電子メール等で調査依頼を行い、回答画面のURLへ誘導して回答してもらい、インターネット回線で提出されます。返信費用や回答結果を入力するコストがかからず、短期間で行うことができる点が最大のメリットといえます。

 インターネットの利点として、調査票にも様々な工夫を施すことが可能です。プルダウンやスライダーなど回答しやすい画面設計ができ、質問や選択肢の表示順序をランダマイズすることで、キャリーオーバー効果や初頭効果などの回答におけるバイアスを回避することが可能となります。記入に制約をかけることができるため、回答に論理的なエラーがあった場合に修正を促すメッセージを表示することもできます。回答の正確性が向上し、調査者にとっては検票の手間を削減することができます。

 一方で、他の調査方法と比べて、Webを通じた回答では、調査票の内容に十分な注意を払わず、素早く終えることだけを目的として回答するような不真面目な態度の回答者が含まれることが指摘されています。

 インターネット調査でよく活用されるのがネットモニターです。インターネット調査会社が集めた登録者からサンプリングを行う形式で、事前に調査協力の承諾を得ているため、見込み通りの回収数を確保することができるのが最大のメリットです。各社はネットモニターに対して、虚偽がないか等、回答者としての信頼性も定期的に検査しているため、回答の正確性は比較的高いと言われています。

 しかしながら、ネットモニターへの登録は任意であるため、関心のある母集団を代表していない可能性があり、住民基本台帳による調査のように母集団から無作為に抽出して行う他の調査と比べ、偏りが生じてしまう可能性がある点は注意が必要です。特に、インターネットやスマートフォン使用者などのITリテラシーが高い回答者が多く登録しているなどの偏りが指摘されています。また、ポイントなどのインセンティブを与えて回答を集める方法であるため、ポイント収集に熱心な人の偏りや調査者に配慮した回答になる可能性なども指摘されています。

③ヒアリング調査

 ヒアリング調査は、電話インタビュー調査と面接調査に分けられます。電話インタビュー調査は、電話を使用して回答者から直接回答を得る方法です。アンケート調査と比べると、回答しづらい質問でも解説することで回答を得ることができ、選択式の回答よりも詳しい内容や意見を得たい場合にも有用です。訪問する場合と比べると、短時間で回答が得られるため、調査件数が多く、調査員のリソースが限られている場合に採用されます。

 ただし、対象者の時間を奪う長電話は禁物であるため、電話で質問できるのは最大で10問程度といえます。具体的には、主旨説明3分、質問10分、その他の説明を含め15分で終わらせる設計とします。

 電話インタビュー調査では、聞き漏れや聞き方によるバイアスを防ぐためにトークスクリプトを用意することが一般的です。実際に電話インタビューをしてみて、言い回しや順番などの改善点がでてくるため、都度トークスクリプトを修正していきます。調査協力を得るためや回答者が書面での確認を希望する場合は、FAXにて調査主旨や調査票を送るケースもあります。

 面接調査は、調査対象者と直接対面して行うヒアリング調査です。質問紙を対象者に提示し、質問の順番に回答してもらい、インタビュアーが記入用紙に書き留める「質問紙インタビュー」、利用客を装い商品・サービスの内容、質などを観察、ヒアリングを実施して行う「ミステリーショッパー(覆面調査ともいう)」、Web会議システムを利用した「オンラインヒアリング」などがあります。

 特に、オンラインヒアリングは、訪問調査よりは日程調整がしやすく、画面共有ができるため電話調査よりも細かな資料をもとにインタビューができる利点があり、効率的な方法として利用が増えつつあります。

調査手法別の概要:
調査の手法によって特徴や必要なコストは異なる。求める効果と制約のなかでバランスをとった選択が必要である。

最後までお読みいただきありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?