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【39日目】しんさい工房 ‐信頼‐

人は思い込みの中で生きている。
この多くの原因は、情報不足だと僕は思っている。

こうでなくてはならない
こうあるべきだ

自分の思っている常識なんていうのは誰かにとっては非常識。
どっちが正しいでも間違っているでもない。

その人にとってはそれが正義

ただそれだけのことだ。
そういう考え方や世界があるということを知らないだけなのだ。

僕は、お金がないなら働くしかないと思っていた。
コンビニを辞めるころには扶養の範囲内という壁にぶつかり、僕は他の人のタイムカードで働き、他の人の通帳に振り込まれた給料から働いた分をもらうという形で週4~5日働いていた。

奨学金。
この存在を、僕は知らなかった。
最初からこのことを知っていれば、もう少し生活にもゆとりがもてていたかもしれない。
僕は奨学金を申請した。

情報で人生は変わる。
目の前の見えている世界が全てではない。
僕は情報の重要さをこのときに知った。

奨学金をもらえることになり、僕の生活にも少しゆとりができた。
これは次のバイト選びに自由度を与えてくれた。

お金のためだけでなく、経験値としての働き方を考えよう。
僕が次のバイトに選んだのは、カラオケ屋のオープニングスタッフだった。
いちからみんなでつくっていくという経験をしてみたかった。

オープニングスタッフという環境は特殊だった。
みんなで店の家具や機材を運び、装飾やセッティングをしながら店をつくっていった。
ひたすら声出しや接客の練習を繰り返す中で、不思議と団結力が高まった。

ただ、バイト自体は結構ハードだった。
働きたい人はとにかく働かされた。
僕のとある月の給与明細を見ると、月間の労働時間が160時間を超えていた。

それでも仕事が嫌になることは不思議となかった。
純粋に楽しかったのだ。
自分たちでつくった店という感覚から自然と責任感が芽生え、自分たちが店を回すんだという意識が強くあった。

ただここで一番大きかったのは、店長の存在だ。
店長は20代半ばのまだ若い人だった。
プライベートはとてもだらしない人だったが、仕事になると人が変わった。
特に接客には厳しく、何度も叱責された。

店はオープンから好調で、もう無理だと思うことも多々あったが、どんな状況でも店長がオペレーションに入れば不思議と店は回り、店長がいれば大丈夫というような安心感があった。


俺はしんさいの言うことを信じる


カラオケでは飲み放題が主流だが、僕の店では一気飲みの禁止をしていた。
急性アルコール中毒のリスクがあるからだ。
ドリンクを持って行った瞬間に一気飲みをするようなお客さんには、断りを入れなくてはいけなかった。

とあるお客さんに注意をしたとき、それがクレームに繋がった。
一気飲みなんてしてないのに言いがかりをつけられた、というのだ。

状況を店長に説明したところ、店長は一緒にその部屋についてきてくれた。
一緒になって謝ってくれるのかと思ったら、僕がそのお客さんの対応をしているのを、ただ後ろで見ているだけだった。
一通り説明しても納得してもらえなかったとき、店長が口を開いた。

スタッフには、お店のルールについて私がしっかりと教育しています。
もし今回の対応に納得いただけないのであれば、お帰りいただいて結構です。

僕はこの店長から、仕事の楽しさと厳しさ、そして人の上に立つ人としてのありたい姿を学んだ。

その日の帰りに、店長が声を掛けてくれた。

今日のしんさいの対応は間違っていない
頑張ったな、お疲れ

全面的に信頼してくれる人がいる。
ここには僕の居場所があった。

帰る場所をなくした僕にとって、バイト先は家族のような存在に感じていた。
けれど僕の大事な居場所は、あることがきっかけで失ってしまう。

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