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「移住を考えはじめたチームメンバー」に対して、私たちは何ができるのか?


コロナ禍が本格化してから1年。1年前にはここまで皆が「移動」を規制され、「人と出会う」ことを禁じられるとは思っていなかった。人間が社会的動物として必要なことすべての営みが、禁じられている。

その中で、少しでも「人間らしさ」を取り戻そうと、小さな小さな一歩を少しずつ歩み出す人たちもいる。自分を見つめ直して、自分自身に変革を起こしながら。

今回は「コミュニティ」という核に焦点を当てながら、いくつかの「移住」にまつわるストーリーを紹介します。


「東京を離れる」という思いは、誰にでも起きうる

わたしが経営する起業家コミュニティを支える運営チームの中でも、「そろそろ自分も東京を離れた方がいいと思っています」という人が出てきました。

わたし自身が東京にいませんから、むしろ遅いくらいの変化ではありますが、やはり東京・目黒に自分たちが築き上げてきたコミュニティがあるため、「離れがたい」というのが非常に率直で直感的な感覚なのだと思います。

「東京を離れよう」という思考を紐解くと、「自分のクリエイティビティをもっと模索したい」という欲求が根元にありました。その模索のためには自分の部屋という空間が狭すぎたり、東京というスペースそのものが息苦しく、ルールが多すぎるように感じていたり、新しい自分が発見できるかもしれないという機会を模索するマインドになっていたり、さまざまな要素が絡み合っています。

世の中には「移住したくてもいいだせない」という会社風土もあるかもしれませんけど、人間の普通の思考回路として「東京を離れる」という選択肢が頭をよぎることは当然のように起きる人には起きることだと思っています。そしてその自然な欲求を抑圧するような風土は、組織としてはあってはならない、と思っています。


一緒に考える仮説検証のプロセス

わたしが以前「移住はスタイルで、仮説検証すべきだ」とこちらのnote記事で主張したように、彼女から相談を受けた時、わたしは「じゃあ、どういう段取りで検証していこうかな、というのを一緒に考えはじめようよ」と言いました。

期間は半年くらいをめどにします。それまでに自分が今見えている「なりたい状況」に、最低限持っていくための期間です。いわば「プロトタイプ」。

チームや周囲の理解、人間関係、仕事、日々のルーティーン、ウェイトの置き方の整理。少しずつ、たくさんの変化が、彼女の中で「東京を出ようかな」という単語を発した時点から、始まっています。

その中で、彼女とわたしも共感しあったのが、Impact HUB Tokyoというコミュニティを持っていることの重要さ。東京に、このコミュニティがあるから、まったく気兼ねせずに地方に行ける。「自分の職場=コミュニティ」って最高じゃないか、という話をしていました。

そもそも会社がコミュニティ機能を持つことは効率がいい

移住を選択する人のすべてが隠遁者になりたいわけでもないのです。第一線で活躍し続けたい。数年前までは、リタイヤ後の終の住処というイメージがもたれがちでした。それは今、アップデートされています。

週1回東京には出入りしながら、今までの社会的資本とは断絶せずに、繋がりながら、今度は移住先で新しく知り合う人たちとの出会いを重ねていく。どちらもあきらめず、どちらも大切で、自分の中で、それらはシームレスにつながっていく。

自分の会社の職場が「普通のワークプレイス」でしかなかったら、移住しても東京はミーティングと同僚と話すためだけの場所、または東京に来るたびに社会的ネットワーキングも含めた予定や飲み会を入れ込むという追加作業を余儀なくされる。これは結構費用がかかるし、東京の滞在時間を伸ばさなければならないので、労力も時間も取られる。

だから、職場=コミュニティである、というのは、実は素晴らしく価値が高いことなんじゃないか、ということを、最近実感しているのです。

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昨日、長野県と信毎新聞が作り出す新しいオンラインメディアに取材を受けました。その時に「二拠点、二拠点って言うけど、現在のわたしの東京時間は1〜2週間に8時間くらいですよ」と伝えると、「え!」とびっくりしていました。

コロナというのもありますが、パートナーをワンオペ育児させたくありませんから、基本的には日帰り。(わたしとパートナーの間で【お互いのワンオペ育児時間数を最小限にとどめる努力をする】という明言化された約束があります。)そうすると朝から夜まで1日しっかり出て帰ってくると東京滞在は8時間が限度。

その間にミーティングや会議のような「意思決定」的なものも勿論ですが、「雑談」や「刺激」や「哲学的な戯れ」みたいなものも詰め込んで、帰ってくるのです。ミーティングが6つくらいあり、その合間に戯れも多々あります。

そのとき、地味に打撃になってくるのが東京都内の移動です。実は新幹線移動よりコストも時間もかかることがある。タクシーだと「捕まるか捕まらないか」「混んでる」とか、山手線や地下鉄だと「コロナ」「インフル」「移動中PCを開いて仕事できない」などが気になります。

たまに気分転換や街の様子を確認するためにふらふらすることや、チームメンバーと「移動しながら歩きながら話そう」ということもありますが、それは「東京の空気からインスピレーションを得る」という明確な目的があるため。移動のために移動する、という時間は残念ながら残っていませんので、極力避けたい。だから、基本的には一箇所に用事をまとめておくのがベターです。

だから、本気の仕事も、刺激も雑談も戯れも、社内外の人とも一箇所でできてしまう「コミュニティ」というのは効率がよいのです。

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(自分の働く場所のすぐ脇に、全然違う分野で仕事をしている人たちがいて、会おうと約束しなくても「少しお茶飲みましょう」が実現する)



東京にホームを持つことが心理的安心を生む

上にあげた社員の彼女はまだ実際にスタートしていないので、どんなタイムマネジメントが要求されるようになるか、実感していないと思います。だから、この「効率性」についてはまだわからないとは思う。

でも、彼女も「ほんとそれ」とうなずいていて、「多分、今の環境にいなかったら、決断できていなかったと思います」と言いました。

週1回やミーティングのたびに、オフィスに戻ってくる拠点がきちんと確保されている、ホーム感。
そして、そこは社内外を含む人たちのコミュニティが出来上がっており、知らない人たちの集合ではなく、信頼構築が出来上がっている、安心感。

この状況って、精神的にかなり障壁を下げているし、かなり恵まれていると思うんですよ、と言っていました。

多くの企業で働く社員の方々が「本当は移住したいけど」と二の足を踏んでいることでしょう。東京を離れることが「レースから抜けた」と思われたくもないし、そういうつもりもない。繋がりや社会的関係性がビビッドに生き続ける状態を望んでいる。でも、多くのワークプレイスはそれを担保してくれない。

そんな人たちの職場そのものが、移住した社員たちの「ホーム」になり、たくさんの人たちが出入りするコミュニティみたいになったら、どんなワクワクするおもしろい世界になるんだろう。わたしたちは、今そんなことを考えながら、いろいろなプレイスにコミュニティを作っていくことができる、新しいサービスを考えはじめています。


ゲマインシャフト(地縁・血縁由来)とゲセルシャフト(価値観由来)

上にあげた昨日受けたインタビューで、ライターの人は社会学を勉強した方で、「槌屋さんの話を聞いて、ゲマインシャフトとゲセルシャフトを想起しました」と言っていました。大学の修論以来、久々に、他者と「ゲマインシャフトとゲセルシャフト」について話すことになり、ちょっと嬉しかったです。

ゲマインシャフト」はロケーションによって縛られる地縁・血縁に由来するコミュニティです。親戚とか、高校が一緒だから、住所が近いから、とか、自治会などを指します。地方ではゲマインシャフトがものすごく強烈に存在しており、一帯のルールを生み出します。これらのルールは、地方でのイノベーション拠点を作る時に、わたしも四苦八苦した相手です。

一方「ゲセルシャフト」は「選択意思で自分が入るか出るかを決めるコミュニティ」のこと。地縁や血縁のコミュニティからは外された、逃げてきた、息苦しくなってきた、価値観が合わないから無理、という人には必要不可欠な「居場所」です。

まさに東京・目黒のImpact HUB Tokyoは価値観由来のコミュニティであることを標榜してきました。そのため、目黒というロケーションにおける制約はあっても、ゲセルシャフト的要素が強い。さらに、現代のオンラインのコミュニティはすべてゲセルシャフト的要素が圧倒的に優勢です。

まさに「Chosen Family / Chosen Community」(自分の意思で選んだ家族、コミュニティ)を選びとる自由がそこにあります。

今の時代、人々はゲマインシャフトの要素を減らし、ゲセルシャフトでつながっていく世界を作っており、それは移住の選択肢でも発動するコンセプトだと思っています。それが「価値でつながるホーム」という考え方になっていきます。

移住すると、東京で「価値でつながるホーム」を築き上げてきたのにそれを諦めなくちゃいけなくて、移住先で「地縁・血縁や場所に依拠したコミュニティ」に入らなくちゃいけなくなる。これはゲセルシャフトでつながっていく時代を生きてきた人間には、恐怖以外のなにものでもないのです。

だから、移住先にもゲセルシャフト的な要素の居場所があることが重要ですが、東京側にもゲセルシャフトを残しておき、両者からのインプット・アウトプットの流れを作っておくことが、精神衛生上、超重要なんです。


「移住」を伴走する、とは?

この投稿のタイトルである「「移住を考えはじめた社員」に対して何をしてあげられる?」というお題に戻ると、経営者や周囲のチームがすべきことは、わたしの視点からは「移住プロセスの伴走」なのではないか、と思っています。

移住は人生の選択であり、自由である。だけど一緒に仕事は続けたいし、生産性は落としたくないよね、ということが前提です。(移住なんてするくらいなら辞めてくれ、という姿勢の経営者や会社は、対象ではありません。)

なので、

① 半年、1年、1年半などのフェーズを区切り、期間ごとにゴール設定し、仮説検証のスケジュールを一緒に立てる
② 社内や職場のワークプレイスを、その人にとっての「東京にあるホーム」というポジションへ変容させていく

この二つが結構大きいんではないかなあ、と思うのです。


今、私たちのチームで【ワークプレイスを、社員や同僚にとっての「東京にあるホーム・コミュニティ」に変える】というサービスを爆速で開発中ではありますが、それを待たずして、色々な人たちが自分の職場・ワークプレイスがもつべきポテンシャルをもっと引き出すことに、もっとコンシャスになってもいいんじゃないかな、と思っています。

ただ通うだけの場所、ただのミーティングの場所、ただの机と椅子がある場所、ではなく、皆が忘れられない愛着のある場所にしてくためには?
離れていても、リモートで在宅でも、思いを馳せる先になる場所にしていくためには?
そんなことを会社の総務や人事の人が考えるようになったら、最高におもしろい会社が増えるよなあ、と思っています。

移住の文脈って、こんな複雑な派生する哲学が生まれる場でもあると思っています。こういうところから、社会変革は起きると思っているんです。


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数ヶ月ぶりに書き始めたら、また、いろいろと「あれも書きたい、これも書きたい」が蘇ってきているので、続々と記事をアップしていこうと思います。

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