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京都のお茶屋システムがとてもすごかったお話しです。

私は旅行屋さんですが、コーヒー屋さん、ラーメン屋さんを書いたので、次はお茶屋さんのことを書いてみようと思いました。

先日、祇園でもっとも格式高いと言われているお茶屋に訪問させて頂くことができました。率直に私が思っていたお茶屋の印象と言えば、単に女性と飲んで舞踊や音楽を聴く場所というくらいのもので、なんなら如何わしさすら持ってしまっていました。しかし結論から言うと、少なくとも私が体験した範囲においては全くもって違うものでした。200年以上前に始まったと言われているお茶屋システムは、とてつもなくよくできた仕組みで動いていたことに、大変驚きました。お茶屋のこの200年以上続くシステムだけで、スタートアップ経営や現代で流行っているサービスのほとんどが説明できるくらい面白いです。本当によくできている。

なお、最初に断っておきますが現代の価値観からすると時代錯誤なことや、理解しづらい男女別の役割の世界、また価値観の相違が起こるものかもしれない。ただ、途中にも書いたけど文化伝統とはそういうものであるのと、私は別にそれらを肯定も否定もしていないので、そういう視点で読んでもらえると嬉しいです。

ということで、紹介していきたいと思います。

そもそも、お茶屋とはなにをするところなのか?

Wikipediaでの説明によるところ、以下のようなものが書かれている。

(意訳)お茶屋は芸妓を呼ぶ店であり、風俗営業に該当し、営業できるのは祇園、先斗町など一定の区域に限られる。お茶屋とは、今日では京都などにおいて花街で芸妓を呼んで客に飲食をさせる店のこと。東京のかつての待合に相当する業態である。

これはまぁなんとなく理解できているのではないかと思われるし、知らない人からすると(私もそうだった)、どことなく男性向けのクラブとかキャバクラみたいな女性が男性をもてなす場所、という感じがあった。序列をつけるつもりも、そのような場所を否定するつもりも働いている人に対する何かという意味では一切ないが、お茶屋の実態は異なるものであった。

仕組みの説明と、現代のビジネスに置き換えるとなにか。みたいな要点を説明していきたいと思います。

どういう仕組みになっているの?

最初に教えてもらった面白いポイントが、「お茶屋の役割とは、ゲストをもてなすためのプロデューサー業であり、お茶屋自体はステージである。」という点にある。お茶屋に直接勤めている人というのは多くなく、ほとんどが派遣されてくる芸子さん、舞妓さんたちによってお茶屋が運営されます。そしてその方々が所属しているのが、「置屋(おきや)」です。置屋とは現代で言えば、派遣会社でもあり芸能プロダクションでもあるようなサービスで、お茶屋とは違う独立した間柄になっているわけです。

私はてっきり、特定のお茶屋に特定の芸子さん/舞妓さんが勤めて働いているものだと思っていました。なので実際は常に「派遣」と「受入」という関係によって成り立っているんです。これはつまり現代の派遣ビジネスであり、芸能プロダクションとテレビ局やイベントの関係と全く同じようなものです。

とてもよくできているいくつかのポイント

さて、ここまではふむふむ。まぁ分かる。という感じかと思いますので、ここからは更に面白く学びのあったポイントを3つ+アルファにまとめていきたいと思います。お茶屋の役割、信用経済/信用取り引きについて、サードプレイス、育成システム、ルール、などなど。紹介していきます。

1)お茶屋の役割は、舞台の総合プロデューサー

まず冒頭に申しましたが「お茶屋とはプロデューサーであり、ステージである」という点が重要です。お茶屋さんは、特定の芸子さんらが働いているわけではなく、毎回のゲストのタイプに合わせて「どういう人を派遣しようか?」「どういう料理がよいか?」「どういう踊り/音楽でもてなすか?」  などを企画するプロデュースこそがお茶屋の役割なのです。お茶屋の中も座敷部屋が連なっているのみで、しっかりした台所もなく、本当に座敷スペースだけで出来上がっているような造りです。

また、予約は絶対に正会員を通じてしかできず、その度に正会員からお茶屋に目的や来客者の情報を伝えていきます。その上でお茶屋側が、じゃーこの日の料理はこれ、芸子さんや舞妓さんはこの子達を手配しましょうね。と、裏側の手続きのすべてを正会員に代わって担ってくれます。(ちなみに男性でも女性でも、みんなが一同に楽しめる空間になっています。)

現代のビジネスに置き換えると、派遣会社、イベント企画会社、芸能プロダクション、仕出し文化は宅配、Uber Eatsとも言えそうです。コーヒーとかすら取り寄せると持ってきてくれます。また、秋元康さんがプロデュースしたAKB48はこのモデルからできているとも言われています。実態は不明ですが、AKB48とお茶屋は極めて似てます。

2)信用経済と信用取り引きモデル

ここからさらに奥深くなっていきます。
正会員は基本的に新しくは一切募集しておらず、常にその方のみがお茶屋のアカウントを保有しているような状態です。つまり次以降にお茶屋を利用したいと思っても、その正会員さん経由で予約を取らなくてはなりません。

ここで面白かったことが、支払いに関するモデルと銀行機能です。

実は、お茶屋の中では完全キャッシュレスの世界ができており、すべてが正会員との信頼関係によってツケ払いで成り立っています。ツケ払いの期間もなんと1年間で、さらに正会員が紹介した子会員のみで利用する場合でもすべてが正会員にツケがまわります。(これはもしかしたらお茶屋によって異なるかもしれませんが)

商流としては、正会員⇔お茶屋での金銭やり取りのみと必ずなっており、お茶屋→置屋/料亭/その他 へ流れていくということです。面倒な手続きなども全て含めて窓口となりやってくれて、正会員⇔お茶屋の関係のみでお金も動きます。紹介者が単独で訪問する場合でも同じく正会員に請求がいくため、正会員⇔紹介者で精算をし合うということになります。

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(この図解で全部言い切った感ある)

ツケの踏み倒しや、不払いがあると信用に傷がついてお茶屋は利用できなくなります。また、ツケの踏み倒しをしえるような人を正会員は紹介できないため、とにかく信用がすべての世界になっているのです。ちなみに、お茶屋でなにか問題を起こした場合もすべて正会員にお茶屋からお叱りやクレームが飛ぶことになり、正会員の信頼に傷をつけることとなるのです。

現代のビジネスに置き換えるならば、キャッシュレス決済はお茶屋内では実現されており、また信用スコアリングをデータ化して実装したならばAlibabaなどの取り組みにも近く、後払い決済もそうでしょう。また、お茶屋には貸し金庫機能もあり重要な資産を保全したりすることもできます。プライベートバンク機能とも言えそうです。

3)サードプレイス、プライベートコンシェルジュとして

正会員からみたお茶屋とはつまるところはなんなのかというと、もう1つのリビングのようなものである。という例えをされていました。つまり、来訪するゲストを自宅ではなくお茶屋でもてなすことができる。という感じです。これもまた、とても画期的なスペースの使い方だと感じました。

また、スペースを単に貸してもらうだけではなく、1で申した通りプロデュース一切を担ってくれます。そのサービスはお茶屋の中のみに関わらず、必要に応じて宿や飲食店の手配や、チケットの手配なども行ってくれるのです。とにかくゲストをもてなすためになんでも取り組んでくれるというわけです。

これらを現代のビジネスに置き換えるならば、Airbnbやスペースマーケットとも言えそうなスペースの貸し出し、私たちReluxのような旅行代理店のサービスモデルの原型でもあるし、またリゾートトラスト、ゴルフ会員権、アメリカンクラブなどのような会員制コミュニティの原型とも言えそうです。旅行代理店ができたのは100年前ですので、お茶屋のほうが遥かに古くから行われている代理サービスと言えそうです。(もしかすると過去はお茶屋に寝ていた時代があるかもしれませんが)

4)その他に面白かったこと

・舞妓さんの育成について
舞妓さんは置屋に所属すると言いましたが、初期には育成がもちろん必要です。そこでお茶屋の出番となります。最初の育成期間は、どこか特定のお茶屋に所属しており、そこで修行をして卒業ができると晴れて様々なお茶屋へ訪問できるようになります。さながら出身高校や大学のようなもので、舞妓さんたちは「わたしはXXのお茶屋出身」と、必ず全員が話すといいます。お茶屋による教育スタイルは千差万別であり、舞妓さんがデビューした後も出身のお茶屋がどこかというのはオリジナルなカラーになっており、生涯ついてまわるそうです。

・舞妓さんと芸子さんの違い
これも全く知らなかったのですが、基本的には20−21歳くらいの年齢になると「衿替え(えりかえ)」という儀式を行い、舞妓→芸子へと昇格します。これという試験があるわけではないものの独り立ちに近いものであり、マナー、所作、コミュニケーションスキルに至るまで様々なところをチェックされて、合格すると芸子さんとしてデビューします。

衿替えの儀式中は黒い着物に特別な化粧を施して、おもてなしをしてくれます。この儀式自体がとてもおめでたいことなので、「おめでとう」という声をかけて良いそうです。
※ちなみに、さらにその先には「自前」というステップがあり、これはフリーアナウンサーになるようなもので独立を指します。着物から家からすべてを自分で用意して、自分で立った状態であるそうな)

偶然、衿替え中の方がまわってきて色々教えてもらうことができました。

・意味のないものは1つもない
舞妓さんらの着物や装飾品などは、ほぼ全てに意味があってルールがある。そのせいか、とてつもなく引き算された装いであり、容姿云々ではなくまるでアート作品のような気品高い美しさが感じられます。たとえば、翡翠の髪飾りはXX歳以下のみ、唇の塗り方のルール、結き方のルール、お化粧の塗り方、着物の色、舞妓/芸子さんたちの名前に至るまで、厳格に決められたスタイルがあります。分かる人が見れば、その舞妓さんや芸子さんがどういうステージにいるのかが一発で理解できる。これらは現代人の自由思想、ダイバシティとは逆行するものではあるが、そもそも文化伝統の継承とはそういうものであるので、そういうものとして楽しめばいいと思う派なのです。

また、組織設計やサービス開発においてもかくあるべきだと思っている。
組織の仕組み、些細な機能追加、ボタン、文言、利用するクリエイティブなどに至るまで、優れたサービスほど全てに意味があり、無駄なモノは存在していない。無駄の美学も当然に理解しつつも、強い意味を持ったファンクションこそが、サービスの価値になると思う。

おしまい

ということで、300年も続いているお茶屋さんのシステムを紹介してみました。まだ私自身、1度しか訪問したことがないのできっと他の花街や、同じお茶屋さんに行くことでもっとたくさんの気づきが得られると思わせてくれました。私自身も学びを抽象化したかったのでNoteに書いてみたけど、またぜひ伺わせていただきたいなと感じました。

なお、お茶屋遊び自体が楽しいかどうかは正直なところまだよくわかっていない。音楽を聴いたり、舞踊を見たりしたが、現代のエンタメと違って難易度が高く、どう楽しめばよいかが分からない。笑

どなたかお茶屋行きたい人、または行く人いたらぜひ声をかけてください。お茶屋文化がこれからも発展し、リスペクトが集まりますように。

おしまい。

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