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【超長文】スタートアップ経営で現れる壁と事例とその対策について


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公開してから時間が経ったこと、令和トラベルの経営が始まり少しアプデをしてみたので有料だった記事は無料にしちゃいます!面白かったらシェアいただけると喜びます。
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こんにちは、Reluxの篠塚です。(※なお、これは記事当時の2020年2月のことです。今は、令和トラベルという海外旅行エージェンシーを経営しています。以下の記事も是非ご覧ください!)

35歳の最終日、超大作の1.5万字超のNoteができあがりました。書いてみたは良いですが、長すぎてニーズあるのかが実は不安です。頑張ったので、Twitterをフォローしてくれたり、シェアしてくれたらすごく喜びます。なお、購入頂いた方の資料への転載や画像アップなども全部自由にどうぞ!全文アップとかは泣きます。信じてます。
Twitter : https://twitter.com/shinojapan

私のほとんどのNoteはすでにメモをしてある内容骨子が完成したことをざっと30〜60分くらいで超速で書いてアップするのですが、このNoteは日をまたぎつつ7−8時間近くはかかりました。夜な夜な頑張って書き上げました。

なぜこんな一年でも一番忙しい時期に、こんなにも大変な長文Noteを書いたのかというと、書籍でも書きたいなぁとぼんやり思っていたところで箕輪さんに「本を書きたいっす」と相談したんです。そしたら『まずは「はじめにの章」を書いてみなさい。』と有り難いアドバイスをいただき書き始めてみたところ、全然あらぬ方向に飛んでいったためこうなりました。執筆の壁にあたった。

アプデ:過分なお言葉をたくさんいただけました、嬉しい!

本題:本Noteの内容について

私たちの会社も気がつくと創業してから丸8年が経過し、宿泊予約アプリであるReluxローンチからはちょうど丸6年が経ちました。仲間は200人、会員数200万人超、年間の予約流通額は200億円超、契約施設様も3,000施設、順風満帆に見えるものの、その経営プロセスの中では実にたくさんの壁たちの存在がありました。参考Note。

そして、最近は若手起業家や経営を志す人たちとの接点も多くあり、エンジェル投資などもしていることもあってかよくこういった似た話をするので、まとめておこうじゃないかとまとめてみた次第です。「あれ見ておいてね」って言えたら楽じゃないですか。だから最後まで書き上げてみた。

ということで今回のNoteは、起業してから必ず遭遇するであろう壁(困難)の概要、事例、対応策についてのまとめをお届けしたいなと思います。
※なおここでの内容は「社内の新規事業」でもまぁ似たようなものです。

スタートアップの壁について

スタートアップのグロースにはある一定の定石があると思っていますが、私はその道半ばで現れる「壁」には内容の法則性、乗り越え方(解決方法)なんかがあるんじゃないかという仮説を持っています。ここで言う「壁」の定義をしておきますが、簡単に言うと「出会ったら最後、乗り越えなくては成長が停滞する課題」のことを指します。それを放置したり、諦めて乗り越えることをやめるとそのまま衰退の道へ行ってしまうよ。というものが壁の定義です。また、一度乗り越えた壁もまたサイズが大きくなってきてまた壁としてやってきますので、その観点も忘れずに整理をしていきます。思い出すだけでも、胃がキリキリしてくるやつがいくつかあります。

図にするとこんなイメージです。
基本はなんらかの壁に負けるから、落ちていくんです。

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なお、ここでのお話しは、永続的成長を志すスタートアップや大企業などの新規事業を前提としています。そのため、いわゆる家族経営の商店や、中小企業のうちの非成長企業を否定するものでは一切ありません。

壁の順番や種類について

で、考えた結果、基本的にはこんな順番と中身で推移していると思うのです。これをちょっとまとめていきます。てかやっぱり壁が結構多いので、スタートアップ経営は大変ですよ。(語彙

今回、取り扱っている壁たちは以下の6区分です。

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しかし、こんな簡単に分かりやすくないし、こんな順序よくお行儀よくは現れてくれるはずないです。当たり前です。実際のところは、以下みたいな感じで同時多発的にたくさんの壁に見舞われることになります。🔥マークは大炎上することがあるという意味でアイコンを設置してみたものです。

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これもなんか図にしてみるときれい過ぎでした、ごめんなさい。実際のより現実に近い風に壁のイメージを描くとこんな感じです。もはやバグってますが、ホントこんな感じです。うちはこれほどの凄惨な状況に陥ったことは実はないのですが、大打撃受けてるケースを聞く限りはこういう感じにも納得いただけると思います。

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この壁たちをきちんと乗り越えていくことで、晴れて、長期グロースカーブに入っていけます。この壁たちに道程で負けてしまったり、放置すると衰退のカーブにはいっていきます。ここらへんで壁の定義の話しはこれくらいにして、本項に入って行きたいと思います。

1)リクルーティングの壁

まず、会社を始めようとした時にすべての人がまず必ずぶち当たるのはリクルーティングの壁です。あなたが会社を始めようと思い立つ。まずはきっと1名で動き出す。代表になる。その後に共同創業者なり、メンバーなりを必ず見つけなくてはならない。意外にも、この最初の壁にあたって終了する会社を何社も見てきました。株式会社いまはひとりのはずが、株式会社永遠にひとりになるパターンです。1人では大きなことをなにもできないので、まずは本命サービスのローンチに向けた仲間というアセットが絶対に必要になります。

私はというと、2011年9月に創業して資本金200万円を持って1名でスタートをした。個人事業主に毛が生えたような体制で、セールスも管理も採用も一人でこなすのはかなり大変だったが、とにかくあらゆることに時間を割いて、可能性がゼロに近い人とて会っては誘い続けた。生きるための売上も上げ続けた。そして、創業から1年が経つ頃には現中国社長の門奈(当時大学1年生)、取締役の塩川、エンジニア2名、業務委託で手伝ってくれるデザイナーチームやマーケチームメンバーが見つかった。比較的ゆっくりだったが、1年かけて最初の最初のリクルーティングの壁は超えることができた。

そして、2021年5月現在の令和トラベル。ここを徹底的に意識して、今回は創業初期からCBOとCHROの採用をした。将来数百人になってもビジネスを任せられる受田くんと、人事を任せられる田村くんがジョインしてくれたのはとても心強い状況である。


さて、しかしだ。このリクルーティングの壁は(も)、定期的にでっかくなって何度も再登場することになるので、もう少し私たちがRelux時代にどうやって解決したかなど含めて深い説明をしておきたいと思う。採用は、常に経営者もメンバーもミッションとして全員がしつづけなければならない。

採用はTo CのWebマーケティングと構造がまったく同じである。サービスは会社自体、GoogleのSEOではなく媒体毎のOptimize、購入はエントリーや採用であり、ファネルの因数分解は簡単である。ここでは、私たちのフローにおいて重要な点を説明していこうと思う。(というかこれだけでNote長文かける)

まず、Reluxの面接は社員全員が行う仕組みになっている。社員の70%超は面接官研修を受けて、ピッチ資料を自ら作成し、面接の現場に出ることになっている。これには3つの意味があると考えていた。1つ目は全員採用チームの体現、自分の仲間は自分で集めることでのオーナーシップ醸成、2つ目は採用速度を高めること、3つ目はミスマッチの撲滅である。

・その1:全員採用チーム体制
採用を人事に丸投げしている会社は、うまくいっていないという仮説があった。この仮説はリクルート時代の影響も大きいが、結局は当事者意識が醸成できないことに起因する。2と3の話しにもつながるが、自ら連れてきたり、自らが面接の現場に出ることで自社のことを語る機会を作り採用の大変さや仲間集めの業務を体験することで、心と体で「全員採用」について理解をしてほしかった。「彼/彼女の採用をしたい」と自ら人事に提言することはチーム意識にも、当事者意識にもつながるのである。

話が少し反れるが、私はオーナーシップの引き上げは「研修」やリーダーがメンバーに口でただ言ってるようなインプットでは不可能だと思っている。オーナーシップを造成したい場合は、経営ボードはそこを職務上で通過するような仕組みを作りだし、アウトプットの場をシステムとしてデザインすることが近道であると考えている。つまりここでいうと「社員はみんな面接に出る」という実体験・本番のプロセスを組み込んでおけば、勝手にそれに対するオーナーシップが上がることになる。この時点では擬似的なオーナーシップかもしれないが、やっていく中で結果として、あれはこうしたいとか改善案をどんどんみんなが出してくれる。もとい、オーナーシップがあるメンバーは必ず社内で重宝されるし、成長していくのでおすすめです。

・その2:採用速度について
採用プロセスの速度(エントリーから面接、内定、入社まで一連のファネル)は、採用につながるかどうかの重要な生命線であり、戦略指標に添えるべきである。あらゆるプロダクトやサービスでも言えるが、各地点のレスポンス速度はそのままコンバージョンレートの改善につながるが採用も例外ではない。
よって弊社にとっては採用プロセスの速度改善は常に重要であり、年に100人近い採用を行っていたときは毎月500人以上のエントリーがあり、多い月では100人近い採用面接をこなしていた。その量を当時わずか3名の人事チームだけでは回せるはずがない。遅延や漏れが発生し、候補者の皆さまに迷惑を掛ける時期が発生してしまった。

ボトルネックは「面接の遅延」と自明だった。予定がなかなか合わない、面接の重複、面接後のレスが遅い、などといったことが発生していた。これは、全社員を面接官にしたことにより大幅な改善に寄与した。

さらに、面接の品質を担保する方策にも頭を悩ませたが、最も効果的だったのは、親友経営者でもあるフロムスクラッチあべちゃんから聞いた施策を即パクったものだが『PRピッチ』という仕組みを取り入れたことだった。PRピッチとは、自己/会社紹介プレゼンピッチの資料を全員が持つというものである。そこに趣味はなにか、前職は何をしていたのか、なぜLocoに入ったのか、などをまとめてプレゼンの品質を共通化して高めた。全資料はわたしが最終チェックをした上でオペレーションに実装し、みんなが自分のストーリーに載せて会社のことや自分の仕事を語れるようになっていった。

結果、速度の大幅改善に加えて品質(内定率)も大きく改善し、非常に大きな採用力・アドバンテージを享受できるようになった。

その3:ミスマッチの撲滅
採用のミスマッチは言うまでもなく、お互いにとって大変不幸なLose-Loseイベントである。全員が面接官をすることで大幅にそれを下げつつ、またさらにこれを撲滅するために取り入れたことが、採用基準の明確化である。私たちは取材や記事でも公開しているが、採用基準をスキル、ポテンシャル、ロイヤリティの3軸を取り入れて点数を決めて内定かお祈りかという判断を行うようにしている。これは結果的に非常にワークし、創業から5−6年ほどの100人近くになるまで組織の問題は一切合切全く発生しなかった。これは振り返ってみてもなかなか奇跡的な状態だったと思うし、メンバーみんなには感謝してもしきれない。その後も今日に至るまでには退職こそあれども、いわゆるオペレーション上の致命的なエラーは1度も起こっておらず、組織の大崩壊などなく円満に過ごせている。ストレンジャーシングスみたいなことは何度かまぁあったけど。

その採用プロセスにおける評価システム(内定ジャッジ)がこちらである。
以下に3つの点(スキル、ポテンシャル、ロイヤリティ)の意味を説明していきます。採用の壁、強い・・・。

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・スキル
スキルはそのまま候補者のスキルを指すが、候補者の即戦力度合いを表す。過去の実績や面接や課題のアウトプットから判断をする。
5点は超即戦力だし、そのまま働けてかつ高いパフォーマンスを出せる
3点はすぐに戦力にはなるが、パフォーマンスは未経験ゆえ不明
1点はすぐの戦力にはならない程度である。
重要なのは、仮に1点でもここだけでは不採用にはならない。

・ポテンシャル
ポテンシャルとは「入社後成長率の推定」
である。地頭の良さや、素直さや、人柄など抽象的な面も含めてきちんと評価をする。たとえば新卒のメンバーの多くはスキル点が1−2点になりがちだが、ポテンシャルが4−5点ならば内定ラインはカバーされることになる。つまり図の通り、スキルとポテンシャルは縦軸と横軸の関係で、両方が高得点でなくとも、高いx低いの組み合わせであっても問題はない。これはすなわち、その候補者が将来生み出すバリューの積分値の予測変数になっている。短期的な判断だけではなく、中期にコミットしてくれることでこそ生まれる成果をきちんと判定しないと機会損失になるわけである。

・ロイヤリティ
最後はロイヤリティである。この採用軸には賛否両論出ようかと思うが、会社へのロイヤリティや、Why Relux?が、しっかりしている人を見させていただくものである。なぜ賛否が出るかというと、この点数だけは一定を下回ったらどんなスーパー営業マン、プロダクトマネージャー、エンジニアであろうとも、内定を出さないからである。実はこの指標やジャッジこそが非常に重要であった。ここのロイヤリティ点が低い人の多くは困難に出会うとすぐに辞めたり、組織をBad方面に持っていくタイプに多いことがわかっている。だから、このロイヤリティ点だけは3点未満ではどんなにスキルとポテンシャルが高くても採用をしないと決めている。

ロイヤリティの判別方法は至ってシンプルで、候補者からの質問や、選考プロセスにおける課題のアウトプットで見える。質問が調べたらすぐわかるようなことだったら調べていないから低いとわかるし、Locoでは選考プロセスが面倒で大変なのでロイヤリティが低い人は自動的に脱落するようなシステムになっている。合理的に言っても、これから入社して数年頑張る予定の会社ならば、1日くらいは選考コストを捧げたほうがお互いジャッジできるし良いよね。とは思っている。

ところで、ロイヤリティが3点未満でもすぐにお祈りをするわけではない。複数回の面接やロイヤリティの育成プロセス(意向上げ)を持ち、何度も何度も根気よく会話を繰り返すことでロイヤリティが上がってくれることがあるからである。これはエージェントの採用ヘッドハンティングに近いものだと思うが、とにかくこちらを向いてもらうまで頑張ることもある。

・まとめ
多分この採用システムは、比較的生意気なのではないかと思っている。ただ、これでいい。なぜならば、最初に書いた通り採用ミスマッチはお互いにとって不幸だから、候補者の方にもしっかりと知ってもらった上で入ってもらう必要があるのである。逆に私たちもしっかりと知りたい。その面倒なプロセスのみが、ミスマッチを防げると信じてこのようなシステムへ移行した。

以上、とても長くなったが採用の壁でした。

って、まだ1つ目の壁かよ・・・・・・・・・

2)サービスローンチの壁

つづいてはサービスローンチの壁がやってくる。IT企業だろうと、物を作る会社だろうと、飲食店だろうと、D2Cだろうと、なんなら受託にしても何かをローンチする必要がある。なんにしてもサービスは必要である。最初の壁であるリクルーティングができているからこそ、大きなサービス開発に向けた行動が取れるようになる。この頃は組織崩壊なんてものは微塵もないし、ガバナンスだってなくたっていい。(※法律違反を推奨するものではない)

単に「3月までにXXをローンチするぞ!」と壁に貼っておき、目標を日々叫びながら走っていれば最高に楽しいし、盛り上がる。部活で全国大会目指すみたいな高揚感、空気感である。

が、良いサービスほどにローンチの難易度は高かったりする。セールスがうまくいかない、サービス名がしっくりこない、開発が相当重たくてできあがらない、カスタマーターゲットが決めきれない、そもそもコンセプトのコンセンサスが取れない。そして挙げ句には、簡単なほうに向かって逃げがちである。アフィリエイトサービスから情報をまるっと引っ張ってこようとか、安直に値下げ方向に走ってしまうなどといったミスジャッジをおかす。

機能の足し算をしつつも大胆な引き算をしたり、右に切った舵を左にすぐ切り替えたり、ファクトも根拠もない暗闇の中で難しい意思決定を連続的にしつづけなくてはならない。

ローンチの壁を超えないと、そもそもスタートアップは始まらない。

ちょっと1つ目長く書きすぎて息切れしたのでこの辺にしておきますが(笑)、スタートアップ立ち上げマニュアルにローンチする上での注意点などをまとめたことがあるので、参考までに上げておきます。

3)PMFの壁

自社サービスのお披露目が済んだらまた即座に現れるのが、PMFの壁である。あらゆるサービスは、大量のサービスがある大海原に軽装備で投げ出された状態に晒される。顧客からは数多ある競合類似サービスと相対的に比較され、「スタートしたばかりだから」という言い訳はマーケットでは一切通じず、肉体も精神も限界まで追い込まれる地獄の日々が本当の意味でスタートするのである。

PMFとグロースは今なお混合している人がいるが、全くの別物である。PMFとはゼロからイチを生んでいく話しでありそもそもの顧客定着性やニーズがあるのか? といった問いに呼応するものだ。グロースとはPMFされたものがより広がっていくために必要な概念である。ここは似て非なるものである。

まぁ。。すでに、ここを読むような人からすると釈迦に説法な気がするが、ローンチ後のPMFについては、熱狂的なファンが何人ついてくれるのか? が、とてつもなく重要なシーンであり大きな壁となるのだ。

・アプリはDLだけ増えていくがアクティブユーザー数が増えない
・セールスがうまくいかず、利用クライアントがなかなか増えない
・バグが多く発生し、迷惑をかけてばかりいる
・すぐに利用をやめてしまう、消えていく

など、私もこの壁との戦いには1年近くも苦労したことを覚えているが、この壁を乗り越えない限りはマーケットから退場を余儀なくされる。ローンチした瞬間に顧客がつかなくても諦める必要性はないし、改善ループを繰り返せば良い。しかし、PMFしないということは、つまり社会には要らなかった。という意味である。マーケットには、いつも冷たく残酷な風が吹いている。

DCM原さんによる、こちらの記事がすごく良いのでおすすめです。
https://note.com/kenichiro_hara/n/nde3bf0c242b1

これの「売上の伸び」もPMFと同じことを言ってます。

4)エクイティファイナンスの壁

めでたくPMFの壁をクリアすると、続いてはファイナンスの壁が現れる。すでに3つの壁との激しい戦いの中でも小さな資金はまわしているはずであるが、もっと大きな軍資金さえあれば新しい挑戦権を得られると信じているはずである。

スタートアップで使えるお金を確保する方法は意外と多くはない。会社活動によって利益を出すか(FCFを高める)、銀行などの機関からお金を借りるか、VCなどへ株式割当を行い出資を受け入れるかの、主には3択がある。細かくはまぁもうちょい分解できるけど、ここでは出資について話す。

もっとも真水の資金として、かつ大規模な成長を志すスタートアップとして便利なツールが、出資を受け入れること=エクイティファイナンスである。株式発行と交換に、返済義務のないお金を入れてもらうことである。1億円の利益を出して預金にするにはそれなりの労力と時間がかかるが、1億円の資金調達のほうが基本的には時間がかからない。最低でもCEO1名、またはCFOと2名がいてプロダクトがあれば済む話しで、2−3ヶ月足らずで数千万円、1億円といったお金を調達できるのである。

当然、このファイナンスの壁も高い。ここではサービスのPMF蓋然性を証明したり、さらには将来も成長するであろうことの証明を示さなくてはならない。これはなかなか難しい作業である。赤裸々なこちらのYJ堀さんの記事はとても参考になる。


エクイティファイナンスは基本的に不可逆であり、後から問題に気がつくと死ぬほど厄介であるため、他のすべての意思決定よりも将来影響が大きいことをシードラウンドからきちんと理解しておきたい。この辺りは、適切な財務戦略がわかる経営顧問、弁護士、スタートアップの友人などなどにしっかりと相談しながら聞きながら進めるべき派だ。

しかし実際の実務となるとそうも簡単ではなく、喫緊性が高まれば高まるほど交渉は不利(というか何もできなくなる)であり、相手にとって有利な条件を渡すことになるため、備えよ常にの精神で資金調達はいつも一歩早めに動いていきたい。

私がエンジェルとしていつもアドバイスしていることがある。それは、エクイティロスについての話である。(極端な例だが)たとえば、20%のダイリューションで1億円を調達し、次回ラウンドの時点で0.5億円の預金があったとしよう。この場合、極端にいえば0.4億円くらいは調達しなくても良かった資金と言える。(つまりこの場合は10%弱の放出がロスと呼べる)

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私はこの発生するムダを「エクイティロス」と呼んでいる。

このエクイティでロスっているかどうかの正誤は次回ラウンドからさかのぼってしか判定できないので、常に非常に難しい意思決定が求められる。よく聞く「あんた、調達できるうちにたくさんしときなさい」というおばあちゃんのアドバイスはあるが、あれはつまり正しくもあり誤ってもいる。最適な資金量を、最適なシェアで調達していくことでのみ、貴重な株式の無駄遣いがなくなるのである。

ところで、よく創業期はCFO要/不要議論が行われているけれど、わたしはできれば創業期から優秀なCFOと一緒に相談をしながら緻密な計画を立てるべきであると考えている。現代ならば副業でも良いが、絶対にサポーターを作るべきだ。なぜならば、創業期のシェア1%は適当にエイヤーと決めがちだが、時価総額がつくレイターになってくると1%の価値だけで数千万円/数億円、ユニコーンなら数十億円という価値になってくるわけである。最初から優れたCFOがいればそういうエラーを最小化できる可能性が高いし、少なくとも正しい提言はしてくれる。また同一ラウンドでの不必要なダイリューションは、将来の成長毀損や、社員のインセンティブ減、新たに取れるオプションが狭まることに直結するので、貴重な株式を有効に使うことは経営戦略の常にトッププライオリティである。
※合わせて創業期に必要なプライシングモデルの策定や、戦略的な提携などもCFOに任せられると社長は採用などによりコミットできてバランスがよい。

このように将来のリスクと今日のリターンをバランスさせながら資金調達の意思決定はしなくてはならない。しかし殆どの起業家にとっては人生で初めての調達であり、こうした点は過ぎてみないとわからないため、VCと起業家に情報の非対称性が大きく起こる点でもある。(こういう点にこそエンジェルの価値があると思っている)

あわせて、ここまでのストーリーは調達がスムーズに行った場合の論理であり、会社が飛ぶ寸前、全く上手く行かないなどといった交渉すら働かないケースも多々あることも頭に入れなくてはならないし、そういうケースのほうがむしろ多いような気もする。そしてこれが起業家の精神を常にヒリヒリさせるほどきつい壁・問題である。

そして・・・調達のことだけでもまだまだ起業家視点で書きたいこと死ぬほどあるけど、とりあえずこれくらいにしておきます。壁やばい。

複数回の無限ループが発生

ここまでに4つの壁を紹介したが、この壁たちは創業してからずっと複数回ぐるぐるとめぐってくることになる。しかも出会って2回目以降は、より大きな壁となって出現する。PMFしたと思いきや、資金が今度は足りなくなったり、どうしてもあるKPIは改善しなかったり。ボリュームが増えてきたら人が全く足りなくて、採用に苦戦したり、組織トラブルが勃発したり。並行して資金は常にすり減っていき、必要に応じてまたその説明をしながら調達を行ったり。何度も何度も似たような壁に出会う。

この図を再掲しておこう。

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こうしてこれらの壁をぐるぐる超えていくと、組織は着実に歩を進める。気がつけば50人程度になる。Reluxの場合は、サービスローンチから2年超が経った。

5)組織の壁

メンバーが50人に近づいてやってくると、組織からミシミシと割れ音が聞こえてくるようになる。成長に伴う痛み、部署同士の正義の衝突、言葉や解釈の齟齬による誤解、単純に好きじゃない人がいる、など様々ある。

この時、とにかく重要なことは情報流通と一貫性であると学んだ。流通を常にアクセスできるようなめらかにし、ミドルマネジメントとトップが同じベクトル、同じことを言っている状態が必須である。もうすこし簡単にいうと、「あなたの経営する会社では、全社員がミッションを一言一句間違えずに言えますか?」の問いに対して、自信をもってイエスと言えるならその組織は一貫性が高いと思われる。ノーか曖昧なら、一貫性が低いとなる。

これらを実現するために、私たちの会社ではミッショントライアングルというものを策定していた。これは、上からミッション、ビジョン、バリュー、戦略、戦術と5つのフレームに分けて情報を整理したものである。この5つの一貫性にこそ、組織の均衡が保たれることになる。

これを整理したフレームが以下である。

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・ミッション
ミッションはWhyである。なぜやるのか。なぜわたしたちはここにいるのか。なぜこのチームなのか。すべての最上位概念であり、ここのために他のすべてが存在する。
とはいえ。時々、ミッションを曲げてでも目先の利益を取るために戦術を取りたくなる瞬間があるが、それをしてはならないのはミッションのほうが上位概念で重要だからである。それ以上でもそれ以下でもないが、こういうフレームが整備されていないと判断できなくなったりする。

Reluxでは「つながりをふやす」としている。世の中の旅行者の流動性をどんどん上げていくことで各地をつないでいき、世界を平和にできるはずだと信じている。

・ビジョン
ビジョンは、Goalである。どこに向かっているのか、何を成し遂げたいのか、どういうサイズにまでなろうとしているのか。ここのサイズが小さければ小さいほど、そういうまとまり方をするので、どれほど大きな風呂敷を広げられるのか。が重要である。

Reluxでは「アジアを代表する旅行カンパニー」としている。そこから、アジアの代表とはなにか? 旅行流通規模がどれくらいでそう言えるのか? 会員数はどれくらいか? などいった、下層の戦略レイヤーへとブレイクダウンされていく。

さて、このミッションとビジョンの2つの設定において最も重要なポイントは、シンプルで解釈に齟齬が発生しないことである。言葉が複雑だと解釈に齟齬が生まれ、同じ文章なのに違う方向を向いてしまう可能性がある。シンプルな文章に加えて、自分たちの解釈を毎週、毎月伝え続けながら齟齬の情報差をなるべくゼロに近似させておきたい。

・バリュー
バリューとは働く人の共通価値観である。文化の基盤になる。ここでもっとも重要な点は、バリューはミッショントライアングルにおいて戦略よりも上位概念であるため、日々の仕事の成果よりもなによりも働く人たちの価値観のほうが大事だよ。というメッセージにこそある。

なぜ仕事の中身よりも価値観のほうが重要に置いているかというと、わたしは会社を経営する上で2つの観点を大事にしていた。

1つ目は、人は仕事のために仕事をするのではなく、人生を楽しむ1つの手段として仕事をしているからである。人がメンタルを壊す瞬間や、やる気もあり成果も出しているメンバーが落ちていくシーンの多くは価値観の相違からやってくる。価値観を壊してまでやる仕事は気持ちがよくないし、誰かを傷つけながらしているに過ぎない。だから私たちは、仕事のアウトプットよりも価値観こそが重要であると定めている。

2つ目は、価値観が合わない人は評価しない人事システムこそが、中長期の組織マネジメントにおいてとてつもなく重要だからである。これはこの図がもっともわかりやすい。価値のFit高低と、成果の高低を軸にしている。

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この図は、価値観の高低(ロイヤリティとも呼ぶ)と成果の高低とに分割したもので、役職員からメンバーまで含めてすべての人は必ずここのどこかの層にいる。図に矢印がある通り、全てのメンバーはこのゾーンを常に動いていて、コンディションや市況や配属部署や上長の影響などによってコロコロと変わることになる。

ここで重要なことは、それぞれの層に対してどういうアプローチを取るべきかと、組織のシステムデザインによってどうやって対峙すべきかということにある。

ミッショントライアングルで述べた通り、バリューは戦略や戦術よりも重要な上位にあると伝えた。つまりバリューは成果よりも重要であるのだと。なぜこういう組織システムにしているかというと、組織において「成果」だけを指標にすると図の右側の上下切り分けがなく同等の評価をすることになるが、実は最も危険なのは右下の層だからである。右下にいるメンバーの一部はとてつもなく優秀で高い成果を出す人がいるため、右上のリーダー達を下に引っ張ってしまうことがある。右下の全員がそうとは言わないが、他人をマイナスにドライブするパワーをも持ち合わせてるため、組織分断が極まれてとてつもなく大変なことになる。例えば、スタートアップで経営チームやマネジメントチームが揉めるケースは大抵ディザスターとも言う状態になるが、それはこのためである。幸いに、もめたことないけど。笑

話を戻す。だからこそ、明確に「バリュー(価値観)」を戦略や戦術よりも私たちは評価すると定めておくことがキーなのである。つまりこの図でいえば右下の人材よりも、左上を評価すると言っておくのである。最初からコンセンサスを取るのである。こうすることでマイナスに引っ張られるインセンティブが減るし、また右下の人材も早期に去ってくれることになり組織の問題が肥大化前に食い止めることができる。(当然、右下だからといってすぐに諦めることもしない。話し合いに話し合いを重ねて、右上に持っていく努力も怠っては絶対にならない。)

組織規模が大きくなれば必ず右下の人材が現れるので、先回りして対処を行っておきたいところである。組織のこともまだまだ書きたいことが死ぬほどあるのだが、一旦これくらいで、最後の壁へ。

6)倫理/ガバナンスの壁

1〜5でもう壁はお腹いっぱいなのに、いつでも容赦なく新たな壁がやってくるのがスタートアップの辛いところである。(良いところ?)まだある。

続いては、解像度も低く視認性も悪く、これまでとは全く違う壁が突如として現れる。それがこの倫理/ガバナンスの壁である。この壁はとてつもなく厄介で、全く見えないこともしばしばあるくせして、顕在化した瞬間に会社や組織を一撃で完全壊滅させるパワーを持っている極めてやばすぎるやつなのだ。IPOや大型なM&Aを経験した人からすると、第一フェーズにおけるラスボスとも言えましょうか。IPOや大型M&Aというイベントではセットで、必ず通るべき壁なのです。

ここでは、いわゆる守りのガバナンスだけではなく、攻めにもガバナンスが必要なのでそんな話をしてみようと思う。

まずは、守りのガバナンスについて、管理や経理や法務などといったよく聞くやつです。わたしはずっと、こんなもん当面いらん。稟議? え、サクッと決めてかないと速度落ちるだろ!  なんてことを本気で思っていたタイプで、今でこそありえませんが、KDDIグループでM&Aを実行した時の状況は凄惨なものでした。取締役会の非設置、稟議承認プロセスなし、経理は30営業日締め、労務管理は曖昧なスプレッドシート、役職員の権限規定も曖昧など。とんでもないものでした。

守りのガバナンスが必要な理由は非常にシンプルで、最初に書いた通りだが基本的にはマーケットから一発レッドカードを絶対にくらわないためのものになる。というのが私の結論です。レッドカードといえど種類がいくつかあるが、解任や解雇、犯罪の発生によるブランドダウン、サービスの停止、会社活動の停止、IPOの承認取り消し、株主代表訴訟など様々である。創業期はCEOのパワーにあまりにもよりすぎるため、よくも悪くも速度は上がるが、致命的な漏れが発生しえます。これをカバーする管理システムこそがそれです。

・法務書類のチェックも多段ゆえに優良なカウンター提案が作れる
・毎月正確に経費を締めてこそ、前月から次アクションを機動的にできる
・労務もデータできちんと蓄積されるからこそ、気持ちよく働ける
・意思決定も単独ではなく複数でするからこそ、重大エラーが減る
・経理や振込処理のプロセス改善。複数人にして、不正ゼロ化
・パワハラなどのコールセンター設置、心理的安全性の確保
・GDPRなど個人情報保護に関する対応や、セキュリティリスク

など。書いてみると当然すぎてやばいんですけど、全部できてますかというとみんなもきっとできておらず、針の穴を通すようなたった1つの事件によって一発レッドカードになるわけです。公明正大、正しいことをやれる環境構築がいかに重要かということです。

続いては、攻めのガバナンス
これは後から気がついた概念なのですが、プロダクトのグロースにとってマジで死ぬほど重要です。あまり外で話したことないのですが、だんだん気がついちゃったので説明したいと思います。攻めのガバナンスとはつまり、プロダクト開発の意思決定にもガバナンスがあるかどうか。を指しています。プロダクトガバナンスと呼んでます。組織上で、誰か(片側サイド)一存だけでザクザク決めすぎていないか、影響範囲の見誤りはないか、プライシングの変更など致命傷が起こらないか、顧客の一斉離反は起こさないか、複数利害のあるサービス(たとえばReluxなら宿泊施設様とカスタマーの二者が存在するなど)では均衡が保たれているか、など。それらに対する正しい意思決定ができているか? いないか? の判別点と言えそうです。

これは非常に重要です。
このプロダクトガバナンスのほぼ全ては、組織のパワーバランスの強弱によって決まります。が、カスタマーは社内の組織バランスなんかは関係なくてあくまでプロダクトによって魅力を感じるため、間違えた方針によって急に振り向いてくれなくなるわけであります。組織の中で攻めのガバナンスが取れなくなってくると、何が起こるでしょうか。

・営業部はやりたくない機能を、マーケ部によって実行してしまう
・技術部は先にやるべきと思うリファクタリングやセキュリティ対策が、後回しにされてしまう
・開発優先順位が、組織のパワーバランスによって決まっていく
・各部意見を反映させすぎて、曖昧でよくわからない機能だらけになる
・緊急度が低く、重要度の高い機能がひたすら後回しにされる。

適切なガバナンスを効かせなくては単純な組織同士の対立にもつながるし、また一方で効かせすぎると極めて民主的で平均的なものばかりになる。このプロダクトガバナンスについても適切に光と影、攻めと守り、強と弱など一見するとトレードオフなものを両立させつつ、大胆に挑戦することが求められると言えそうです。

そして、この攻めのガバナンスについては、最後は執行担当だけではなく取締役の大胆さも求められるのだと思います。社外取締役の方も含めて、常に適切なジャッジをする体制がグロースの鍵ではないでしょうか。
というのも、執行担当は思いっきりその領域に傾聴してよいし、寄り添うべきだし、大なり小なりのバイアスがあるのは当然です。とはいえ引きの目は持ちつつ、会社の成長にとってはこれが最適だ。ということを、大胆にやり続けなくてはならないわけです。

おわりに

書籍を書きたいと思っていたところの「はじめに」は何も書き上がっていませんが、Noteはなんとかなりました。執筆の壁よ。

さて、ここまで持論を書いておいてとてもなんなのですが、この書いたことはあくまで1つの型でしかなく、これをやれば万事大丈夫というものでは全くありません。ここに書いたような型とは違う形で大成長した会社をいくつも知っていますし、これ以外の問題もありますし、また当然、型を因数分解するとこれに近くなるような会社もたくさんあります。少なくとも弊社Reluxのグロースについては、こんな感じのフレームワークでやってきました。

まさかの超大作になってしまいましたが、スタートアップとはそれくらい複雑で、難易度が高く、困難が多々あり、またその中にある一筋の光へのワクワクがあるのだと改めて思いました。しかもまだこの他にもたくさんの壁がある。たとえば、予実合わせの壁、投資家やり取りの壁、メンタルの壁、などいくらでも思いつく。

最後に、私自身は講演やエンジェル投資やNPO団体への寄付などもたくさんしているので、もし何かお手伝いができることあれば是非コンタクトしてください。また、ここまで読んでくださった方は是非ですね、拡散していただいたり、Twitterでもフォローしてくださったら喜びます。絶賛、第二回目のチャレンジ中ですので以下の記事も合わせて読んでくださったらもっと喜びます。

何より、ここまでは読むのも大変だったと思います、読んでくれてありがとうございました!

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