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猫とわたし

夜中、トイレに起きてベッドに戻っていると夜中活動家の猫が追いかけてきて、ベッドに横たわってまだ掛布団をかける前のわたしの胸~腹に乗り、居座った。
うぐぐ。重いんですけど。きみ、4kgくらいあるだろ。
わたしの腹に、猫の腹のあたたかさが密着してきもちい~。

子どもの頃はそのときどきによって、いろいろな動物を飼っていた。
いちばん古い記憶では、借家のふるい一軒家で飼っていた猫のタマ。
彼(彼女?)についての記憶は、あまりない。
次は、これもあまり記憶にない柴犬のポチ。
それから、田舎のニュータウンで建てた家で飼っていたのが鶏の一種のチャボ。つがいを父の実家からもらってきて、庭にちいさな小屋をたてて住まわせていた。毎朝うまれる玉子は、父の味噌汁の具になっていた。難を逃れた玉子たちは孵化してひよこになり、親のあとをついてちょこちょこ庭を散歩する姿がかわいかった。ひよこは雄と雌、一羽ずつを残して祖父に返したけれど、残したつがいはまだひよこのうちに、病気になって死んでしまった。親の二羽は、当時は多くそこらをうろついていた野犬に食べられてしまった。後年、祖父の山にいったら、放し飼いされているうちのチャボの子孫たちが、ばさばさと高い木に飛んで行ったりしていて、たのもしかった。

わたしが小学校5年生くらいの頃に、祖父と同居していた伯父の家から、甲斐犬とラブラドール・レトリバーの混血の「ラブ」がやってきた。白に黒のブチで、いま思えば、当時肥満気味だったわたしを運動させるためにもらってきたのかもしれない。世話をまかされて、朝6時に起きてごはんを食べさせ、ちかくの公園に散歩に連れていった。公園といっても、だだっぴろい空き地に草がもうもうと生い茂っているだけの空間で走り回った。ラブがわたしをものすごい形相でおいかけてくる「狼ごっこ」で、追いつかれて食い殺される!と倒れたら、その上に乗ってぺろぺろとうれしげに顔を舐めるのだった。ある日、学校から帰ってくると、ラブがいなかった。母親が「伯父の家に返した」と言う。事情はまったく知らされなかった。「子どもは知らなくていい」というのが親の考えで、そう言われて釈然としない気持ちになったことが多々あった。悲しくてトイレにはいってしくしく泣いていたら、母から「いやらしい(あてつげがましい)」と言われた。いまだに、かわいがっていた犬を理由もわからず別れすら言えず取り上げられて泣くことの、どこがいやらしいのかわからない。

小学校の終わりごろだったか、姉が捨て猫を拾ってきた。白に黒のホルスタイン柄で、姉が当時好きだったバンドのメンバーの名前をとって、「アンディ―」と名付けられた。アンディ―はわたしに一番なついていて、わたしもアンディ―が生きがいだった。おもしろくない学校から帰ってくると、アンディ―がわたしの足音をききつけて、庭の生垣の端からぴょこんと顔をだす。それからふたり、ダッシュで玄関のほうにかけていって、門のところで顔をあわせ、しばらく追いかけっこに興じた。
母は猫は家にいれない、という方針だったけれど、夜になると、「おやすみなさい」と言って、母屋と廊下でつながっている「子ども部屋」にこどもたちはひきとるのだが、寝入ったふりをしては、庭に面した子ども部屋のガラス窓をあけてはアンディを連れこみ、一緒に寝、母が起こしに来る前に庭に逃がすということを繰り返していたが、ときどき、寝過ごしては起こしにきた母が猫をみつけて怒りに震え、一旦ベッド下に隠れた猫がこそこそとでてくるところをつかまえられ、猫もわたしも殴られるのだった。わたしが高校に進学するタイミングで都市部に引っ越す際、一緒に乗せていた車のドアを一瞬あけた際に走り出て、アンディには二度と会えなかった。

高校の頃、猫好きの社会科の先生の家で生まれた猫をもらってきた。これも、姉の命名で「ポール」になった。最初は家の中も許されていたのに、「猫の毛がソファにつくのが嫌」という母から、マンションの狭いベランダに追いやられてポールはその一生を終えた。それでも、わたしが住んでいたころは、母がいないときにこっそり家にひきいれて、腕枕していっしょにお昼寝したりしていたけれど、大学進学で実家をでてからは、完全にベランダ住まいで、帰省するたびにおどおどとベランダにいるポールが可哀想で、でもどうにもしてあげられない自分がはがゆかった。

だから、縁があって生後1か月でもらってきて11年たついまの猫が、家族全員に愛されて、ダイニングテーブルの上以外は禁止区域なく自由に行き来できているのが、これまで不便をかけてしまった猫たちへのひそかな贖罪の気持ちもあって、うれしい。下の娘も、わたしと同じように、生き辛かった思春期を猫ちゃんのおかげで生き抜けたという。いまの猫ちゃんはなぜか、あまり一緒に寝てくれないのだけが残念だけれど、ここ数年は気が向いたら布団のなかにもぐって、横をむいたわたしのお腹のあたりで丸まってそのかわいらしい肉球をわたしの手や顎にあててくれたり、布団の上から、寝ているわたしの腹の上や足の間に陣取り、(重みから不快を感じて脳が導くらしい)悪夢をみせてくれます。


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