テレ子の週末

2020年5月下旬、その年に世界的パンデミックとなった新型コロナウィルスの影響で自由な行き来が制限されていたのが解除され(それでも「注意して」とのことだけれど)、用事ができてテレ子は京都から大阪にむかった。

テレ子の大阪への交通手段は阪急電車で、3,4か月ぶりに乗る大阪に向かう阪急電車はガラガラとは言えないまでも、ふだん土曜の昼間の特急列車は席を見つけることができずたいてい立っているのに、難なく席を確保することができた。

車窓からみる5月の山々は深緑がまぶしく、思わず口元がほころんだが
傍からみると何もないのにニヤニヤしている変な女であるのを隠してくれるマスクが有り難かった。

いろんな変化をいやおうなしに押し進められたコロナ禍で、じぶんの中でのひとの棲み分けも明らかになった部分もあった。
1月はじめに世間に言われるような症状がじぶんに起こり、家族も2月末にそのような症状があったことで、検査していないもののじぶんでは既にコロナに感染していると思っており、また一部のひとが言うように、インフルエンザくらいの強度のもので(死者だって毎年インフルでそれくらい出ているという)マスクも同調圧力大好きな日本だから流行ってるけどもう不要だと思っている派だけれど、口に出していうと非難されるのは明らかなのでだんまりを決め込み、最後まで抵抗していたものの、世間の白い目がつらいので仕方なく、2,3週間前からマスクをつけるようになった。それでも、苦労して品不足のマスクを手に入れるのはアホらしいので(そもそも品薄の状況で、本来なら使い捨てのマスクをずっと使いまわしているほうが非衛生的ではないか)、娘が手作りしてくれたガーゼのおしゃれマスクをファッションとあきらめてつけているわけだが、まじめなひとからは「それでは効果がない」などと言われる。

商売をしているので必要にかられて対応しているひともいれば、感染することもさせることもさけようと、大本営の発表をまともに受け取ってせっせと励行するまじめなひとたちもいるわけで("When the Wind Blows"を思い出しますね)これらマスクへの反応、考えをきいて、こっそり、こころのなかで知人友人の色分けをすすめている。

さて電車は粛々と大阪にむかって進んでゆき、十三にさしかかった。

十三には、特別な思い入れがある。
かつてテレ子は、24歳年上のやくざ者と6年ほど、つきあっていた。
その会合場所が、十三だったのだ。
十三のトミータウンを抜けてたどりつくドン・キホーテ付近で待っていると
彼がどでかい外車で乗りつけてきた。
無理な車線変更しても、皆が恐れてなにも言わないやつだ。
角からその重厚な黒の車が現れると、重低音の音楽がテレ子の頭のなかで鳴った。

繊細でこだわりの強い彼はさいしょ、時間の10分や20分前に到着していたので
それに合わせてテレ子も約束の時間の10~20分前に着くようにしていた。
それが、だんだんとオクスリが効いてくるようになり
30分から1時間の遅刻はふつうになり、
あるときなど、人身事故でダイヤが乱れ、超満員のなか、必死に行ったのに、彼が現れもしなければ、連絡がとれないこともあった。
手紙が届き、警察署に勾留されていることを知って面会にでかけたこともあった。
何人か平行してつきあっている女と、目の前で電話で喧嘩されたこともあった。

それでも彼から離れなかったのは、それに見合うよろこびとたのしみを彼が与えてくれたからだった。

けれどいろいろな身辺の変化やオクスリの影響などで、ついには疎遠になってしまった。

数年、連絡をとっていなかった彼からふいにまたコンタクトがあったのは昨年末のこと。
それから、ほそぼそとLINEで連絡をとりあい、2月はじめには通天閣そばで会って昔ながらの喫茶店に行った。
彼は相変わらずおしゃれで格好良かった。

それから、コロナの影響で会える機会がないけれども、以前のような関係にはもどらないと、テレ子は思う。
それでも、阪急電車が十三のアナウンスをするたびに、せつない気持ちになるのはこれからもずっと続くと思っている。


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