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むかしむかしあるところに・・・

こちらの記事の続きです。

むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。


おばあさんが運営するホームページを利用して、生活費を集める活動が始まりました。

目標金額を、年金受給年までに必要な額に設定しました。贅沢は望みません。

夫婦で一緒にいられれば良いのです。


けれど、支援額はなかなかのびません。

「困ったわねえ」

おばあさんは川を眺めてため息をつきました。 

あまり優秀ではなかったおじいさんは、クラウドファンディングというものをいまいち理解していません。 

「どうすれば支援額が増えるのかね」  

「そうねえ、応援したいと思える人柄だったり、支援のお礼に何か返せるものがあると良いんだけど」 

「お礼の品なら山のキノコなんてどうだい。ここの山にはあちこちに立派なキノコが生えている」 

「それが松茸とかなら良いんだけど」

おじいさんは自慢げに鼻を鳴らします。 

「松茸よりうまいぞ。焼いても煮ても絶品だ」

 おばあさんは苦笑しました。 

「あなたはなんでも美味しいと言う人だから」

おじいさんは、焦がしてしまった料理も、味付けを間違えた料理も笑顔でおいしいおいしいと言って食べるのです。優しい人なのです。

その優しさに恋をしたことを思い出しました。 

「そうだ、一度食べると良い。私が準備するから」

おじいさんはそう言って、山へ行く支度を始めました。ウキウキした背中を見て、結婚した頃のことを思い出しました。


退職後、趣味のないおじいさんがYoutubeを観て始めたのが山キャンプでした。 山から帰ってくるたびに少年のようにキャンプの成果を話してくれました。

楽しかった、今度は一緒に行こう。山は体にもいいよ。一緒に空気を吸いに行こう。何度も誘ってくれました。 

けれど、おばあさんはその頃は妊活に励んでいたので、山に行くことはありませんでした。妊娠のためには、激しい運動をなるべく避けたかったのです。

そして山でのキャンプを、妊活よりも楽しそうにしているおじいさんを少しだけ憎んでいました。もっと妊活に協力してほしいと思いました。


けれど、妊活は終え、これからは夫婦の時間を大事にしようと決めたのです。おばあさんは決心して言いました。

「わたしも一緒に行きますよ」

おじいさんは目を大きく開いて驚いたあと、嬉しそうに笑いました。

「ぜひ。一緒に行こう」

「けれど、私の分のキャンプグッズもあるのかしら」

おじいさんが用意したリュックサックを開きます。

「いつも二人分入れているんだ」

優しく笑うおじいさんは、とにかく優しい人なのです。

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