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大人になったいまだからこそ、この漫画を読み返したい ~生き方について、考えさせられる傑作

「#私を構成する5つのマンガ」というお題募集を見つけたので、私も考えてみました。
 小学生のころ好きだったのは、手塚治虫『ブラック・ジャック』、石ノ森章太郎『サイボーグ009』、松本零士『銀河鉄道999』、和田慎二『超少女明日香』シリーズ、柴田昌弘『赤い牙』シリーズ。
 でも今回は、あえて20代~30代で夢中になった漫画を5作品、あげてみたいと思います。

【1】三原順『はみだしっ子』(白泉社文庫 全6巻)

 雑誌連載は1975年から始まっていた作品なので、リアルタイムなら私も小学生~中学生にかけて読めたはず。しかしそのころの好みは前述のとおり少年漫画やSF寄りだったため、この作品には大人になってから出合いました。
 グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人の少年が主人公。それぞれ親からの支配やネグレクトを受けて家出した身で、他人同士ですが、兄弟のように寄り添って放浪生活を送り、成長していきます。
 加害者と被害者、善と悪、それぞれの苦悩と、他者への気遣い、ほんとうに人を思いやるとはどういうことか? など、内容は非常に深く、哲学的で、ネームの量が多いこともあり読み応えはたっぷり。
 私は、アンジーが好きでした。
 終盤、「オレは…オレのためにしか泣く事すらできない。そこ迄…オレはひとりぼっちだ」と、ひとりで泣くシーンには共感しきりでした。
 作者の三原順は私と同じ札幌生まれ。そのせいか、絵の中の街並みや雪の描写、樹木の間を吹きぬけていく風にも親しみを感じます。

【2】萩尾望都『残酷な神が支配する』(小学館文庫 全10巻)

 こちらも虐待がテーマ。母親の再婚相手から性虐待を受け続ける少年ジェルミを中心に、ドメスティック・バイオレンスやトラウマの問題を果敢に扱い、被害者・加害者双方の心理を克明に描いた作品です。
 舞台はイギリスとアメリカで、いまから約20年前に発表された作品ですが、現代の日本が抱えている社会問題を照らし出していると思います。いまも、これからも、多くの人に読み継がれてほしい。
 重い物語ですが、絵が美しく、内面描写が繊細なせいか、読後には何か儚くて透明なものが残ります。
 そして……私はなぜか萩尾作品を読むと、ごはんが食べたくなるのです。作中に出てくる食べ物がどれもおいしそう。パイとかジャガイモのスープとか。

【3】清水玲子『22XX』(白泉社文庫 全1巻)

 清水玲子ファンにはおなじみの、ジャック&エレナシリーズのひとつです。といっても、この作品に出てくるのはジャックだけ。私はエレナも好きなので、同シリーズはすべて大好きなのですが、ここではこれを選びました。「ものを食べる」ということについて考えさせられる、とても切ない短篇です。
 白鳥座11番惑星「メヌエット」へ、ある任務のためにやってきたジャックは人間と見分けのつかないヒューマノイド。栄養にならないにもかかわらず、ヒトと同じように空腹を感じ、ものを食べます。そこで出会った少女ルビィは、人肉を食べるフォトゥリス人。
 ルヴィがジャックに問いかけた、「おまえ達は何故、食べもしないのに人を殺す?」という言葉が忘れられません。

【4】鈴木志保『船を建てる』(秋田書店 上下巻)

 このあたりで、ちょっと毛色の異なる作品を……。
 ヒトのように生きている、ふたりのアシカが主人公。名前は、煙草とコーヒー。同性かな? と思うけれど、恋人のようにお互いを大切にし、一緒に暮らしています。
 彼らが暮らす日常と、とりまく人びと(アシカやウサギ)が織りなす、ショートストーリーの連作。余白を活かしたアーティスティックな画風と、示唆に富んだ詩的な言葉で、独特な世界へと読者を連れて行ってくれます。
 心が疲れたときとか、文字量の多いものや重厚な作品はいま無理だけど……というようなときに、私はこの作品を読み返して、栄養補給をしていました。一度、全6巻を手放してしまってから入手困難だったのですが、上下巻で復刻しているのですね。うれしい。


【5】牛島慶子『フレッドウォード氏のアヒル』(潮出版社 全8巻)

 ストリート・チルドレンから有名なサスペンス作家になった男、ケビン・フレッドウォードが主人公。田舎町の郊外に“棺桶のような”大きな邸宅を買い、孤独に生きていた。そこへやってきた家政婦のローズマリーは、人の言葉を話せるアヒルでした。
 生い立ちに対して抱えているコンプレックス、人間への不信感、傷つくことをおそれる臆病さ、そうした心の影の部分に、だんだんと陽がさしていく過程が丁寧に描かれていきます。
 そんななか、元恋人のエスメラルダ、女性医師のグロリア、HIVに感染している少年ニック・ジュニアが、屋敷で同居することになり――。ローズマリーのキャラクターがとても魅力的で、随所に宗教的・キリスト教的なイメージも見られます。
 登場人物それぞれが悲しみを受け止めて、それを優しさに転じていく。「大人」とは何かを考えさせられる物語です。

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 こうして5作品をあげてみると、すべて日本ではない場所が舞台の作品でした。行ったことのない場所や、架空の街が舞台でも違和感なく読めて、むしろそのほうが物語の世界に入りやすいというのも、漫画の素敵なところだと思います。



◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから、Angie-BXLさんの作品を使わせていただきました。ありがとうございます。

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