[BOOK REVIEW] 『大麻の新常識 大麻では死なない、大麻に身体依存はない、でも……』(松本俊彦先生監修,新見正則先生ファシリテーター)
評者
赤星 栄志 先生(大麻草の研究者)
「本書を読んで大麻の知識を
アップデートしよう!」
戦後まもない1948年に施行された大麻取締法は、2023年12月に大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案が可決・成立し、改正大麻法/麻向法として生まれ変わりました。
日本人の9割以上の方が、大麻=悪=ダメ。ゼッタイ。という違法薬物という側面でしか見られていないなかで、75年ぶりに法改正した社会的背景とその意義をどのように考えればよいのでしょうか?
「大麻」とインターネットで検索すれば、厚労省や警察関係の警告広告、合法な国と違法な国、賛否両論の意見、用途別に医療用、嗜好用、産業用といった未整理な情報の洪水に晒されます。
本書では、新見医師がナビゲーターとなって、医師・元官僚・科学者・弁護士・元麻取・起業家のそれぞれの専門家から「大麻」が語られます。対談形式は、今までありそうでなかった構成です。
今までは、「大麻」をテーマにすると、賛成派、慎重派、反対派の立場の違いの溝が大きくて、お互いが聞く耳を持たず、議論にすらなりませんでした。
しかし、イグノーベル賞の受賞歴もある著名な新見医師が、中立性を保つことで、賛成派、慎重派、反対派の主張を紙媒体を通じて議論の土俵にあげたのが本書です。
我々読者はその議論を通じて、「大麻」のどのようなことが論点になっているのかを、整理された情報としてはじめて知ることができるのです。
本書は、海外で合法化を成し遂げた国や地域で、最初に起こった「議論すること」を日本でようやく実現した画期的な企画といえます。
各対談の冒頭に明示された大麻に対する賛成〇・条件付き賛成△・反対×の評価と、対談を読み進むにつれて、大麻草という1つの植物を巡って、立場によって大きく異なる評価の面白さに気づくのです。
議論することは、情報を交換して新しい答えを導くことになります。
徹底的に議論をすると、新しいフレーム(概念体系)ができます。
ところが日本人はこれがたいへん苦手です。
大麻の議論をすることは、科学リテラシー、人権リテラシーも要求されるテーマでもあり、日本人の苦手な分野に、真面目に真正面に向き合うことと思います。
本書のタイトルの最後は「でも……」とありましたが、私が付け加えるならこうなるでしょう。
大麻の新常識―大麻では死なない、大麻に身体依存はない、
でも……日本人の知識のアップデートが間に合ってない。
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