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中国No.1のプロダクトマネージャーとも評されるポニー・マー率いるテンセントの本でよかったところまとめ

面白すぎて一気読みしてしまった「テンセント――知られざる中国デジタル革命トップランナーの全貌」という本。

プレゼンが得意でコミュニケーション能力の高いアリババのジャック・マー(右)とは対称的に、内向的でメディアを好まないテンセントのCEOポニー・マー(左)。

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そういったこともあって、あまり表に取り沙汰されることのなかったテンセントの実情がその歴史とともに紐解かれています。

設立当初は大変な苦労をするも、QQの大ブレイクからの通信キャリアとの連携による初期のマネタイズ、そして今日のWeChatまで怒涛の成長ストーリーは圧巻です。本当にプロダクトファーストの会社なんだと染み染み伝わります。昔からずっと”パクリの会社”として批判を浴び続けているというのもリアルでしたw ポニー・マーのこの言葉に現れているとおりですね。

私はむやみにイノベーションはしない。マイクロソフト、グーグルがしていることは、すべて別の誰かがやったことだ。最も賢い方法は間違いなく、最善のケースを学んでからそれを追い越すことだ

テンセント社直々の執筆依頼だったとのことらしく、全面サポートのもと関係者への綿密な取材もあり非常にリアルに描かれています。

最高のプロダクトを作っていく上でためになるストーリーばかりでしたので、備忘録も兼ねて以下にKindleでのハイライト箇所を引用をしていきます。

アルフレッド・チャンドラーは、アメリカのアーリーステージの商工企業が成長するまでの歴史を研究する中で、有名な「成長四段階」論を提起した。すなわちリソースの蓄積、リソースの適切な利用、持続的成長、拡大を続けるリソースの適切な利用だ。テンセントのアーリーステージ成長史を振り返ると、そうした発展の軌跡をはっきりと見て取れる。QQでユーザー資源の蓄積を果たし、イノベーティブな収益モデルによってユーザー資源の収益への転化を実現した。だがこれは決して必然的なプロセスではなかった。
極めてサイズが小さいIM(Instant Messaging、インスタント・メッセージング)ツールからスタートしたテンセントは、創業当初から先天的に「プロダクト」のコンセプトが備わっており、「少ないことこそ最適である」「Don't make me think!(私に考えさせないでくれ)」「無形の中に機能を存在させる」という考え方だった。馬化騰本人は「細部の美学」と「知性不要主義」のパラノイア的実践者であり、その点で中国ひいては世界インターネット界の神童であった。そうした強みは、PC時代には決して際立っていなかったが、モバイルインターネットの時代に入ると最強の殺傷力を持つ企業哲学となった
OICQというプロダクトに現れているスマートさは、そのほとんどが優秀な中国インターネット業界人の共通の特質だ。インターネット産業が誕生したその日から、コアテクノロジーの開発と基本的製品モデルの発明においては、中国人はアメリカの同業者に到底太刀打ちできなかった。それまではずっと、「外国のよいものを積極的に取り入れる主義」の者たちの集まりだった。しかし、ローカライズする中で彼らは無数の応用的イノベーションを実施した。そうした小さくて細かく、より実務的なイノベーションによって、外国の開発者にははるか及ばないレベルとなり、ひいては法則を見いだすのも難しくなった。本質的に言えば、これらのイノベーションは経験と本能の 範疇 に属する
QQショーはある意味、リアルタイム通信クライアントの性質、機能と利益獲得モデルを作り替えたのであり、これはテンセントとICQとの華麗なる決別であった。  テンセントの歴史、さらには中国のインターネット史上において、QQショーは革命的な有料プロダクトと言えるだろう。世界インターネット産業の「東洋型応用イノベーション」と見なしてよい。テンセントはそのイノベーションを何もない所から始めた者ではないが、そのイノベーションによって真の商業的成功を手に入れた。そしてQQショーによってテンセントと同社の億単位のユーザーとの間に心情的な帰属関係が生じたことは、商業利益よりもさらに価値のあることだった。
QQショーの成長史上において、「レッドダイヤモンド」サービスのリリースは一つの起爆点だった。それまでのバーチャルアイテム月間収入はだいたい300万元から500万元の間だったが、「レッドダイヤモンド」開始後は月額制による収入が1000万元をすぐに突破した。
ある社内上級職の会議において、馬化騰は組織編成後のマネジメント理念についてこう述べた。「今後5年のテンセント最大の課題は実行力だ。マーケットがどんな状況なのか皆に見えてはいるが、すべてを掌握できるとは限らない。万全の指標体系と組織構造によって統制力が組織全体にきちんと行き渡るようにし、厳格な人事考査および下位者淘汰制度によって優れた人材はとどめおく。これらすべてにより、テンセントを優れた個人ではなく体制的な機動力に依拠する成熟した組織とすることができる
首都から遠い 深圳 に位置し、インスタントメッセンジャー事業だけで身を起こした小さな会社が今まさに領土を拡大して仮想世界の中央帝国を築こうとしている。最も好意的な評論家でも、心配になるだろう。まさに歴史上の各帝国の盛衰からわかるように、領土の開拓は比較的容易だ。しかし統治能力の半径が領土の半径に届かない場合、そうした帝国は長く持たない。テンセントにコアコンピタンスはあるだろうか。もしあるのなら、同社のコアコンピタンスの「発射出力」は、「コアから出発した」同社のあらゆる事業まできちんとカバーできるだろうか。事業の「空間的構造」について述べると、これらの事業はすべて関連し合って「多数の星が北極星を中心として動く形」を作れるのか。また事業群の「時系列的構造」については、「種子産業、苗木産業、果樹産業、枯木産業」で形成される事業群は、互いの引き継ぎや順調な成長が可能なのか。果樹産業が枯木産業になるまでの間に、これほど多くの種子産業と苗木産業の重さに耐えられるのか。
グーグルがヤフーを追い越したのは、単にユーザー数で上回ったからではなく、主にキーワード広告モデルを応用したことが原因だった。テンセントもそれと同様で、Qゾーンに依拠して突如台頭したが、本質的には収益モデルのイノベーションが決定打であった。
転機は2007年に訪れた。Qゾーンの流行に伴い、QQ音楽は以前とは違う道を歩むことになったのだ。 「我々はある問題を考え始めた。ネットユーザーは、どういうシーンや条件ならお金を払って正規版の楽曲を買うのか。我々の答えは、買うのは楽曲そのものではなくサービスである、だった」。では音楽サービスとはどんなものであり、かつどんなサービスなら金額にかかわらずネットユーザーに必要となるのか。朱達欣たちは、ウェブページBGMという新たな需要点を見いだした。 「Qゾーンはユーザーが仮想世界で独り楽しむプライベートな空間だ。自宅の応接間のように、誰かが訪ねてきたら音楽でもてなすのは、礼儀としてごく普通のことである。つまり、人々が音楽を購入するのは特定の人に自分の気持ちを示すため、という可能性が存在する」  

これとかLINEでBGMが設定できるやつの元ネタですね。

テンセントとフェイスブックの違いは、以下の5点に現れている。 第一に、オープン化戦略を実施したときのフェイスブックは、下から上に攻めていく後進者であった。そうしてルールを破壊し、秩序を再構築した。マルクスの名言をまねれば、ザッカーバーグはオープン化によって「失うのは鎖、得るのは全世界」だった。一方、テンセントは2006年以降にユーザー数最大、時価総額トップのリーダー的企業となった。既存秩序の最大の受益者であり、馬化騰にとっては、オープン化はテンセントに決定的な成長をもたらし得ない。  
第二に、テンセントとフェイスブックは、リレーション・チェーンの底層設計に先天的な差異がある。フェイスブックは当初からソーシャル型コミュニティであり、友達の関係は公開される。しかしQQはリアルタイム通信ツールから発展してきたため、リレーション・チェーンが相対的にクローズであり「友達の友達は決して私の友達ではない」。全面的なオープン化はそのロジックに背くことを意味する。実名制のフェイスブックと比べて、同じくSNSコミュニティであるQゾーンは実名を強制していないが、空間の中はほとんど知り合いとの関係であるため、プライベートなやりとりが生じる。この点は、媒体的性質を持つブログとは本質的に違う。フェイスブックよりも先進的なのは、QゾーンがQQと先天的に一体化していることにより、いっそう豊富で多様なコミュニケーション方法と収益モデルが生まれたことだ。なおフェイスブックは、2008年まで自社のインスタントメッセンジャーを持っていなかった。

 

第三に、フェイスブックがプラットフォーム以外何も持っていないのに対し、テンセントは「プラットフォーム+プロダクト」型である。テンセント自身が中国で最も優秀なプロダクト開発者なので、全面的にオープン化したら必然的に「左手と右手が格闘する」「審判と選手が同じ場で競い合う」というやっかいな事態となる。この事態はテンセントとしては耐えがたく、継続できないと言えよう。
第四に、収益モデルに関してフェイスブックが真に関心を持っているのは、アプリケーションソフトが各プラットフォーム中で生み出す情報量である。そこから広告を通じて収益を獲得しており、広告が収入に占める割合は8割にも上る。サードパーティーのアプリケーションから得るレベニューシェアの収入は、補完的な特別手当程度でしかない。一方、テンセントの収入源は仮想付加価値サービスとオンラインゲームであり、コミュニティの広告は以前から大した額ではなかった。しかも中国のユーザーに歓迎されるとはかぎらない。
第五に、イデオロギーの影響もあるのだろうが、フェイスブックのグローバル化モデルと比べて中国は「孤島型のマーケット」である。海外の者は自由に入れないし、中国インターネット企業が海外に進出するのも容易ではない。したがってテンセントは、たとえあらゆる困難を乗り越えて世界に出ていったとしても、第二のフェイスブックとなるのは絶対に不可能だ。
た。「テンセントはQQ上にウィンドウ表示を一つ増やし、友達がプレー中のゲームを通知するようになった。クリックすると、直接そのゲーム室の中に入れる。QQは登録アカウントが2億以上なので、それで生じるプレーヤーは驚くべき数になる」
聯衆は技術的ハードルが最も低いテーブルゲーム市場を死守していないで他の所へ突撃するべきであり、自社開発、導入もしくは共同運営の形で大型オンラインゲーム市場に参入するか、もしくは新たなゲーム形態を創出するべきだったという。聯衆には、危険を覚悟でそうした行動に出る時間が少なくとも2年はあった。「突撃すれば死ぬかもしれないが、少なくとも活路は一つある。だがテーブルゲームを守っているだけでは必ず死ぬ」  これは明らかに、ビジネススクールの格好の教材だ。ある意味、聯衆は模倣されて死んだのではなく、対応策を採らなかったこと、危険を覚悟でイノベーションを継続しなかったことによって死んだのだ。
QQペットのケースには、以下の典型的なテンセント式運営がはっきりと見て取れる。一つの「真の要望点」に狙いを定め、ユーザー体験上で究極を目指す→膨大なユーザーの中から消費層をつかみ取る→一定数の基本ユーザーが形成されてから段階的に有償サービスをリリースする→最適化を続けてライフサイクルをできるだけ延ばす→また新たな要望点を探す。  この進化のロジックは、テンセントのほぼすべてのプロダクトに体現されている。
「2位以下は何のゲームなのか覚えている人が基本的にいない、という点だ」  こうした考察を踏まえて、任宇昕 はインタラクティブエンターテインメント部のある業務討論会で、皆で今もめている二つのトピックについて、一つ目は勝算がはっきり見えていない、二つ目は「偽の命題」であると発言した。  そして非常に急進的な戦略思想を提起した。「敵を倒してレベルアップする」がテーマの大型オンラインゲームの主戦場を回避し、カジュアル競技ゲームにフォーカスして全力で取り組むとともに、カテゴリーのチャンピオンにならなければならない。任はこれを「後発者の側面攻撃戦略」と呼んだ。討論会では、銃撃、サーキット、格闘、フライトシューティング、音楽ダンス、とカテゴリーを板書し、戦地の指揮官のように「これらこそ、テンセントのゲームが征服すべき山である」と述べた。
シャンダは「サイバーディズニー」を構築するという新戦略を提起し、文学、音楽、旅行、映画・ドラマ、動画など複数の分野に次々に進出して、オンラインゲームをプラットフォームとする広大なエンターテインメント王国を構築しようとした。シャンダはこの戦略によって複数分野開拓の泥沼にはまり、ほぼすべての分野で強敵に遭遇した。また同社のオンラインゲーム上の先発優位は、精力を分散したがために次第に失われていった。  リアルタイム通信ツールと異なり、オンラインゲームユーザーのプラットフォームに対する忠誠度と依存度は非常に低い。ゲームがつまらなくなると、すぐにきびすを返して去っていく。インターネットの世界では、中核プロダクトとキラー級アプリケーションをなくした企業は、防御施設を失って陥落と略奪を待つばかりの街と同じとなる。
インターネットは、統合型マーケティング・コミュニケーションに大きな変化をもたらす。単に外に向けて発信するという伝達のあり方は、インターネットでは二度と存在しなくなるだろう。ネットでの伝達体系は、単に外を向いているのではなく、インタラクティブである。情報は、マーケティング担当者や情報伝達者が統制するのではなく、顧客が統制する。顧客は伝達のターゲットではなく、マーケティング担当者や情報伝達者と同等の地位にある。また、消費者も企業が説得する対象ではなく、企業がその応答に耳を傾ける対象である」
テンセントの成長史をかなり長期的に見渡すと、この企業の形態転換およびイテレーションの駆動力は、既定の戦略ではなくプロダクトの持続的イノベーションから生まれている。そしてイノベーションも、ラボラトリーから生じたのではなく絶えず変化するマーケットの需要に由来している。ケビン・ケリーは早くも1998年に著書『New rules for the new economy』(邦訳『ニューエコノミー勝者の条件』)の中でインターネット企業のそうした典型的な特徴を予見し、これを「流動的変化」と呼んだ。すなわち、インターネット経済は単なる変化から流動的変化の状態に入り、流動的変化が既存の事物を覆し、さらなるイノベーションを育む場を提供する。こうした動態は「複合再生」と見なされるものかもしれず、混乱のへりを源としている、という。
唐沐が説明した光景が、まさにテンセントの流動的変化への対応戦略である。変化があればやり方を変え、決まりきった方法は永遠にない。  馬化騰はテンセントの漸進的なイノベーションを「小股の疾走、試行錯誤のイテレーション」と説明した。馬の考えでは、毎回のプロダクト更新はいずれも完璧ではないかもしれないが、小さな問題を毎日一つか二つ発見して修正を続ければ、1年もしないうちに作品はほぼ磨き上げられて、プロダクトらしくなったと思えてくるのだ。
ユーザーのニーズを深く知り抜いていなければ、プロダクトを万全にする対応はこれほどスピーディーには進まないことがわかる。かつてヘンリー・フォードは「成功の秘訣は、自分の足を他人の靴に入れてみて、他人の視点で物事を考えることだ。サービスとはそういう精神であり、お客様の立場に立って世界全体を見ることだ」と言った。顧客の視点でビジネスを考えることは、どうやら公然の秘密のようである。
「プロダクトに足りない点を発見するための最も簡単な方法は、毎日そのプロダクトを使うことだ。プロダクトマネージャーは、感覚を研ぎ澄ましていないとプロダクトの足りない点に気づけない。問題を見つけられないと言ってくるマネージャーがたまにいるが、私はいつも不思議に思う。プロダクトをリリースしてから、マネージャーが3カ月使い続ければ必ず問題をいくつも発見できると私は確信している。問題は数が限られているので、毎日一つ見つけて解決していけば、徐々に『高評価』のレベルに近づける。仕事の技術性が高いわけではないからそれをしない、というのではいけない。よいプロダクトは皆そういうやり方で完成するのだ。当社のリーダーたちは、単に下の者たちに作業を割り振るだけではなく、絶対に自らも作業をする必要がある。それらは難しいことではなく、取り組み続けることが鍵だ。一つのプロダクトの基本的な形ができあがるまで、『この週末に試さないと、必ず問題が生じる』という気持ちを絶対に持っていなければならない」
馬化騰の推進により、テンセントには「 10/100/1000の法則」が誕生した。プロダクトマネージャーは、毎月必ずユーザー調査を 10 件実施し、ユーザーブログ100本に目を通し、ユーザー体験1000件を収集してフィードバックしなければならない。  馬本人の言葉を借りると「このやり方は、一見愚かしいが役に立つ」
張小竜に「そうした機能面のアイデアは、ユーザーリサーチを踏まえて誕生したのか」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。 「大部分のイノベーションはリサーチではなく、我々が自分で繰り返し体験した結果から生じた」。
馬化騰と張小竜を取材した際、もう一つこんな質問をした。「ユーザー体験」とはいったいどのような行為なのか。  馬化騰はこう答えた。「インターネット化されたプロダクトは、ディスクに焼いて発売する従来のソフトウエア開発とは異なる。我々は永遠にベータ版であり、すばやくアップグレードしなければならない。2、3日おきに次のバージョンを出すとなれば、変更を絶えず加えながら、フォーラムやユーザーからのフィードバックにも耳を傾けていなければならない。その上で今後の方向を決める。したがってプロダクトマネージャーは、自身が小うるさいユーザーにならないといけない」  張小竜の説明はもっと面白かった。「ユーザー体験とは『超初心者ユーザー』に変身する速さだ」
本当に使用しているユーザーが大勢いるとはかぎらない。しかし、大きなファイルを送りたいのにさんざん探しても送れる所が見つからず、やむなく「しょうもない」QQメールを使った、と言うユーザーがいるかもしれない。それでいいのだ。そこから我々に対する評判が生まれる。  中核的な能力については、まずは技術的な突破口が必要だ。我々は他社に存在するものを作ってはならない。それでは常にナンバー2、ナンバー3だ。それでチャンスもあるだろうが、初めて何かを作り上げたときの喜びは味わえず、ユーザーの共感を失うだろう。このとき、まず注目すべきはプロダクトのハード指標だ。設計と開発の際、外界はそれを競合プロダクトと比較するという点を考慮しないといけない。
プロダクトの部分的、微細な所のイノベーションは永遠に万全にはならないものだ。よい評判を得ているプロダクトの場合、機能を追加する際は毎回しっかり考えないといけない。その機能は、 10% のユーザーに好感を持たれる一方で、 90% のユーザーが困惑するかもしれない。そういう相反がある場合は賢く対応し、状況に応じて回避しなければならない。どんな機能も、多用されているからよいものとはかぎらない。使った人が皆よいと思うものこそが本当によいものだ。
設計においては、我々は以下の点を貫くべきである。  ・ユーザーに強要しない。  ・1% の需要のために 99% のユーザーを困らせない。  ・あっさりしたアート。寸止めにしておく。  ・低年齢化に意図的に迎合しない。  プロダクトの全体的な枠組みおよび運営においては、以下の戦略を採用するとよい。  ・インタラクティブ機能 「Don't make me think!」(私に考えさせないでくれ)  ・アート表現 「極力シンプルに」  ・プロダクト設計 「無形の中に機能を存在させる」  ・運営の要件 「不安定さは、それまでの努力を台無しにする!」  ・全体的要件 「速い、安定、優れた機能、よい体験!」  ・ニーズの発見 こまめにBBSとブログをチェックする。  馬化騰のこのスピーチは、タイトルこそ「QQメールによるユーザー体験」だったが、馬のプロダクト哲学をほぼ網羅していた。この中で触れた「評判の作り方」「スピード」「究極」「細部」「一点突破」などの概念の多くは、のちのインターネットプロダクトに標準装備される文言となった。
テンセントでは、どのプロダクトにも専用のオフィシャルブログ、プロダクトフォーラムなどのユーザーフィードバックエリアを設けている。ユーザーのフィードバックをなるべく得るため、テンセントは「フィードバック」ボタンも一番目立つ位置に設置している。他社の場合、プロダクトフォーラムをテンセントのように戦略的に高い位置づけとしているところはほとんどない。
「見通しが明るい分野があれば、テンセントは必ず機会をうかがってそこを奪い取る。常に黙々と布石を打って、ひっそりと相手の背後から現れる。また、テンセントはいつも最高のタイミングで事態をかく乱しにやってきて、同業者を不安にさせる。そしていったん機が熟すと、容赦なく自分のパイを持ち去る。時にはターミネーターとなってマーケット全体を占領する」。
まさにヘーゲルの言うように、承認されたいという欲求は人間の生存における最も基本的な願望だ。
成熟したビジネス従事者なら、揺るぎなく鮮明で、相矛盾する二つの信条を持っているべきだ。まず、既存の秩序と倫理的ルールを破壊しなければならない。その一方で、秩序とルールの再構築にも尽力しなければならない。その従事者は、破壊した結果の引き受け手であり「遺産相続者」だ。相互に矛盾する願望を心の底から感じ取らなければならないが、落ち着いた心持ちで仕事を続けなければならない。それがビジネスの技法である。
ウィーチャットは7月に入って「近くにいる人」の機能を搭載した。張小竜の言葉を借りれば「この機能が戦局を大きく転換させた」。それまでの半年間、ウィーチャットのユーザー数はまだ100万を突破していなかった。テンセント社内では、公開半年後のユーザー数が100万を超えないプロダクトは、ほぼ取るに足りないものと見なされる。しかし7月以降のウィーチャットは、1日当たりのユーザー増加数が一気に 10 万人以上という驚きのレベルに達した。しかもこれは、何のQQリソースも使わないという前提で実現したものだった
なぜウィーチャットは好調でKikは今も無名のままなのかを(我々は)考える必要がある。アプリケーション系ソーシャルツールの中核的価値は、ユーザー体験だ。ご覧のとおり、ウィーチャットの大半の機能は他のソフトにも搭載されている。たとえば「シェイク」を最初に搭載したのはBumpだった。このソフトは二人でスマホをコツンとぶつけると名刺交換ができる。中国では誰も知らないこのソフトを我々がウィーチャットに移植したところ、初月の使用回数が1億を超えた。また音声通話機能は2004年前後にはすでに完成していたが、ウィーチャットに搭載するまで火がつかなかった。したがってインターネットプロダクトの成功の可否を決める鍵は、あるシーンにおけるユーザー体験なのであり、それ以外のものではない。
もしかしたら競合が模倣し、何か違うものを追加して自分がイノベーションをやったと言いだすかもしれないから、我々はしっかりと考えるべきではないか、という内容だった。私はこう返信した。今の我々の機能は極限まで簡素化してある。競合は我々を超えられない。我々が何もないところまでやり遂げたからだ。競合は、我々を超えようとして必ず何かを付け足すだろうが、付け足した時点で我々を超えるのは不可能になる。
「ラッキーマネーゲット」により、いったいどれくらいのユーザーが新たな決済方法に紐付けられたのか、テンセントはずっと公開してこなかった。しかし、テンセントがこの何のコストも発生しないアイデアで、ほぼ一夜のうちに最も重要なオンライン決済のサービス業者となったことは間違いない。一般の人々がはしゃいでいる間に、eコマースに立ちはだかっていた最後の壁をウィーチャットが打ち砕いたのだった。
インターネットの生態系はめまぐるしく変化している。通常の場合、変化への対応力が非常に重要だと我々は考えているが、実際は自発的に変化する能力のほうが重要だ。
テンセントの最高社内方針決定者たちは、大部分が網大為と同様に控えめで実務に徹するタイプだ。このチームはかなり長期的な安定性を維持しており、アリババやバイドゥ(百度)などの企業とは明らかに異なっている。  テンセントのような経営陣を説明するには、「庶民のヒーロー」より「控えめ型リーダー」という言葉のほうが間違いなく適切だろう。彼らは、従来の意味での大胆で勇敢なリーダーのイメージにはまったく当てはまらない。本人たちが基本的にそのようには振る舞いたくないからだ。  こういう経営陣は劇場型キャラクターがおらず、パフォーマンス欲もないが、最も毅然とした冷静な姿勢で会社をより先へと進めさせることができる。彼らは現実主義者で、いわゆる奇跡をあまり信じていない。

以上となります。

名言が多すぎますね。WeChat生みの親である張小竜の以下の言葉とかリアルに震えました。

今の我々の機能は極限まで簡素化してある。競合は我々を超えられない。我々が何もないところまでやり遂げたからだ。競合は、我々を超えようとして必ず何かを付け足すだろうが、付け足した時点で我々を超えるのは不可能になる。

テンセントのプロダクト開発に対する思想、哲学をインストールさせて頂きつつ、自分たちらしさも意識しそれを見出させるよう、プロダクト作りを引き続き愚直にがんばります。

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