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平野利樹─石の島の石/ボタニカルガーデンアートビオトープ「水庭」/直島港ターミナル

平野利樹|東京大学

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新型コロナウイルス流行によって、地球全体の教育の場が物理空間から情報空間に強制的に切り替わってしまいました。世界中の建築学部の設計演習でも、どのようにエスキスから講評会まですべての過程をオンラインで実施するかを試行錯誤しています。
これまでの建築教育は物理的な行為や要素、つまり実際に敷地に足を運ぶこと、人々と顔を合わせてコミュニケーションを取ること、模型やスケッチで思考することに重きを置いてきました。例えば、現在コンピュテーショナル・デザインを強みとして活躍している建築家たちも、皆最初はそのような信念をベースにした教育を受け、自身の根っこのどこかにはそこで叩き込まれた価値観が残り続けています。

それに対してこれから建築を学び始めるみなさんは、幸か不幸かそのような価値観の刷り込みから自由になってしまった最初の世代です。我々指導する側の世代は、自分たちの核にあるこれまでの価値観をどのようにして情報空間を経由して伝えることができるかを模索し続けるしかありませんが、みなさんからの世代にはもしかすると新しい価値観が生まれるのかもしれません。しかし、今まで以上に注意すべきこともあると思います。このような事態を機として、多くの極端な思想や未来像が現れ始めています。それらは、これまでの価値観を単純に反転したとても分かりやすいものであったり、逆に特殊な用語が散りばめられて煙に巻くようなものであったりします。
惑わされずに新しい価値観を見つけ出すためには、自分の感覚を研ぎ澄ます必要があります。その一つの方法として、ひたすらさまざまな作品を見て、なんとなくでもよいからそこから感じた快感、違和感、嫌悪感を大切にすることが重要だと思います。(オンラインでの教育について『新建築』2020年6月号(6月1日発売)にて執筆予定です。そちらもぜひご覧ください。)

さて、この機会に私も新建築データに掲載されている作品をすべて見てみました。現在は2005年からの作品が収録されているので、ほぼ自分が建築を学び始めた頃からの作品を辿ってみたことになります。まずは時系列、カテゴリ別にざっとサムネイル画像を見て、気になるものをひたすら新規タブで開いておき、あとからそれを一つ一つ読みながら、ふるいにかけていき、最終的に3作品に絞り込みました。

石の島の石|中山英之建築設計事務所

ボタニカルガーデンアートビオトープ「水庭」|石上純也建築設計事務所

直島港ターミナル|妹島和世+西沢立衛/SANAA

絞り込んでみて、この3つから共通して受けた感じとは何かを考えてみます。
にゅーん・ぽこっとしたシルエット感?ツルツルしていてガサガサしていてゴワゴワもしているようなマテリアル感?よくわかりません。でも今の自分はそういった感じが気になっている、それをとりあえず言葉にしてみます。これを日頃から繰り返すこと。そしていつか実際に現地に赴いて、果たして受ける感じが変わったかを確認する。もし違うならそれはなぜかを考える。私もこの3つの作品を見に行ったことがないので、早く行くことができる日が来るのを待っています。

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