そう簡単には終わらない-皆野アルプスを行く破風山ハイキング㉑
登っては降りて、降りては登る。
とりあえずゴールである大山登山口目指して二人は重たい足を動かし続ける。地図上では下っているのだろうけど、多々現れる上り道もあり、下り続けているという感覚はない。
急な上り先には鎖補助なしの大きな岩。3回目ともなればちょっとした慣れっこ。足でしっかり支え、一歩ずつよいこらと進んでいく。15時34分、前原岩稜に到着。
美しい眺望に心和ませるものの、相変わらずの足場はゴツゴツ、安定感に欠ける。のんは自分をごまかしながら風景を楽しもうとするものの、解放していない高所恐怖症は内側からじりじり占領を始める。
平気そうにしているたぁの内心はどうなんだろう?
心の余裕がなくなり、安全を求めのんは先へと下り始める。
「あっ、何か匂う。花かな?」
「本当だね、多分、あの子かな。」
たぁが指す花はすずらんのよう。白いスカートをはいた妖精たちが集まり、グループを成している。
顔を近づけると確かに同じ匂い。
「よく見つけたね。私、気づかなった。」
「匂いが教えてくれた。」
粋な返しだなぁ。
自然に口から出る様から格好つけではないと悟る。
前原岩稜の日向から日陰へと戻り、続く道に歩を進める。
「あっ、この松樹皮、すごい剥がれている。熊がやったのかな?」
木の中央あたり長さ50cmにもわたり大きく樹皮が削り取られている。
「多分、菌だよ。こうやって木に侵入するんだよ。」
えっ、予想外の返答。
なんだ、なんだ。たぁは森を歩く技術に優れているのは知っていたが、まさか森自体にも詳しいのか?
「たぁ、すごいね。なんでも知っている。」
たぁの顔は明るく変化し、さらに長い説明が続いた。
急な下り坂ではロープを探すのが癖になってしまった。見つからないと残念とばかりにテンションちょっと下げて必死に下る。あればラッキーとばかりにすがりながら降りていく。ただロープを持つ手に摩擦もかかり、いい加減手のひらがひりひりしてきた。皆野アルプスコースはグローブは必須アイテム。
「あっ、たぁのお尻に毛虫ちゃんがついている。」
トレッキングポールに移動させようと試みるもスペシャルヒップがお気に入りになってしまった毛虫ははなかなか外れようとしない。断固として動かず虫はついに変な液体出してきた。ちょっと気を付けないと、毛虫エキス肌に影響ありそうじゃん。のんは枯れ葉へとアイテムを変え、移動を促すも抵抗半端ない。次は枝を拾い上げ、ツンツンしてみる。すると体をUの字に曲げて下に落ちた。
「死んじゃった?そんなに突いていないよ。」
「大丈夫だよ。居心地の良い場所から離れてショックなだけだよ。」
ごめんね、たぁ柔らかお尻はのんのものだから森の中の別の良い場所見つけてね。
やっと到着、前原山。
バンザーイ、ゴールまであと少しっ!
標識とはいつでも助けになるものが、ここではショッキングなお知らせが。
“皆野駅まで45分”
「えっ、あと10分くらいじゃないの?」
「私もそう思っていた。」
つま先とかかとの痛みに耐えながら歩いた末、予想よりも長く歩かなくてはいけない事実は受け入れがたい。確かに先ほどチェックしたのは大渕登山口までの目安時間だからその先の皆野駅となればさらに時間がかかるだろう。だけど二人はその違いに気づかずただただ“45分”という時間にショックを受けて、気を落とす。
とりあえず落としてみる。
そして進むしかないという事実も受け入れて険しくも美しい山道をさらに進む。
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