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冬の旅から


猟犬の遠吠えが山彦になって
尾のながい小鳥のさえずり
向日葵の種がならぶ切り株
空は夜の支度をはじめて
気のはやい星々がちらちらとひかりだす
頬をなでる風のつめたさ
からだのなかを流れる
血液のせせらぎの音が聴こえる気がする
遠い村

どこまでも広がる
深い谷と聳えあがる崖を眺めていると
何万年ものときを刻んだ
この星を抱きしめたい
生まれきて
潰えた命を
いまは思わずにはいられない
このぼくはいったい何者なのだろうか
この手のひらから
ゆるやかな哲学が
ほろほろととけて消えた

きみに恋した時代の地層を
村の道でかぞえて歩く
おびえた獣たちの気配から
かんたんではない森のパズルに迷いたい
きみと手をつないで渡った橋を
思い出して
おおきく息を吸って目を瞑る



山の水を沸かして
珈琲をたてる
だれも居ない教室の朝
はりつめた冷気のなかで
お湯のしずくだけが
異国の香りのなかに落ちていく

ひとはなにもできない
ただ生きていくだけ
ひとはなにもできない
ただことばをさがすだけ

山の水を沸かして
珈琲をたてる
さびしい苦みだけは手離さない
記憶だけは残して
輪郭のある器に
そっとそそぎこむ

遠くで若いひとたちの声がする
山の動物たちも動き出す
はげしい雪を降らす
黒い雲が迫っている



◎ 国立ランブリング「創作ノオト」
年があらたまって1月は、あっというまに過ぎてもう2月。
この冬は旅から旅の日々でした。
今回のランブリングは、国立を飛び出しての特別バージョン。
そして、雪国から帰って来た国立は、寒い日々のなか、春が遠くないことを感じさせてくれました。
写真は、山形県鶴岡市温海地区の廃校になった小学校の校庭の冬景色です。

https://happyspot.jp/blog/theme.aspx?id=%81E%8D%91%97%A7%83%89%83%93%83u%83%8A%83%93%83O

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