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逃げる二月をつかまえて

雪のかおりがする通りを歩く
いつか泊まった宿坊の夜明けまえ
ひとり湯舟につかった
ぼくたちの芭蕉が恋した出羽三山
見えない南谷を
この町で思い出す二月

逃げる兎のように
飛び跳ねる
菜の花がほら
あんなに咲いている世界で
飛び越えることのできないひと群れの
ニュースが届いている

いくつもの国のひとたちが
おなじ食卓でともに食べ
飲みあかした宴のあと
いくつもの寝息の交響曲
まるで二月のレクイエムのようだ
聖なるものと現実の奈落
そのあやういバランスのうえで
きょうの山の信仰が生きているのを観測できる

まるで詩のようだ
ぼくたちは身過ぎ世過ぎの
舟に乗って
ゆるやかな川を下っていく旅人
数千年にわたってつないできたもの
きみの声
こだまのように聴こえるよ

山の結界を思い出そう
聖なる者に見つめられているから
北の旅
人間のシンポジウムから帰って来て
食べることと生きること
おおきな物語とちいさな物語を
鳥の目と虫の目で
この手のひらにのせて
二月のオーディエンスに届けよう

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◎国立ランブリング「創作ノオト」
脱兎のごとく逃げる二月をつかまえて。
いろんなところに旅しては、国立に帰還する二月のなかで、芭蕉の
東北の旅を呼び込みたくて。
この世界にも、もう春はすでに始まっているんだ。


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