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夏のランブリング

西瓜を食べよう
袖口を甘く濡らしても
砂浜にはほど遠いこの町で
木陰をもとめる犬に
なまぬるい風が吹く
水を置いた食卓
どこかで風鈴がゆれる
きみの寝息をもっと近くで感じたい

本のつづきを読むあいだ
雲の動きが気になってしかたがない
遠い時代を呼んでいる
嵐も近いのだろう
八月の秘匿されている宝物
それを狙う夏の盗賊たち
つくるのではない
気づくだけでいいというルール

この町でなにかが始まっている
つよいひかり
湿度の重みに
ことばまでもが濡れる
まなざしとためいきの交換
すべてがいとおしく思えてくるんだ
銅鑼の音が聞こえる
海のない午後
ぼくは本をとじ
きみの背中を抱きしめる

見えない者がドアをノックする
出かける時間
富士見通りから旭通りに渡り
学園通りにまわり込んで大学通りに
錆びてしまった感情を
溶かす風が吹き始めた
沈黙だけがシェアされる町

古い靴を捨てろ
新しい服も
ぼくたちはなにを求めているのか
哲学だろうか
夏の嵐が近づいている
生きているという実感のなか
この町で

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

◎国立ランブリング「創作ノオト」
夏のランブリングは、7月、8月合同になりました。
台風シーズン。
南からやってくる使者は、この町にもあたらしい何かをもたらします。
大岡昇平も野坂昭如も居なくなった8月。
この8月を自分で考える毎日が、きっと求められているのだと思います。

ぼくたちは、それぞれに大切なひととともに、この町で暮しています。

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