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なんて素敵な世界なんだろう

#Xmas2014  

なんて素敵な世界なんだろう  小山伸二



終電が西の闇に溶け込んでいく
うつむきながらホームを掃き清める
憂鬱な影も揺れている
聖者の眠りのように
ベンチに横たわる影の寝息が聴こえる

交番前の横断歩道を渡ると
居酒屋から出て来た賑やかな一群
大切なことは見えないんだ
だれかが嬉しそうに叫んでいる
鞄の奥にしまい込んだ青い光を
今夜は封印しているんだね

冬のビルの一室に繋がれた
罅がはいった月が見えただろうか
始まりの物語を繰り返し読んだひと
家路を急ぐひとが見えない部屋
乾いた咳
堅いベッド
秘密をミントにくるんで噛み砕いて

だってあのひとだけが居ない
この十二月に
そう呟いたひとが坂を登って消えた
甘く発光する樹々たち
夜に濡れて黙ってしまう
動く気のない石粒になって
ミルクを沸かして眠りにつけたらいいのに

なんて素敵な世界なんだろう
あなたがぼくに
ぼくがあなたに
そっと置いてきた言葉を探す
どんなことがあっても
眠りの毛布にくるまれば
夢の井戸のなか
旋回するラジオがこの星の希望を集めて
囁いてくれる

赤い酒を血に
蜜を手離してしまった
終わらないお話
ふたりの少女がカルタ遊びをする映画を思い出した
冬の匂いがする町
消えた聖歌隊
ずっと逃げまわって来たからね
そんな話をしてくれた男が居るバーで
嗄れた声が聴こえて来る

古いレコード
褒めたたえる神は知らない
それでも
なんて素敵な世界なんだろう

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