秋

十一月のランブリング


聴こえないはずの鳴き声
実験室の午後のなかで
遠くからはブラスバンドのチューニングの音
聴こえないはずの鳴き声
惑星の秋って、いつものおおげさな詩人の物言いのなかで
聴こえないはずの鳴き声
秋の山に鳴く鹿のように
白いヘッドフォンのなかから微かに
銀杏の町を歩く人の
歩いて来た時代をなぞって

この季節が好きだ
もうじき異国の神の生誕の知らせが届く
この季節の風が好きだ

あやしげな影たちを追い払って
行き止まりの運命論を抱きしめたひとの歌が流れる町で
だって、あのひとに会いたいんだもん、って
陽気にはしゃいだ娘たちも
すっかり歳をとって
みごとな胸をスイングさせながら
パン屋の横断歩道を渡って消えた

黒い顔の神さまに捧げるように
舞う東北の夜の境内に
呪文をひとつ置き去りにして
すっかりやけをおこした息子たちが
この惑星の夜の小道を歩いて帰る
行方知れずの父親たち
朝の歯磨きをすませて
詩を酒のようにあおる朝焼けに

いつか、きっとぼくの本を全部あげるよ
だから
ぼくの居るこの部屋においでよ
と、伝言した青年も見えなくなった

銀杏の色に染まる大学通り
十一月の大学通り

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