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詩の場所

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小山伸二の詩の置き場所です。
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#詩

いよいよ、コーヒー本、発売へ

いよいよ、コーヒー本、発売へ

9月1日、いよいよ『コーヒーについてぼくと詩が語ること』(書肆梓)が発売になります。
みなさま、お楽しみに!

くせ毛

くせ毛

ひどいくせ毛
つむじもふたつ
ランドセル背負って歩いている
床屋の親父
嬉しそうに
生え際がとくにきついね、だって
まるでコブラツイストかけてるみたい
ぜんぜん笑えない
むかつくサムライ
世が世なら叩っ斬ってやるのに

であえ、であえ
くせ者だ
くせ毛者だ
不穏の闇屋敷

犬の遠吠え

火消しの打ち上げ

であえ、であえ

江戸っ子なら酒をあおって

蕎麦もずずっと
居眠りだって平気の平左

であ

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たこ焼きの歌

たこ焼きの歌

たこたこ
みんなで食べる
たこたこ
みんなでつつく
たこたこ
哲学しよう
たこたこ
ここで遊びましょ
たこたこ
ソースをかけて
たこたこ
人生かみしめよう
たこたこ
みんなで食べる
たこたこ
みんなでつつく

Urn of August / 八月の器

Urn of August / 八月の器

Urn of August


On an August afternoon,
being aware of her absence,
we the family who were left
are having lunch in a small room set in the mountains.
Just outside the room, her seventy-four summer

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鉛筆で詩を書くひとは

鉛筆で詩を書くひとは

鉛筆で詩を書くひとはどんなひと
中央線で西にむかって
麦畑につづく道に迷ってしまい
途方にくれて四月の雲を眺めるひとだ

鉛筆で詩を書くひとはどんなひと
死んだ恋人が忘れられなくて
来る日も来る日も
記憶を茶筅でかき混ぜるひとだ

遠い故郷の防波堤のうえを
ぼくは全速力で走った
潮風を全身であびるために
居なくなったひとに会えるかもしれない

子犬たちを連れて散歩に出たまま
それっきり帰って来ない

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花過ぎる、四月

花過ぎる、四月

その町に住んでいるひとから
写真が届く
帰る場所が見えない
映り込んでいるひとの気配
もう居なくなった影もあるんだね
アンサーはいらないよ
クエスチョンも見えない世界だから

里山から届いた
きちんと箱に収まった山菜の香りのように
律儀なこの月も
果てていくんだ

樹に咲く花が好き
文庫本においた枝折のように
胸いっぱいになって
同じところで
ちがう風に揺れている

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さようなら、三月

さようなら、三月

花のかげにすわりこむ
ひとのいる大学通り
足もとをみつめるこども
そぞろ歩くひとたちの声がきえていく
風がまだ冷たい三月に
あまりにたいせつなものを失った
声が見えなくなった
空を見ても
なくなったものの
影がきえてしまった

しろく
あかく
きいろく
春の咳が
ひとつ
ふたつ
みっつと響いている

ベンチに読みさしの本を置いて
すこし歩いてみようか
樹に咲く花は淋しい
ここにいないひとを思い出さ

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ランブリング、九月

ランブリング、九月

野良猫も夜空を見上げる九月に
どんどかどかどか
県外ナンバーの男や女たちが
立ち働いてる
キャベツを刻んで油を広げる
機関銃と人形と飴菓子が
提灯の揺れる通りに配備される

パレードが見たい
古いリズムに支配されているぼくたち
世界が通り過ぎていく
たわいもないお喋りをしてる間に

どんどかどかどか
人口が増えなくなったこの国に
金色の光のしずくから落ちてくる
そのしず

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夏に

夏に

大勢のひとが亡くなってしまった夏に
無料動画配信のなかで戦争を眺めている
都会では若者たちが集まって
人生を語りはじめているらしい
昭和初期
京都の下宿で詩人たちが神を語り
アフリカの砂漠に消えた陽炎について議論した
丸善の書棚に置かれた檸檬のその後を伝えるひとの
Facebookを眺める夏
甲子園の戦いも終わって
今夜もまた
マウンドには孤独の影が降って来るのだと言う
てのひらの小さな画面の中に

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Urn of August/八月の器

Urn of August/八月の器

Urn of August


On an August afternoon,
being aware of her absence,
we the family who were left
are having lunch in a small room set in the mountains.
Just outside the room, her seventy-four summer

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夏のグラウンド

夏のグラウンド

十五日がやって来た
堅いグラウンドに
八月の太陽が降り注ぐ
だれもが汗を拭いながら無口になって歩く
蝉の声
図書館前では子供たちがはしゃいでいる
読み込めない物語に
いらだつ大人たちと
にやけた老人が手をひらひらさせて
ドラッグストアの女性店員をからかっている

マウンドでは投手役の男が
捕手役の男のサインを覗き込んでいる
世界のスパイたち
わかならいことだらけの暗号を
灼けつくリズムで唄いたいの

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百年の夏に

百年の夏に

長い休みのはじまり
沸騰する夏の時間がリセットされる
仕事も休んで
悩むことから自由になって
手に入れられるミライがある
夏休みが教えてくれたこと
カブトムシよりクワガタムシが好きだった
理由はわからない
だれとだれとが手をつないでいても
そんなこと関係ない
だって
汗くさい男たちが酔っ払う夏の裏路地で
死んだ虫みたいに
匂いをはなつ動かない石ころだよ、夏は
ハイボールを下さい
それでいいんじゃな

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六月のランブリング

六月のランブリング

雨の中を歩いている
足下から膝に、膝から腰に
腰からお腹、胸、そして首
最後は頭のてっぺんまで
濡れた地面から
なにやら
雨の養分がしみてきて
なんともいい気分
悪くないね

雨に唄うことはないけど
傘を放り投げて踊りだしたりしないけど
深夜の濡れた歩道を歩きながら
読みさしの本のページを繰るように
いろんなことを考えながら
濡れた靴で歩いている
なんとも不思議な気分
悪くないね

」」」」」」」

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声

山羊三匹が歩く
崩れかけた道を
牡山羊と牝山羊
そして仔山羊と
前後に数人の人間も

太古の風が吹いてきた
水も湧いて
鳥が鳴いた
誰かの声が聴こえる
息をとめていたら

おおきな雲
だれもが
ちがう影の輪郭を従えている

     (2015年6月20日:福間塾提出作品)

映画「アラヤシキの住人たち」https://youtu.be/9UOro2IZoS4 冒頭のシーンに寄せて。