見出し画像

なぜマインドフルネスはストレスを軽減できるのか?【心理面】前編

私たちがストレスの原因に遭遇すると、脳が危険を察知し、恐怖や不安、怒りなどの強い感情とともに闘争・逃避反応が起こります。また、体にも生理的な変化が起こります。そして多くの場合、私たちは無意識にそのストレスに対して何らかの行動を起こして対処しようとします。

私たちの多くはストレスに対して独自の対処法を持っています。しかし、そのほとんどは自分に害のある、または問題をより複雑にしてしまうものばかりです。こういった試みを“不適応な対処maladaptive coping)”と呼びます。

不適応な対処は一見ストレスを減らしてくれるように感じられますが、長期的に見るとストレスを増大させてしまいます。ここでいう不適応とは、不健康と考えるとわかりやすいと思います。

ストレスを感じるたびに不適応な対処を繰り返していると、次第にそれがあなたの“いつものルート”になります。するとストレスに直面したとき、たとえ本来はまったく危険ではない状況や、対処できる可能性のあることでも、いつもの不適応なルートでしか反応できなくなり、自分自身のコントロールを失ってしまいます

自分のコントロールを失い、ストレスを感じるたびに無意識な対処を繰り返すようになると、いずれあなたの心身は病んでしまいます。そしてそれがまた別のストレスの原因となってあなたを苦しめるようになります。

このようなストレスに対する負の対処サイクルを図で表すとこのようになります。

画像1


一つ例をあげてみます。

ここに新婚の夫婦がいるとします。二人は最初こそうまくいっていましたが、あるきっかけでケンカをするようになります。それが次第に毎日、数週間続くようになると、二人は些細なことに反応するようになり、常に不安や怒りの感情を抱えて歩くことになります。

すると、夫は怒鳴ったりやお酒を飲むことでその苛立ちを発散するようになり、妻は食べることで不安や寂しさを紛らわすようになります。そしてそれがまた別のケンカの種になります。

この状態が数ヶ月続くと、二人は仕事でもプライベートでも、小さなことで過敏に反応するようになります。次第に夫は酒を手放せなくなり、妻は甘いお菓子を食べることが自分で止められなくなります。するとアルコール依存症になったり、肥満になってしまいます。そしてこれが新たな悩みの種となり、さらなるストレスのサイクルが生まれます。


ストレスを効果的に対処できない原因の一つは、不適切な対処法を、無意識に行ってしまうからです。

私たちのほとんどは、あとになって「あれはよくないことだった」「なんであんなことしたんだ」と思うことはできても、それが起こっている瞬間に自分の行動や振る舞いを変えることはできません。それはストレス→反応という自動的な反応に、私たちがコントロールされてしまっているからです。無意識は私たちが思っている以上に、私たちを支配しています。

画像2

不適切な対処

ここでは、私たちは具体的にどのような不適応な対処を行っているのか見ていきましょう。一般的な方法をいくつか挙げています。

”否定”は多くの人が使う対処法です。この方法を使う人は、体や顔が緊張で固まっていることや自分の中に感情があるにもかかわらず、「誰が緊張してるって?自分?緊張してないよ」と否定します。このパターンにハマっていると、自分を傷つけている感情や思考を自分が持ち歩いてることに気づけません。すると、表面的には対処しているように感じますが、心の深い部分にその感情が積み重なっていきます。最終的にそれは心身の病として表れ、自分を苦しめることになります。ストレスを感じていることを認めることなく、原因を取り除くことはできません。

”仕事中毒(ワーカホリック)”は問題から目をそらし、解決を先延ばしする方法してよく使われます。とくに家族との生活に不満やストレスを感じる場合、仕事はとても都合のいい言い訳になります。これは意外にも無意識に行われることが多く、その理由は、心の深いところで生活の別の問題や健全なバランスを維持する必要に直面することに億劫になっているからです。

”忙しさ”も自分を傷つける逃避的な行動です。面と向かって問題を対処する代わりに、問題が深刻化するまでそれ以外の楽しいことで自分の時間を埋めようとします。結果的により大きな責任がのしかかったり、問題が複雑化して、自分を苦しめます。

”化学物質”を使うことも人気の方法です。私たちの多くは、ストレスを感じるとアルコールやニコチン、カフェイン、砂糖を摂取して心と体の状態を変えます。そうすることで、気分を変えたり、一時的に楽しさを感じようとします。このルートは、気分が深く落ち込んでいるときに、違う感覚を得たいという強い衝動から生まれることが多いです。

朝一杯のコーヒーでその日1日が始まる人や、タバコを吸うことでストレスや不安を乗り切る人もいます。お酒は一時的に目の前にある問題を忘れさせてくれるほか、体の筋肉をリラックスさせる効果もあります。また楽観的な気分になったり、自信が湧いたりと、人を前向きにさせます。つまり、適度な量の摂取は必ずしも有害とは言えません。問題は、自分でコントロールできているかどうかです。

”抑うつ的反すう(depressive rumination)”は気分の落ち込みが原因で起こる思考のパターンです。気分の落ち込みは、有害で誤った思考のスパイラルを引き起こします。これはとくに、感情や認識レベルで幼少期の出来事や経験を引きずっている人たちに起こりやすいものです。MBCT(Mindfulness-based cognitive therapy)というMBSRから生まれたプログラムは、この抑うつ的反すうに対して効果があるとさまざまな臨床実験から認められています。

”食べ物”もストレスやネガティブな感情を和らげるためによく使われます。心配や不安、不足感を感じると、私たちは食べることで乗り越えようとします。食べることで幸福感を得ることは中毒性がとても高いです。脂質や糖分は、脳の特定の部分に働きかけストレス反応を緩和すること、そして安心感や幸福感を増やすことが研究からわかっています。だから私たちはストレスがたまると甘いものや脂っこいものを食べたくなるんですね。

”薬”によってストレスを対処する人も多くいます。薬は非常に効果的ですが、ストレスの原因を消してくれるわけではありません。薬に依存してしまうと、体が発しているメッセージを無視することになります。

画像3

このような不適切な対処を繰り返し行っていると、次第にそれがあなたの“いつものルート”になってしまいます。これは長期的にみると、健康や別の問題を作ってしまいます。

たとえば、タバコに含まれるニコチンは心臓病やガン、肺の病気の原因ですし、アルコールは肝臓や心臓、脳の病気を引き起こす要因の一つです。

ストレスによって自分で食欲をコントロールできなくなると、過食や肥満といった症状につながります。

また体や心が常に疲弊している感覚になったり、あらゆることに対してモチベーションが維持できなくなる燃え尽き症候群につながります。燃え尽き症候群の人は、職場や家族、友達から疎外されているように感じます。うつ病はこのような状態から発症すると考えられています。

画像4

ストレス対処の負のサイクルについて書きましたが、このようなストレスへの不健康な反応は、避けられないものではありません。私たちは実際にはたくさんの健康的な選択肢や創造的な選択肢を持っています。

もし私たちが自分たちの無意識な反応を認識し自分の反応を別のルートに意識的に変えることができるなら、先に説明したような症状を避ける、または少なくとも緩和することは可能です。そして自分が感じるストレスも軽減することができます。

後編ではマインドフルネスがどのようにこの自動的な負のサイクルを変えることができるのか説明します。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。


(参考:Full Catastrophe Living, 2013, J Kabat-Zinn)


サポートして下さるととても大きな励みなります!より良いものシェアしよう!というモチベーションに繋がります! 頂いたサポートは知識と経験を深めるために使わせて頂きます!