新しい次元に突入するインターネット通信
この 1年で人工衛星を使ったインターネット サービスが一気に広がってきているのを皆さんも感じられているのではないでしょうか。トップは 米SpaceX社が運営する Starlink で、昨年から日本でもサービスが開始されましたので、もしかするとすでにお使いの方もいらっしゃるかも知れませんね。Starlink は高速かつ低遅延のブロードバンド サービスを提供するもので、すでに 4,000機を超える通信衛星を低地球軌道(LEO: Low Earth Orbit) 上に打ち上げて通信サービスを提供しています。Starlinkは南極の米マクマード基地でも利用することができ、業務上及びプライベートでもネット通信環境が劇的に改善しているようです。
英OneWebも低地球軌道上に通信衛星を打ち上げてブロードバンド サービスの提供を目指していますが、衛星の打ち上げは SpaceX社のロケットが使われています。すでにヨーロッパの海運会社などと提携し、サービス拡大を目指しています。
もう一社名乗りを上げているのは米Amazon の「Project Kuiper」で、先月米連邦通信委員会 (FCC) が固定衛星サービス(FSS) と移動衛星サービス(MSS) を提供する非静止軌道(NGSO) 衛星群の免許変更を条件付きで承認したことで、今後の展開が楽しみになってきました。
SpaceX社は、2023年2月28日にフロリダ州ケープカナベラルから Falcon 9ロケットで 21台の「Starlink V2 Mini」 衛星が打ち上げられ話題になりました。Starlink V2 Mini は SpaceX社の次世代インターネット衛星で、バックボーンに E-band周波数帯を使用することで従来の Starlink衛星(V1) と比べて 1台あたりのネットワーク容量が約4倍に。また第一世代衛星の重量が 3m×1.5mのサイズと重量 260Kg なのに対し、V2 Mini 衛星は "Mini" でも 4m×4mのサイズで 800Kgあり、サイズも大型化していますが、Falcon 9 ロケットで打ち上げられるサイズになっています。第一世代の衛星は太陽電池パネルも一枚でしたが、V2 Mini は二枚の幅 30mの太陽電池パネルを搭載しています。
なぜ "Mini" なのかというと、第二世代の「Starlink V2」衛星を小型化したもので、V2 衛星が Starshipロケットでの打ち上げが必要なのに対し、V2 Mini 衛星は Falcon 9 ロケットでの打ち上げを前提としていて、重量は V2 衛星の 65% ほどの 800Kg です。
第二世代衛星の本命である Starlink V2 衛星は 7m×3mのサイズで重量も 1.25t と自動車並みの重量で、打ち上げは Starship ロケットが必要になりますが、通信容量は V1衛星の 10倍、V2 Mini の倍以上の容量となります。V2衛星では太陽電池パネルの設計が変更され、自前では太陽電池パネルを持たず Starshipロケットの太陽電池パネルから電力供給される設計になっているのが特徴です。
地球上の軌道 400~800Km の低地球軌道(LEO) 衛星が注目を集めてはいますが、静止軌道上の昔からの通信衛星ビジネスも進化しています。米Qualcomm社 は今年の CES で米Iridium Communications社と次世代スマートフォンにおける衛星通信機能の提供に向けて提携を発表し、地球規模のカバレージを実現する「Snapdragon Satellite」を発表しています。
スマートフォン向けの衛星通信サービスとしては、昨年米Apple社がシリコンバレーの Globalstar社が提供する低地球軌道衛星を使ったサービスを iPhone 向けに開始しましたが、今後は Androidスマフォでも衛星通信が提供されることになりそうです。
IoT通信では昨年ソラコムが衛星通信プロバイダーとの提携を進めていて、現時点ではスイスの Astrocast社及び米Swarm Technologies社の衛星メッセージング サービスに対応。衛星メッセージング サービスは、インターネット接続ではなく独自プロトコルが使われていて、データ通信量や通信頻度が少ない用途向けではあるものの、携帯電話回線ではカバーできないエリアで IoT通信が可能となるメリットは大きいと思います。
最近は飛行機の機内でも通信衛星を使ったインターネット接続が可能となり、もはや地球上でインターネットにつながらない場所は海中か地下しかなさそうです。飛行機の機内でインターネットから切り離され、自分の時間に集中できた時代が懐かしい今日この頃です。