可能性を解き放つために、マインドの使い方を知ることが大事なのは、なぜか?
認知科学(Cognitive Science)に基づくコーチング
プロコーチとアドバイザーをしています。
コーチングを学んだ動機は、今の主務の人材派遣事業で、現地英国子会社の300人のマネジメントに、コーチングアプローチが有効なのでは、という理由でした。
市場環境、法令規則、言語や文化が日本と異なり、日本の成功体験に基づくマネジメントはうまくいかない、と直感的に感じていたからです。
「そっぽを向かれたくない」と、安易に関係性維持や現場の課題を聞くことを重視するあまり、“共感・傾聴”に力点を置く人もいます。
しかし、それだけでは、事業とメンバーへの本当の責任を果たせない、ということを、長いグローバル人生の中で感じていました。
認知科学(Cognitive Science)に基づくコーチングに出会い、
・責任感や承認欲求ではない、本音のやりたいことを知る
・パフォーマンスが発揮できる脳の働きを知る
これらを認知できると、未来の可能性を解き放つように、マインドの力が働くことが分かりました。
なりたい未来の自分
将来どんな自分でありたいですか?
認知科学のコーチングでは、未来のなりたいゴールに臨場感を持ち、明確にイメージできるほどになると、人間の本来持つ脳の機能が、自らゴールに導いてくれると考えます。
ゴールは、自分自身の正直な心で設定してください。さらに、仕事、趣味、家庭、人間関係、知識、また社会貢献のような複数のテーマで、それぞれ設定するのが理想です。
他人と比べる必要はないし、まずは周りにとってどうあるべきかを考えない”エゴ”で良いです。。自分の純粋な“本音”であることが重要です。
そして大事なのは、”ゴール設定”することです。見つかるものでも、与えられるものでもなく、”自らゴールを作り出す”、と考えてください。
設定にあたっては、2つの満たすべき要素があります。
1. 本音の欲求(“Want to”)であること
果たすべき義務や、株主、上司、同僚からの承認欲求(怒られたくない、褒められたい)であってはなりません。これらをHave to欲求と呼びます。
親、家族、友達などの周りの大事な人や、権威者の人に止められても、やりたいと思う、本音の”Want to欲求”を見つけます。理由が分からないけど、なぜかずっとやってしまっている事も、そうです。
2.“現状の外側”であること
まず、“現状”の定義が重要です。
現状とは、現在の状況だけでなく、「今のままでも予測しうる未来」も含みます。したがって、予測される未来で達成可能なゴールは、難易度が高くても、現状の内側のゴールになります。
例えば、新卒社員が、同期よりも早く10年で部長になってやる、みたいな目標は、成長意欲が旺盛で素晴らしいですが、今でも工夫すれば達成し得るので、現状の内側にあります。
実現したいけど、どうやったらよいのか、プロセスもアイデアすらも浮かばない、というほどの、大きなゴールを設定してください。
Want to 欲求に忠実に、現状の外側のゴール設定をしてください。
エフィカシー:未来の自分に対する自己評価
ゴール達成のために必要な力が、エフィカシー(Efficacy)です。
エフィカシーは「将来の自分の自己評価」のことです。
ゴールは、達成のプロセスもアイデアも見当もつかない現状の外のもの、と書きましたが、それほどに高いゴールを達成できる自分を信じるということです。
そんな自信をどうやって持つんだ、と思うかもしれません。
しかし、過去に周りの反対があっても聞かずに、やりたい、できるはずだ、と、エフィカシーを高く挑戦した経験が、皆さんは必ずあると思います。
この時の「謎の自信」がエフィカシーです。
その挑戦の結果が、成功か失敗したかは、どちらでも良いです。やれる気しかしないと、未来の自分に対して評価を行ったことが大事です。
僕がエフィカシーが高かった時の経験を話します。
25歳のときに、3年勤めた日本の大手監査法人を退職し、英語がほとんどしゃべれないのに、「海外で働くビジネスマンになりたい、僕はできるはずだ」と一念発起し、英語学校に留学し、同時にアメリカの就職活動をした経験があります。
その時の貯金200万円が尽きれば自動的にチャレンジ終了。1年と期限を設定していました。当時「1年あれば就職できるはず」と謎に自信を持ち、飛び込んだ結果、ロサンゼルスで、アメリカ最大手の監査法人に現地採用されました。
今思いだせば、突拍子ないこともやっていました。語学留学先都市にある監査法人に、学校が終わった午後にボランティアとして働かせてくれと、飛び込んで依頼しました。懐深い駐在員のパートナーの方がいらっしゃって、クライアント先の往査メンバーに加えてもらいました。
責任が伴う会計士の仕事のボランティアってなんだよ、と今では笑いながら思い出します。しかし、僕の謎の自信(エフィカシー)は高く、ゴールに向かって、できることにすべてのリソースを投入していました。
孫正義社長は、iPhoneというプロダクトとそれがもたらす情報革命の可能性にほれ込み、販売する携帯会社も持っていなかった時点で、スティーブ・ジョブスに会いに行ったそうです。そして、ボーダフォン(当時)を買収し、なんと日本でのiPhone独占販売を実現してしまいました。
このエピソードなどは、まさにエフィカシーの塊である孫さんがなせる業です。携帯会社も持ってなくて、あのスティーブ・ジョブスに会いに行くなんて、ほとんどの人が想像もできません。
ちなみに、自分の“現状に対する自信”を、セルフエスティーム(Self-Esteem)といい、エフィカシーとは反対の概念になります。
例えば、今の会社のポジション(社長、役員など)に対する自信は、“現状の外”のゴール達成ではなく、逆に満足している“現状”にとどまる力になるので、ゴールへの挑戦を妨げる厄介なものです。
大事なのは“未来のなりたい自分”になることについて、肯定的な自己評価(エフィカシー)を持つことです。
セルフトーク:自己内対話
エフィカシーを上げるには “セルフトーク”。これを効果的に使うことです。
意識、無意識含めると、人は1日に数万回自分に語りかけていると言われています。また、人類は、生存のために失敗回避する思考を取ってきたので、そのセルフトークの大半はネガティブなものが多いようです。
僕も、コーチングを学ぶ前は、「失敗したくない」とか、「人前でのプレゼンは苦手だ」とか、ネガティブな言葉を自分にかけていました。特に、日本人は、ネガティブな言葉になる傾向が多いようです。ネガティブなセルフトークは、自分を縛り、行動の回避につながります。
セルフトークの重要性を知った今は、上のネガティブセルフトークを、意識的にポジティブなものに言い換えています。
「成功と経験(失敗しても)の両取りをしてるんだ」
「だれもが緊張するもの。きちんと準備すれば大丈夫。」
自己肯定を促進するセルフトークを、アファメーション(Affirmation)といいます。例を挙げます。
「常に本音でやりたいことをしている」
「英語はネイティブになれないが、心を込めて自分の気持ちを伝えている」
セルフトークは、自分自分に話しかけるので、直接心に響き、自己評価をどんどん高められます。
失敗したときに、「やってしまった」などのネガティブセルフトークが出た時は、「自分らしくないな。(だから、今度は大丈夫)」と、すぐにセルフトークを書き換えると良いです。
なりたい自分や、できている自分を言語化して、毎日セルフトークしてください。未来の自分の姿に、臨場感が高まって、リアリティが増します。
今から、皆様が自己適用できるよう、いくつかの用語を追加説明します。
RASとスコトーマ
RASとは、Reticular Activation System/網様体賦活系(もうようたいふかつけい)の略です。脳が持つ“情報収集フィルター”のことです。
なぜ脳はRASを持っているか。
周りには無限の情報があふれており、周りの情報をすべて受け取ると脳はパンクします。さらに、全ての情報を解析しないと決断できないのであれば、永遠に行動できない(AIの”フレーム問題”に関連します)。肉食動物に襲われた時に動けなければ、絶滅しています。
自分に”必要で大事な”情報のみをフィルタリングして収集するのが、RASの機能です。
また、重要性の基準が変わると、RASのフィルターを通して入ってくる情報も変わります。
僕には一人息子がいます。子供ができるまで、渋谷を歩いているときに、赤ちゃんの存在を意識したことがなかったのに、子供を授かった途端、自分にとっての重要性が変わり、急にベビーカーの子連れの人が多くいることに気がつきました。道の段差なども気になるようになりました。
「カクテルパーティ効果」という言葉もあります。たくさんの招待客のいるパーティでも、好きな異性がいると、多くの人が発する声の中でもその人の声を聴き分ける、なんてことを経験したことありませんか?
RASと一対をなす言葉を、スコトーマ(盲点)といいます。RASフィルターにより除かれた、存在するが認知されない情報のことです。上の例だと、息子を授かる前の渋谷の赤ちゃん、パーティで聞き留めない他人の声が、スコトーマです。
ゴールがなぜ大事か。
ゴールを設定していないと重要度が低いため、ゴールに関係する情報がスコトーマに隠れて見えません。しかし、一度ゴールを設定した場合、スコトーマが外れ、目に付くようになります。これをRASの発火といいます。
なお、このRASの発火を生み出すには、“現状の外”のゴールであることと、そのコミット(責任性)が必要です。
ゴールが現状の内側だと、脳は違いが分からず、スコトーマは外れません。
また、脳はサボるのが大好きです。ゴールにコミットして、当事者意識を持ち、初めて重要性尺度が変わり、RASが発火し、情報が目に入ってきます。
コンフォートゾーン
最後に、コンフォートゾーン(Comfort Zone)という概念についてです。
コンフォートゾーンは、人が安心安全を感じ、生命維持するために最も適した状態のことです。
例えば、体温のコンフォートゾーンは36度台です。極寒では心拍数を上げたり、酷暑でも無意識に汗をかいたりします。これは、体温を36度に保つために、脳が体に命令しているからです。
脳は、24時間365日無意識でやっています。人は、生命維持のために、コンフォートゾーンにずっと居続けたい生き物と思ってください。
例えば、ダイエット後の体重のリバウンドもこれで説明できます。
数日食事制限をしてコンフォートゾーンから出てしまうと、脳が栄養不足と認識し、食事量を増やさせ、コンフォートゾーンに戻そうとします。そして、体重が逆に増えてしまう。
認知科学で、この強力な戻る力のことを、ホメオスタシスと言います。
サッカーの試合でも、アウェイよりホームゲームのほうが良い勝率になりますが、コンフォートゾーンの概念から説明できます。
ホームスタジアムだと、心理的安全性が高く、パフォーマンスが発揮できるのに対して、アウェイだとコンフォートゾーンの外だと感じ、無意識に体が硬くなるからです。
コンフォートゾーンに戻す力は、生命維持のための機能で、大気圏を出ようとするロケットが、地球に戻されようとする引力ほどに強烈です。
認知科学に基づくコーチングでは、コンフォートゾーンを未来側にずらし、その力を利用します。それで、ゴールの実現のために、マインドの力を味方にすることができます。
セッションにて、未来の世界の臨場感を持つようにします。すると、脳は、”未来に生きる自分”を、”本当の自分“と認識します。これがコンフォートゾーンを未来側にずらせた状態です。これで、ホメオスタシスが、ゴール達成に向けて働きます。
僕がアメリカに渡ると決意した例だと、「アメリカ人相手に堂々とディベートできるビジネスマンになる」、「外国人の友達とパーティを楽しんだり、人生や考え方を語り合う」などの未来の自分をいつも想像していました。
コンフォートゾーンをずらせると、英語が話せる国際人が本当の自分の姿だと思えて、ホメオスタシスが働きました。そして、英語を話せない自分が違和感を感じ、英語の上達に時間を使うことが普通になりました。
なお、脳は、生命維持装置であるコンフォートゾーンを2つ持つことができないと分かっています。
ある日は体温を35度で、違う日は37度で設定できるようにとは生命は出来ていません。また、高所恐怖症の人が、ある日は高さが怖くないというようなことも起きません。
現状と未来の両方にコンフォートゾーンを持つことは無理なので、コンフォートゾーンを未来側に作ることが、鍵になるのです。
マインドの使い方を知れば、ゴールに向かって、情報が入り、後押しするよう脳が働いてくれます。これが大きな可能性を解き放つ力になるのです。
まとめ/心のベルとUnleash potential
今までの人生を振り返ると、すぐに決断ができない状況のときは、”心のベル”に従って決めていました。心のベルとは、まさしく心臓がバクバクと騒ぐことです。
失敗してもいいと思うことには緊張しません。100メートル10秒で走ってと言われても、できる気が全くしないので初めから諦めます。
また臨場感がない時も同じです。30秒で走れ、といわれたら易しいと感じるので特に緊張しません。
しかし、例えばぎりぎりの15秒でとか言われると、さらに家族や大勢の観客に見られている状況だと、臨場感が沸いて、心のベルが鳴り響きます。
何かのゴールの決断に関して、心のベルが鳴り響くのは、あなたが、“本音で達成したいこと”の臨場感の“際(きわ)“にいることですから、それは成長の大チャンスです。
僕は、英語の「Unleash Potential(可能性を解き放つ)」という言葉が大好きです。
誰の脳の働きもパワフルです。
上に書いたマインドのからくりに対する知識を使えると、誰にでも無限の可能性が広がる、ということを理解してもらえればうれしいです。
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