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47の居酒屋日記 第2夜 香川県「なぎさ」

香川県にある酒蔵は、わずか6蔵。とはいえ、凱陣や川鶴などのうまい地酒はあるし、またそれらをいただける上等な料亭などもあるにはあります。しかし、肝心の“いい居酒屋”が少ないのです。それは酒好きにとっては死活問題で、特に高松は、うどん食文化に侵食され、居酒屋はおろか、閉店時間が早い飲食店が多く、人気の店にはアート好きのインバウンドがこぞって行列をつくり、地元の人でさえ肩身がせまい。では、そもそもここでいう“いい居酒屋”とは何か。うまい酒と肴があって、お洒落で綺麗、という店ではなくて、デザインは度外視、ボロくても決して美味しくなくても、またこっそり行きたくなる中毒性を持っている店であり、田舎の実家に帰る感覚と似て非なるもので、どこか自分自身の存在を確かめる「時間」でもあります。片原町の裏路地にひっそりとある「なぎさ」は、市内では珍しく深夜2時までやっていて、薄暗い電光看板に赤提灯、縄のれんに磨りガラスの引戸など、見るからにザ・昭和の居酒屋。店内はカウンター席のみで、数人程度しか座れませんが、90歳を超える名物お婆ちゃんの隣で、モクモクと立ち上る焼き魚の煙を浴びながら、自ら冷蔵庫から瓶ビールとコップを取り出し、手酌でクイッと一杯。うどんも骨付鳥もないけれど、もうそれだけでいいのでした。

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