【物語】星のごちそうタマゴ #1 プロローグ
「大将!タマゴちょうだい」
「鳥と魚とどっちにしやす?」
「両方だね」
「あいよ」
大将は手際よくシャリを取り、のりをぐるりと巻きつけ軍艦を作ると、その上にイクラを流し込み、仕上げにウズラの卵黄を落とした。
「これでどうかな?」
「・・・いいね。ありだよ。このコッテリ感がたまんないね。」
「それは良かった。」
「タマゴ!タマゴ!」
「あいよ!」
玉子焼をまな板に置き、ペティナイフを器用に動かした大将の手元から”ウサギ”が生まれた。
「どうぞ!」
「わぁすごい!・・・でも、かわいそうで食べられないよー」
「ありゃりゃ、そうかそうか。じゃあこれはどうかな?」
大将は急いで、別の玉子焼から”花”を作り上げた。
「かわいい!ありがとう」
「それは良かった。」
寿司職人を50年やっている”オヤッサン”は、少々ガサツなところはあるが、客に寄り添うおもてなしは一流だ。一流と言っても高級店で見受けるスマートなものではなく、アワアワしながらも、あの手この手で満足してもらえるよう最善を考える達人なのだ。歳の割に、斬新なアイデアを積極的に取り入れて作るので、見ていて飽きないし勉強になる。だから客の方も、寿司を食べに来ているというよりは、オヤッサンのパフォーマンスを見に来ていると言っても過言ではないような気がする。
そんな、オヤッサンが、消えてからもう一年が経つ。