Watson

私が見つけた世界。

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マガジン

  • 日々の発見。

    日常に潜む印象的な画や瞬間たち。

  • 極夜の果てに

    第二の故郷であるフィンランドを訪れたときの話。

  • イスタンブール旅行記

    小さい頃からの夢だったイスタンブールを大学生になって訪れたときのときの発見。

最近の記事

千と千尋。

    • 食べて寝て北へ。~フィンランド旅行記③~

       私にとってもはや第二の家族以上であるホストファミリーは、父、母、兄、姉、妹の五人家族であり、全員スキーが上手い。今回フィンランドに帰郷した目的は他でもないスキー旅行だ。家族全員が板、ブーツ、ストックの三点セットを持っている。家族でスキーに行き、リフトの上からそこそこの上手さで目立つスキーヤーを見つけると、大抵家族の誰かだ。留学当初はヒザ伸へっぴり腰ボーゲンしかできなかった私も、 彼らと一緒に滑っていたらきっかり14日間でカービングスキー(スキー板を直角に近い角度で立ててググ

      • どこでもドア ~ヘルシンキ旅行記②~

         着陸してすぐ目に入るFinnairの看板、飛行機を降りて肺に流れ込む澄み切った空気、ターミナル内部の木目調の床(出身小学校の床と同じタイルだから驚いた)、空港のサイズの割にこじんまりとしたバゲッジコレクション、その右にある細い通路は到着ロビーにつながっている。これらのステップを一つ一つ味わい、私は今回の帰国がまぎれもない現実世界で起こっている出来事であると確認する。  到着ロビーと税関の通路を隔てる大きな自動ドアは、どの空港でも私に特殊な感情を抱かせる。あの一枚の板が

        • ドトールのソファー席で男女が対峙している。センターパートのミィディアム男は白くて細い、僕の中にある典型的なシティーボーイ。男と同様モノトーンで揃えた女は黒髪ロングで赤い口紅、ミスコンに出ない美女感が強い。二人が話すリズムは3分あたりで5秒間の一往復。二人の目線は噛み合っていない。

        千と千尋。

        • 食べて寝て北へ。~フィンランド旅行記③~

        • どこでもドア ~ヘルシンキ旅行記②~

        • ドトールのソファー席で男女が対峙している。センターパートのミィディアム男は白くて細い、僕の中にある典型的なシティーボーイ。男と同様モノトーンで揃えた女は黒髪ロングで赤い口紅、ミスコンに出ない美女感が強い。二人が話すリズムは3分あたりで5秒間の一往復。二人の目線は噛み合っていない。

        マガジン

        • 日々の発見。
          4本
        • 極夜の果てに
          3本
        • イスタンブール旅行記
          8本

        記事

          目の前で老夫婦が、スーパーの袋に入ったメロンパンを手に、横幅50センチほどのベンチに二人で腰掛けた。 背中と、よくてマスク越しの横顔しか見えず、口数も多いわけではない。しかし奥さんが話しかけたときの旦那さんの微笑みと二人の距離感は、17の私が希求した青春のそれだ。

          目の前で老夫婦が、スーパーの袋に入ったメロンパンを手に、横幅50センチほどのベンチに二人で腰掛けた。 背中と、よくてマスク越しの横顔しか見えず、口数も多いわけではない。しかし奥さんが話しかけたときの旦那さんの微笑みと二人の距離感は、17の私が希求した青春のそれだ。

          日曜日のIKEA、カフェの隅に陣取る一人の女性。ランチプレートすら窮屈そうな小さなテーブルを覆うザリガニの山と、静かに対峙している。周囲を見れば、何が欲しいと子どもは主張し、ある夫婦は椅子のサイズを議論している。他の喧騒をよそに、彼女は一点を見つめ、一匹ずつ剥いては、口に運ぶ。

          日曜日のIKEA、カフェの隅に陣取る一人の女性。ランチプレートすら窮屈そうな小さなテーブルを覆うザリガニの山と、静かに対峙している。周囲を見れば、何が欲しいと子どもは主張し、ある夫婦は椅子のサイズを議論している。他の喧騒をよそに、彼女は一点を見つめ、一匹ずつ剥いては、口に運ぶ。

          青は遠く。オレンジは深く。 ~フィンランド旅行記①~

             「空はつながっているからね」  そう囁いた母の言葉を信じて、ドーハから北上する飛行機に乗っている。 私にとって大切な人たちに再会するためにまっすぐ向かっている。  私は高校生の頃、フィンランドに一年間留学をしていた。周囲が受験でせかせかし始めた頃、どうしてもフィンランドに行きたくなって、高校3年生の夏から一年間休学をとり北欧に渡った。留学中はフィンランド人のホストファミリーの家にホームステイしながら、現地校では唯一の留学生として勉強していた。この一年間に渡る異文化

          青は遠く。オレンジは深く。 ~フィンランド旅行記①~

          フライトに始まりフライトに終わる ~イスタンブール旅行記⑧~

           思いがけない出会いで至福のひと時と過ごした夜は、あいにく幸福感でコントラストがかかった腹痛が以前にもまして苦痛だった。しかし明日の朝は早いので、ぐずぐずせずに重い腰を上げて寝床に入る準備をしなければならない。腹痛を感じてすぐに荷造りをしておいて本当に良かった。アエロフロートでイスタンブールを発つのは12時半。宿から空港までは乗り合いシャトルで1時間。一度飛行機を逃して6万円を塵にした経験があるため、少なくとも定刻の三時間前には空港にはついていたい。結局朝7時半に宿を出ること

          フライトに始まりフライトに終わる ~イスタンブール旅行記⑧~

          スイーツの時間旅行 ~イスタンブール旅行記⑦~

          この手の体調不良は寝込めば治るモノではないのだろうか。普段は睡眠不足の原因であるネトフリのSuitsも今回ばかりは捗らない。何も食べずに薬だけ飲むわけにもいかず、昼ご飯は移動を避けるために宿の隣にある超観光地的イタリアンレストランでボロネーゼを食べた。トマトソースが体に良いはずだと言い聞かせてプラシーボ効果を狙ったが、気分が少し和らいだのは結局何かをちゃんと食べたからだろう。食後は宿にとんぼ返りし、トイレの脇にスタンバイしながらじっとしていた。しかしこうして憧れに憧れた街で何

          スイーツの時間旅行 ~イスタンブール旅行記⑦~

          腹痛 ~イスタンブール旅行記⑥~

          実は私はイスタンブール旅行の最後の二日を棒に振っている。計五日ほど滞在したので実に旅の40%はホステルで寝込んでいた。原因はあの大衆食堂での爆食いと深夜の闇ビールだろう(詳しくはイスタンブール④を参照)。あの後宿に戻り、シャワーを浴びて心地よく寝たはずなのだが、お腹がグルグル鳴って寝かせてもらえなかった。何度もトイレに立つうちに状況を悟ったが、幸いにも私のベットはトイレの真横にあった。いや、だからこそ体が甘えて何度も催したのだろうか。そんなことはどうでもよくて、とにかくしんど

          腹痛 ~イスタンブール旅行記⑥~

          出会いはビールの泡のように ~イスタンブール旅行記⑤~

          ひとしきり夕陽を楽しんだあとは、地下鉄に乗ってヨーロッパ側に戻ってきた。どの路線に乗ったらいいのか分からずに大分迷い、最終的には反対方向のに乗っていた。先に切符を買うシステムなら死んでいたが、幸いにもsuicaの要領だから途中で降りて折り返しの電車に乗り込めた。しかしボスフォラス海峡を渡る地下鉄は海底を走っており、海底トンネルデビューだった私は二倍の時間おびえる事となった。しかし地下鉄を降りてから、日本よりも体感二十倍速くらいで動いていたエスカレーターに乗って興奮していると、

          出会いはビールの泡のように ~イスタンブール旅行記⑤~

          記号としてのバラ ~イスタンブール旅行記④~

          夕陽が沈むスピードを肉眼で認識できたころ、ふと視線が下に向いた。展望台のような足がすくむくらいの高所は正直好きではなくて、通常は恐怖心があらゆる感情を上回る。しかし今回ばかりは例外だ。好奇な気持ちが湧き出てくる。それに伴って脳内では複数のシナリオが描写され始めた。 この一本の花にはどんなストーリーが刻まれているのか。好きな人への告白に添えられたのだろうか。恋が破れたからそこにいるのか。それとも歓びのあまり、ハグの勢いで手からこぼれ落ちたのだろうか。想い人は隣にいなくとも、そ

          記号としてのバラ ~イスタンブール旅行記④~

          夕陽 ~イスタンブール旅行記③~

          無意識にもイスタンブールの情景に夕陽を組み込んでしまうのは私だけではないだろう。ハワイと聞いて想像するのは青空だし、イギリスと聞けば曇り空が思い浮かぶ。憧れの街が栄える夕陽を見ることは、イスタンブールを認知するようになってから、勝手にバケットリストに加わっていた。レセプションでそれを伝えると、スタッフのムスタファは待ってましたとばかりに得意げに髭面を歪め、地図上でアジア側にある一点を指差した。ここは私が今の奥さんにプロポーズした場所だ。間違いはないよ。そうもハッキリと言うもの

          夕陽 ~イスタンブール旅行記③~

          写真の向こう側へ ~イスタンブール旅行記②~

          着陸したがイスタンブールに来た実感は不思議とない。なんだかんだ空港のゲートをくぐり、街へ向かう何らかの公共交通機関に乗るまではなかなか実感はわかないものだ。バゲッジコレクションで自分の荷物が出てくるか不安だし、閑散としたバスプールに点在する無数のバス停のうちどれを利用すればいのか、またそもそもバスに乗れるくらいの現地通貨を持ち合わせているのかすら分からない。結局の所、そこらへんにいる人に話しかけて教えてもらうのだが、目隠し手探りの状況ではどうしても不安なもので異国情緒に浸る余

          写真の向こう側へ ~イスタンブール旅行記②~

          夢の都市と私 ~イスタンブール旅行記①~

          イスタンブールという言葉をどこかからか仕入れてきたのは小学生の頃。それは誰かの名前なのか、食べのもなのか、呪文なのか、見当もつかない。謎は謎のまま成長し、その文字列の意味が明らかになったのは中学で歴史の勉強をしている時だった。地球のどこかに、アジアとヨーロッパをつなぐ都市があるらしいしい。社会の資料集にある写真で見る限り、海があり、橋がかかっている。あれは二つ世界を繋ぐ橋なのだろうか。もしあの橋が落ちたら、アジアとヨーロッパは一切のつながりを絶つことになるのだろうか。二つの世

          夢の都市と私 ~イスタンブール旅行記①~