【日本茶の未来2022】①これからの「目利き人」について。
こちらの【日本茶の未来2022】では、私、すすむ屋茶店の新原が、2022年の1番茶・2番茶を終えて、感じたことを書いております。手前味噌ですが、日本でもトップクラスに日本茶を見てきている僕にとって、お茶は人生そのもの。
だからこそ、誰よりも日本茶の未来を信じていると同時に、心配もしております。(笑)。
今回もいつも通り、素直に書いていきたいと思っておりますが、その為に行き届かない文面なっていることもあるかと思います。戯言だと思い、見逃していただけると幸いです。
最初のテーマは、【目利き人】について。※目利き人を多数抱える会社を茶商とか製茶問屋とかいったりします。
お茶をみて、価格を決めていく目利き人の存在がこれからのキーになる。僕はそう思っています。価格を決めていくからこそ、繊細な気配りや広い視野。愛・美意識・ビジョンが必要。バランス感覚が必要。
だからこそ、目利き人を最初に取り上げてみたいと思います。
※茶師という言葉もありますが、概念が大きすぎるので今回は仕入れ・目利きに特化した目利き人についてお話したいと思います。
目利き人とは?
そう。まず初めに「目利き人」を説明します。目利き人とは、茶の品質をみて、価格をつけていく人。鑑定人なんです。
お茶の世界では、一般的に生産者がつくったものを茶市場などで入札する。もしくは相対取引と言って直接交渉で買い付けるのが一般的なのですが、その際に価格をつけて購入する人の事なんですね。
他人が作ったものに対して、価値つける。評価する。なんとオコガマシイ人たちでしょうか。(笑)。
※実際には、目利き人の裁量だけでなく、需給のバランス・マクロ要因でも価格は左右されますが。(笑)。
お茶は、嗜好品?日常品?
ところで、お茶は、ワインと同じような嗜好品でしょうか?それとも水と同じ日常品でしょうか?
僕は、嗜好品の要素を持ち合わせた、嗜好的日常品と表現しているのですが(ずるくてすみません。)日本茶には様々な側面があります。特別なお茶の時間に嗜好品として楽しむもの。お菓子と一緒に楽しむもの。食事と一緒にたっぷり日常品として飲むもの。等々。
とても、振れ幅があるんです。
僕は、この振れ幅こそが大切だと思っていて、この振れ幅が大きければ大きいほど、そのカテゴリーの魅力は高まる。そして目利き人の存在価値が高まると思っているですね。
もう少し、分かりやすく説明しますね。
例えば、魚。
高級な寿司店もあれば、スーパーに売っている魚肉ソーセージもある。これほどまでに振れ幅があるからこそ、目利き人が必要になる。すべてが魚肉ソーセージだったら、目利き人(美味しい魚を選ぶ能力・釣る能力)は必要でしょうか?
例えば、酒。
高級なワインもあれば、安価なものもある。すべてのお酒がただ酔っぱらえればよい。という飲料になってしまったら、お酒が好きな人は増えるでしょうか?減るでしょうか?そこにソムリエ(目利き人)は必要でしょうか?
例えば、肉。
最高級の和牛肉もあれば、スーパーで安価に販売されているソーセージもある。
例えば、野菜。例えば、米。例えば、洋菓子。和菓子。
例えば...。
振れ幅が全くない世界、嗜好的要素がない世界を想像すると、怖くなりますよね。逆に振れ幅があればあるほど面白い世界になる。
勿論、日常品の良さは沢山あって、僕も様々な加工食品にお世話になっております。ただ、すべてがそれだけしかない世界は…。作り手の技術や目利きのないモノばかりでは味気ない。
お茶は、嗜好品の要素を持ち合わせたものだからこそ、振れ幅が出る。世の中の役に立てると思うんです。日常品としての部分だけでは駄目だと思います。だからこそ、目利き人は必要だと思っているんですね。
もっと言うと目利き人が、お茶を見極め、振れ幅を作っていかなければいかないと思うんですね。そうじゃなきゃ存在意義がない。
僕の考える、本物の目利き人とは?
さて、いよいよ本題です。(笑)。
僕が目利き人について書いている理由は、2022年現在、本物の目利き人。つまり、お茶の価値を見極め、お茶の振れ幅を作り出す人が少なくなってきていると感じるからです。これは、茶業界にとって良くない。
僕が考える本物の目利き人、振れ幅を作る為の必須条件とは、
①良品も、そうでないものも適正に評価できる。改善点を指摘できる。
②前提条件に惑わされず、価値を見出し、仕入れることができる。
③行動力+愛+メタレベル>資金力。短期視点のお茶。長期視点のお茶でお茶をみれる。
④マーケットインとプロダクトアウト両方の感覚と経営センスを持ち合わせている。
だと思っています。
どの業界でも、資格や段数は持っていないけど、同業者の誰もが認める職人っていますよね。そういった人だと思います。勿論、看板としての資格は必要な部分もあると思いますがそれは①以前の脳力だけでも取得できちゃうんですね。だからこそ、それだけでは足りない。広い視野を持ち合わせている人が本物の目利き人だと思っています。
順に説明していきますね。
①良品も、そうでないものも適正に評価できる。改善点を指摘できる。
これは、目利き人と呼ばれる最低条件だと思っています。美味しいお茶だけを比べて、ただ美味しいというだけでは趣味の世界。良品も、そうでないものも評価できなければ、一般のお客様と一緒です。
さらに言えば、お茶をみて、その茶園の状態がイメージできる。こうすればもっと良くなるのでは。と仮説を立て、それを生産者に的確に伝え、改善することができる。とても難しいことですがここまで行かない人は、本物の目利き人とは呼べないと思っています。
②前提条件に惑わされず、価値を見出し、仕入れることができる。
次は、これ。とても重要だと思っています。お茶に限らず人は何かを購入する時に、そのものの価値だけでなく、ブランド価値も一緒に買っていると思うんですね。(※本来はそのものの価値にブランド価値も含まれるかとおもいますが、今回は分かりやすく説明する為にこのように記述しております。)
例えば、同じコーヒーを飲んでいてもホテルの喫茶室とコンビニでは支払うお金が違います。同じ、性能のパソコンでもアップルとそれ以外では価格が違ってきます。
一般的に、人はブランド価値も含めて、(もしくはブランド価値を認知のきっかけとして最終的に)そのプロダクトやサービスを購入していると思っています。
でも、お茶の目利き人はそれじゃいけないと思ってるんですね。
①まず、お茶そのものの価値(味わい)を評価する。
②その次にブランド価値を含むすべての価値を加味して購入する。
の順番が大切だと思っているんですね。認知に至るきっかけがお茶の品質であることが必要であると思っているんです。これは一般のお客様と逆の発想になります。
駄目だと思ってる目利き人(あくまで僕が)はこの順番が、一般のお客様と同じなんです。
京都の宇治産だからいいお茶だ→だから→購入しよう。
他の鹿児島の産地より知覧茶の方が知名度があるから売りやすい→だから→購入しよう。
単一農園の有名茶農家のお茶がお客様に受けそう→だから→購入しよう。
という順番なんです。これじゃ一般のお客様と一緒でしょ。この順番では振れ幅は生み出せないし、結果、美味しいお茶、美味しくないお茶関係なくブランドというオブラートに包んで売ることに繋がるんです。更にいえば、新しい農家さんを発見する。育つことができにくい状況が生まれるんですね。
だから僕は、
美味しいお茶で最高の品質だ。→しかも→京都の宇治茶だ→購入しよう。
美味しいお茶だ。焙煎してみたい。→しかも→安心な茶工場の資格を持っている→購入しよう。
美味しいお茶だ。→しかも→今流行りの水出し茶に向いている品種だ。単一農園で作ってる人が個性的。ストーリーが面白い→購入しよう。
の順番でないといけないと思うんですね。そうじゃないといくら美味しいお茶をつくっても有名産地以外の農家さんが評価されない。育たない。そうなると振れ幅が生まれない。
だからこそ、本物の目利き人には絶対的な舌や鼻の鍛錬が必要。美味しいお茶を見極めることがスタートになる。必然になるから。
前提条件だけで仕入れをするようでは論外。もう、茶市場やお茶の取引に来なくていい。(笑)。存在価値なし。私たちは、できた品質に対して前提条件を抜きにしてフラットに向き合わなければならばいと思うよ。
③行動力+愛+メタレベル>資金力。君は銀行に土下座するくらいの覚悟がある?(笑)。
さてさて、次のお話を致します。次は、資金力<行動力+愛+メタレベル。というお話です。
端的に言うと。お茶が好きな上に行動力(仕入れ・購入)がない人は、本物の目利き人にはなれない。ということになります。(急に体育会系ですみません。)詳しく説明いたしますね。
日本茶の取引というのは、1年間に消費する茶葉を、4月~5月の1か月で購入していかなければならないという先物取引になるんです。しかも一般的なスーパーや小売店で販売するお茶の量は1袋100g程度にもかかわらず、茶農家さんが製造する茶葉の量は100k~600kが1ロット。僕の会社でもその時期には毎日20t程度購入します。
そうなると必要になるのが資金。お金なんですね。(涙)。しかも日本茶の茶葉は高い。(涙)。
更に、このお茶は新茶時期の販売期間で売り切ることができるのか。それとも冬に売るのかの、短期で回収するのか、長期で回収するかの判断もしなければいけません。1か月後、このお茶はどうなるのか。半年後はどうなるのか。
常にメタレベルで自分をみて、お茶をみて仕入れる力が必要だと思っています。難しいですけどね。(笑)。
でも。僕は単純に目の前の美味しいお茶の価値をみて購入するという行動力がスタートになると思っていて、それを積み重ねたらメタレベルでお茶をみれるようになると思っています。仮に当てが外れてお茶が売れなかったとしても大丈夫。美味しいお茶であればきっと金融機関が貸してくれますよ。(笑)。真剣な気持ちで買ったお茶が美味しくないはずありません。(もちろん行き当たりばったりだと駄目。ある程度の能力は必要だと思いますが。(笑)。)
だから、美味しいお茶、価値のあるお茶を見つけたら即、仕入れる。購入する。
行動力+愛+メタレベル>資金力。
その行動力が美味しいお茶を集めれれるパワーにもなると思います。お茶に惚れて買いすぎるくらいでなければ本物の目利き力は身に付かないかな。とも思っています。
もはや、今の時代、資金力がなくても想いがあればクラウドファンディングでもなんでもすればいい。逆に資金力だけあってもそれ以外がなければ、本物の目利き人にはなれないと思っています。
お茶を仕入れる行動力とメタレベルで全体を見る力。本当に必要だと思っています。
④マーケットインとプロダクトアウトの両方の感覚と経営センスを持ち合わせている。
いよいよ、最後の条件。これが新たに目利き人2.0の時代には必要になってきた要素だと思っています。これがないと振れ幅や奥行きを作ることができなくなると思っています。
①良品も、そうでないものも適正に評価できる。改善点を指摘できる。
②前提条件に惑わされず、価値を見出し、仕入れることができる。
③行動力+愛+メタレベル>資金力
この上記3点は、目利き人の最低条件。これからはそれに加え、更に世の中を俯瞰してみる力が必要になると思っています。
どんな味わいが求められているのか?
どんなマーケットがあるのか?
このお茶はどんな特徴があるのか?だれが喜ぶのか?
この商品の品質はいいのか?優位性はあるのか?
そしてちゃんと利益を出せるのか?
というマーケットインとプロダクトアウト両方の感覚、そして経営感覚が必要になると思っています。
その為には、業界の事だけでなく、他の全ての事も勉強しなければなりません。そして世の中に求められているお茶を提供する。多種多様な要望に応えられるようにお茶の振れ幅を広げる。茶業界しか知らないなんてありえない。
世の中と、お茶の品質を同時に見極め、求めらている人に、求めらているお茶を提供で生きる人。そういった目利き人でなければいけないと、僕自身、そう思っています。
なぜ今、本物の目利き人が茶業界に必要だと感じるのか。
僕が、このテーマで書いた理由。それは、ここ数年の情勢で日本茶の供給体制に歪みが出てきていると感じているからです。特に近年はコロナ+ウクライナ情勢により、肥料・資材関係の高騰。工場を稼働する為の燃料関係も軒並み高騰しています。更に田舎であっても人財が不足しています。
こうしたことから、生産において不安定な時代は、今から数年間続いていくことが予想されます。
だからこそ、価値を評価するだけの従来の目利き人ではなく。先をみて価値を生み出していけるような目利き人が必要になると思っています。
あなたの作ったお茶は、これから〇〇という市場で必要だ。だから、一緒に生産体制を整えよう。という人が必要なんです。
そうじゃなきゃ。持たない。
君子は義に喩り小人は利に喩る。
君子は、「義」。すなわち「何をすべきか」を考える。
小人は、「利」。すなわち「何をしたら得か」を考える。
僕が大切にしている言葉の一つです。よく経営者の器以上に会社は大きくなれない。という話を聞きますが、それはお茶の目利きにおいてもそうだと感じます。目利き人も、まず初めに「何をすべきか」を考える人でなければいけないと思います。そうじゃなきゃ茶業界は大きくなれないと思います。
最後に。
これからの目利き人は、お茶を価値を見極めるだけ(目利き1.0)でなく、お茶の生産をより良くすることができること。そしてお茶の振れ幅を作っていける人。お茶で世の中をより良くできる人(目利き2.0)が必要。
従来の目利きは、全部AIでいいよ。(笑)。
器の大きい目利き人によって、日本茶に振れ幅や奥行きを作っていかなければならない。そういった目利き人がいなくなれば茶業は駄目になる。と強く感じた2022年でした。
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