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退職金制度廃止にみる、企業と個人のフェアな関係

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

※ 本記事は日経新聞連動テーマ企画「#退職金制度は必要ですか」への寄稿です。

これまでの自身のキャリアを振り返ると、学生ベンチャー、店頭市場(現ジャスダック)上場企業、自営業、米国ナスダック上場企業子会社と渡り歩いていますが、どれも退職金とは縁遠い世界でした(退職一時金はあった気がします)。確定拠出年金制度はあり、以前積み立てたものは個人版に移管していまも運用しています。

日本の退職金や確定給付年金はいわゆる終身雇用に紐付いており、世界的にみると大変めずらしい制度です。年功がベースになっているため、終身雇用が過去のものになった現在には合わない面もあり、国も見直しを検討しています。

自民党の甘利明税制調査会長は2日の日本経済新聞などのインタビューで、働き方や勤めた年数で税負担に差が出る所得税のしくみを改める考えを示した。勤めた期間が20年を超えると控除額が大きくなる退職金課税の見直しを検討課題にあげた。「日本企業の終身雇用や年功賃金もずいぶん変わってきた。働き方で損得が出るのは避けないといけない」と語った。

企業年金についても、確定拠出型が半数を超えています。厚労省の調査が5年に1度のため2年前の記事になりますが、現在でも過半数を超えているでしょう。

厚労省の就労条件総合調査では、1月1日時点で3697企業から回答を得た。企業年金の調査は5年に1度実施する。年金制度の形態を聞いたところ、2013年の前回調査と比べられる条件で確定拠出が50.6%を占め、約15ポイント上昇した。企業があらかじめ約束した利回りで運用する確定給付型は45.0%と、約9ポイント上昇したが、確定拠出が大きく上回った。

これは大企業だけの話ではなく、確定拠出型年金の導入企業の80%以上が中小企業です。これまでは業界ごとに厚生年金基金制度をつくり、企業年金の一部としてきました。この基金の解散が続いているため、移行が進んでいます。

これまでの退職金制度は長い間勤め上げた年功に報いるという側面がありました。つまり、確定給付という形で最初に約束した金額を支払うことが、その証明にもなっていました。一方で、強い言い方をすれば「人質」の要素もありました。言うことを聞かないと将来困るぞ、というやつです。退職一時金の現金準備がない中小企業などが倒産した場合は、退職金がなにも出ないということもありました。そう考えると、払った分を自分で運用できる制度はポジティブに見えてきます。

現在では終身雇用自体が前提ではなくなり、確定拠出への移行により企業と個人の「約束」のシステムが変化しています。70歳まで働くことが目前に迫る中、会社任せにしていたものを自分に取り戻す必要があります。

今でも日本では中高年の給料が高すぎると見る企業が多く、右肩上がりの給与体系を維持することは難しくなっています。実際、13年の法改正後も多くの企業は60歳になった従業員にはいったん退職してもらい、その後に再雇用する手法をとっています。その場合、定年後の給料は3~4割も下がることが珍しくありません。退職金についても今後、廃止する企業が増えていくでしょう。

中高年以上の待遇が以前より悪くなることは、若年層にとっても長期雇用のインセンティブがなくなることを意味します。1つの会社に生涯勤め続けるのではなく、転職を繰り返しながらキャリアを高めていくことが選択肢としてより一般的になるでしょう。

自身のキャリア形成についても、より主体的に考えていく必要があるでしょう。また、社内に閉じた同質的なコミュニティの外に、意識的に出ていくことも必要です。社会学では「弱い紐帯の強み」と言っていますが、仕事やキャリアに活かせる情報は普段身近にいる友人よりも、そこまで関係の濃くない知人からもたらされることが多いそうです。そのためにも、ネットワーク広げる意識も、これまで以上に大切になってくると思います。


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タイトル画像提供:CORA / PIXTA(ピクスタ)

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