見出し画像

短編小説 #4 森の神殿 I 夢の回廊

森に隠れた神殿は石でできている。石肌は見えているが全面に苔が生していて、大きなツル木が輪郭を隠していた

中央に開けた場所があり、水の止まった噴水が見える
その奥の建物に輝くものがあった

建物の前には金の糸で刺繍をあしらった白いローブをまとった聖女がいる
彼女は先端に斧の様な、とても大きな刃物がついた槍を持っていた
彼女は僕を見ると、突然僕に向かって槍を薙ぎ払った!!
彼女はとてつも無いパワーだった
虎の姿をした僕を上まっていた
僕は左首から胸までを強打し、血飛沫が上がった

僕は切り飛ばされ、地面に叩きつけられた
身の裂ける様な、焼ける様な痛みが僕を襲った
幸い生きていてなんとか息をしていた
胸を押さえると、生温い血がどろっと手に付いた
しかし流血は止まっていた
身体を注意深く確認すると、損傷は思いのほか少なく、痛みを伴いながらもなんとか立てるほどだ

聖女はその回復ぶりに驚いていた
強打した胸は人形が守ってくれた。しかし、木でできた人形は亀裂が入り欠けてしまっていた!
僕は人形を大切に抱えながら
「どうしてこんな事をしたんだ」
聖女に向かって言った
「あなたは封印を解いたんだ」
彼女は答えた
「胸にしまった女は悪だ。この神殿で悪さをしたのだ」
「だからあの大樹に封印した。それをお前は解いたのだ」
「悪さとはなんだ」僕は聖女に問いた
「あの石を盗もうとしたんだ」
聖女は奥の輝く石を差した
「あれは〇〇〇〇〇〇」
僕は聖女に言い返した
自分の発言だが自分でなにを言い放ったのかは分からない
「お前は何者だ!」聖女は問いた
僕は何も言わず聖女をただ見つめた
「お前は。!」「お前は。。」
「。。。好きにすればいい。。。」
聖女は諦めたのか、何かを悟ったのか、僕に道を開けてくれた

僕は無言で彼女に深々と頭を下げて、神殿の中へ入って行った
中は冷たく暗かったが、数本の松明の光と、石自身の緑色の光のおかげで空間の大きさは把握できた
神殿は大きな石が規則正しく重なり合って出来ていた
神殿の壁を形成している石も僅かに緑色をしていた

光る石の前にやってきた。緑色に輝き波を帯びている。発光していると感じたが、松明の光に反射しているだけの様にも思えた
光る石を手に持つと、ずしりと重い。掌ほどある石は丁寧に両手に抱えるようにして持った。

僕は振り返り、神殿を後にすると、聖女はなんと石像に姿を変えていた
それは犬の顔をした人型の石像で、アヌビスを彷彿とさせた
石像は苔やツル木が生えていて、とても先程まで動いていたとは思えない

そう思えば、僕の身体の痛みもいつ間にか消えていた
傷口をさすると、それは跡形もなく消えていて、飛んだ血の跡だけが僅かに残っていただけだった
しかし、人形が負った傷跡はそのままだった
僕は何か狐につままれた様な感覚だった
この神殿を後にした。

この星では色々な事が起こり過ぎた
僕は頭と気持ちを整理するため、緑の星を抜け、再び宇宙へと戻った

宇宙の闇は僕を受け入れてくれている様に感じた
この闇はとても広大だが、僕の心を落ち着かせるにはちょうど良かった
この闇には4つの星が浮いている

僕は緑の星で起こった出来事を整理しようとした
僕は胸にしまった人形を取り出した
あの少女は誰だったのだろうか
彼女の安堵した表情を思い出す
それに、あの言葉。

片手には緑色に光る石がある
聖女はこの石を守っていた
どうして僕を神殿に通したのだろうか
この光る石は、いったい何なのだろうか
考えても分からなかった

僕の中のトラは知っているのではないだろうか
しかし、トラは何も語らなかった
トラは何も答えない
その代わりか、僕は直感が冴える様に感じていた
骨になった少女を抱きかかえたのも、光る石を持ち出したのも、咄嗟の判断ではあったが迷いのない行動だった

そして今、また気になる物を感じていた
それは橙色に光る星だ。この星の周りのガスは明るいベールの様に美しい光を作っていた
「次はこの星だな」
僕は橙色に光る星を目指して動き始めた

この記事が参加している募集

宇宙SF

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?